たとえ番でないとしても

豆狸

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18・たとえ真実ではないとしても

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 春に嫁いだカサヴェテス竜王国に夏が来ました。
 前のときは離宮に閉じ籠っていましたが、今回はソティリオス様を始めとする近衛騎士隊の皆様と王都周辺の農地を回っています。
 私の闇の魔力を高め、魔導の腕を磨くためです。

 ──あの日、翌朝の食事の注文を本宮殿の厨房へ伝えに行ったソティリオス様は竜王ニコラオス陛下とともに離宮へ戻っていらっしゃいました。
 精霊王様は竜王陛下に未来視さきみのことを伝えてらっしゃらなかったのです。ご自身が世界を滅ぼすかもしれないなんて、幸せになって欲しいと願う相手に言えるはずがありませんものね。
 私は陛下に精霊王様と示し合わせていた話を語りました。

 精霊王様は近年の魔物の活発化を憂いている。
 魔物の活発化は、世界の魔力が強まっているからだ。
 強まる魔力を鎮める方法を求めて王宮へ来たら私ディアナを見つけた。精霊王様を師として学べば、私は強まる魔力を鎮めることが出来るようになる。そうしたら魔物による被害が減少することだろう。

 というものです。
 私が竜王陛下に対抗出来るほどの闇の魔力を持っているということは伏せていますが、嘘をついたわけではありません。
 世界のさまざまな要素は互いに影響し合っています。魔物を活発化させている強い魔力を鎮めれば、竜王陛下の魔力もこれ以上昂らないかもしれません。

 精霊王様によると、陛下の魔力は三年前の即位の際はこれほどではなかったそうです。
 竜王陛下は、即位から一年ほど経ったとき、サギニ様のご実家であるメンダシウム男爵領で起こった魔物の大暴走スタンピードへ救援に行かれて大怪我を負われたと聞きます。
 ヒト族も一度折れた骨は前より丈夫になると言われていますが、竜人族もそうなのです。回復力が高いからヒト族のように何ヶ月もかからずに治る上に、体も魔力もそれ以前より強くなるのです。

『あそこまで魔力が強くなるとは、どれほどの怪我をしたことか。我が子が生まれたばかりで気を配れなかったが、少しは様子を見に行っておけば良かった』

 竜王陛下の魔力の話をなさったとき、精霊王様はそう言って溜息をついていました。
 精霊王様は聖域の魔力を受けて特別な存在になられた狼なのだそうです。
 奥方様も精霊王様と同じように特別な存在になっていて、普通の狼とは違っています。高まり続ける世界の魔力も受け入れられます。けれどお子様達は特別な存在になり切っていらっしゃらないので、奥方様のお乳経由でないと高まる世界の魔力を受け入れられず、そのため乳離れが遅れているらしいのです。

 お子様達が乳離れしてなんでも食べられるようになったら、私にも紹介してくださるといいます。
 人間を聖域に招き入れることは出来ないので、それまでは会わせられないとのことです。
 ……お会いするときは、たくさんお肉を用意しておいたほうが良いですね。精霊王様が大好きな蜂蜜たっぷりのパンケーキのほうが良いでしょうか。
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