たとえ番でないとしても

豆狸

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15・たとえ精霊王様からの頼みごとであっても

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「……精霊王様。申し訳ございません。頼みごとをお聞きするとは申し上げましたが、それは……それだけは出来ません」

 精霊王様の頼みを聞いた私は、全身から血の気が引くのを感じました。
 だって精霊王様はおっしゃったのです。
 竜王ニコラオス陛下を殺せ、と──

『べつに今すぐというわけではない。ニコラオスが世界を滅ぼすものとなったら、の話だ。光の魔力の強いニコラオスを倒せるのは、闇の魔力の強いそなたしかおらんのだ。もちろんニコラオスが世界を滅ぼすものとならねば、そなたはなにもする必要はない。吾にとってニコラオスは愛し子だ。出来るなら幸せになって欲しいと願っている』

 精霊王様はカサヴェテス竜王国代々の王族に加護を与え、愛し子として慈しんできたのだといいます。
 竜王陛下にも先王弟であるガヴラス大公殿下にも、大公家の兄弟であるソティリオス様とオレステス様にも生まれたときに加護を授けたのだそうです。
 陛下には三年前の即位の際にも改めて祝福を授けたのだとおっしゃいました。

「でしたら、なぜ……竜王ニコラオス陛下が世界を滅ぼすものとなるとは、どういうことなのでしょうか?」

 私の頭の隅に、前の最後で見た白い竜が蘇ります。辺りを覆う吹雪を吐き続ける、吹雪と溶け合った白い竜でした。
 黄金色でも白銀色でもない、ただ真白い、カサヴェテス竜王国を見下ろす北の山脈の化身のような白でした。
 ああ、でも、吹雪の中に感じた懐かしい温もりは、巨竜姿で暴走していた陛下が漏らした魔力を含んだ吐息に似ていたような気がします。いいえ、そんなことがあるはずありません。本当に時が戻っているのだとしたら、それは陛下のお命を救うためです。私があの方を倒すためではありません!

『今朝、我が子が吾に未来を見せてくれたのだ。その未来で、愛しい妻と我が子達は吹雪を吹く白い竜に殺されてしまった』

 精霊王様の言葉に胸が飛び跳ねます。
 私が見た白い竜のことはまだ言葉に出してはいません。
 どうして精霊王様が白い竜の話をなさるのでしょう。

『その吹雪は普通の氷雪で出来た吹雪とは違う、純粋な光の魔力だった。白く輝いてすべてを飲み込み、強い力で破壊して自分と同じものにしてしまう。世界は異なるものが存在するから世界なのだ。すべてが同じということは、なにもないのと同じことだ。熱は違うものが触れ合うことで生まれる。すべてが同じになれば熱はなくなり凍りつく』

 精霊王様はその白い竜に、愛し子である竜王陛下の魔力の匂いを感じたとおっしゃいます。……私が感じたのと同じものでしょうか。
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