14 / 60
14・たとえ邪悪と蔑まれる闇の魔力であっても
しおりを挟む
『それでは頼みごとを話させてもらおうか』
「……はい」
食事が終わり、ソティリオス様は見回りのため建物の外へ出て行かれました。
ソティリオス様と任務を交代したオレステス様は、空の食器を持って本宮殿へと戻っていきます。
談話室に残っているのは私と精霊王様だけです。長椅子に座った精霊王様の前に、私が膝をついた姿勢で向き合っています。
『ソティリオスからはそなたを大切に思っている匂いがするが、人間の心は簡単なことで変わる』
魔導を使われたのでしょうか。
精霊王様の紫色の瞳が銀の煌めきを放ち、黒い毛皮がふわりと浮かびました。
談話室とそれ以外が切り離されたのがわかります。これは……
「結界を張られたのですか?」
『うむ。よくわかったな。今の人間は結界の魔導など忘れておるだろうに』
「それは……」
前のとき、同じもので封じられていたからです。
とはいうものの、少しだけ違う気がしていました。談話室だけか離宮とその周辺も含んでいるかという規模の大きさもありますが、結界であることは同じに感じるのに、なにかが違うのです。
幼いころ、パルミエリ辺境伯家でお母様と従姉に炎の魔導を見せていただいたときに感じた違いと似ている気がします。同じ魔導だけれど行使した存在が異なっているのでしょうか。
『もしや自分で結界を張ったことがあるのか?』
「わ、私には魔導の才がありませんので。魔力もほとんどないと言われています」
精霊王様が驚いたような顔をなさいます。
『人間はそこまで忘れているのか! 確かに昔から目視しやすい光の魔力に傾倒していると感じてはいたが、そなたほどの闇の魔力の持ち主を見て魔力がほとんどないと判断するとは!』
「私は闇の魔力を持っているのですか?」
そうではないかと噂されていたことはあります。
髪の黒色も瞳の紫色も闇の色だと言われているのです。
お会いしたのは初めてですけれど、私は精霊王様を敬愛していました。かつてこの方が竜人族の方々を受け入れてくださったから、私は竜王ニコラオス陛下とお会い出来たのですもの。精霊王様と同じ色を悪く思いたくはないのですが──
「……生きるものを弱らせ死に至らせる邪悪な闇の魔力……」
『邪悪?』
精霊王様は首を傾げました。
『人間の善とか悪とかはよくわからんな。夜は闇だが、なければ困るだろう。一日中眩しければ眠れはしない。力が弱らず強くなっていくだけでは、最後にはすべてを破壊してしまう。死がなければ、この世界は生き物で溢れて結果滅びる。闇の魔力はこの世に必要だから存在しているのだ』
「……」
『そなた?……あー、なんと言ったかな?』
精霊王様のお言葉に、さまざまな感情が渦巻いて胸がいっぱいになり、いつしか涙ぐんでいた私は、名前を聞かれて微笑みました。
夕食の前に自己紹介しようとしたのですが、鶏肉のシチューを前に涎を堪えて震えていらっしゃったので食事を先にしたのです。
森から離宮へ戻るときも、とんでもない速さで走っていかれるので、私はもちろんオレステス様も何度か置いて行かれてしまいました。きっと精霊王様は、鶏肉がとてもお好きなのでしょう。
「ディアナです、精霊王様」
『ディアナか』
少し身を乗り出して、精霊王様が私と額を合わせます。
『吾はキノドンダスだ。ディアナよ、そなたの力はこの世界に必要なものだ。吾もそなたを必要としている。吾の頼みを聞いてくれるか?』
「はい、精霊王様」
合わさった額から、なにか温かいものが流れてくるような気がしました。
「……はい」
食事が終わり、ソティリオス様は見回りのため建物の外へ出て行かれました。
ソティリオス様と任務を交代したオレステス様は、空の食器を持って本宮殿へと戻っていきます。
談話室に残っているのは私と精霊王様だけです。長椅子に座った精霊王様の前に、私が膝をついた姿勢で向き合っています。
『ソティリオスからはそなたを大切に思っている匂いがするが、人間の心は簡単なことで変わる』
魔導を使われたのでしょうか。
精霊王様の紫色の瞳が銀の煌めきを放ち、黒い毛皮がふわりと浮かびました。
談話室とそれ以外が切り離されたのがわかります。これは……
「結界を張られたのですか?」
『うむ。よくわかったな。今の人間は結界の魔導など忘れておるだろうに』
「それは……」
前のとき、同じもので封じられていたからです。
とはいうものの、少しだけ違う気がしていました。談話室だけか離宮とその周辺も含んでいるかという規模の大きさもありますが、結界であることは同じに感じるのに、なにかが違うのです。
幼いころ、パルミエリ辺境伯家でお母様と従姉に炎の魔導を見せていただいたときに感じた違いと似ている気がします。同じ魔導だけれど行使した存在が異なっているのでしょうか。
『もしや自分で結界を張ったことがあるのか?』
「わ、私には魔導の才がありませんので。魔力もほとんどないと言われています」
精霊王様が驚いたような顔をなさいます。
『人間はそこまで忘れているのか! 確かに昔から目視しやすい光の魔力に傾倒していると感じてはいたが、そなたほどの闇の魔力の持ち主を見て魔力がほとんどないと判断するとは!』
「私は闇の魔力を持っているのですか?」
そうではないかと噂されていたことはあります。
髪の黒色も瞳の紫色も闇の色だと言われているのです。
お会いしたのは初めてですけれど、私は精霊王様を敬愛していました。かつてこの方が竜人族の方々を受け入れてくださったから、私は竜王ニコラオス陛下とお会い出来たのですもの。精霊王様と同じ色を悪く思いたくはないのですが──
「……生きるものを弱らせ死に至らせる邪悪な闇の魔力……」
『邪悪?』
精霊王様は首を傾げました。
『人間の善とか悪とかはよくわからんな。夜は闇だが、なければ困るだろう。一日中眩しければ眠れはしない。力が弱らず強くなっていくだけでは、最後にはすべてを破壊してしまう。死がなければ、この世界は生き物で溢れて結果滅びる。闇の魔力はこの世に必要だから存在しているのだ』
「……」
『そなた?……あー、なんと言ったかな?』
精霊王様のお言葉に、さまざまな感情が渦巻いて胸がいっぱいになり、いつしか涙ぐんでいた私は、名前を聞かれて微笑みました。
夕食の前に自己紹介しようとしたのですが、鶏肉のシチューを前に涎を堪えて震えていらっしゃったので食事を先にしたのです。
森から離宮へ戻るときも、とんでもない速さで走っていかれるので、私はもちろんオレステス様も何度か置いて行かれてしまいました。きっと精霊王様は、鶏肉がとてもお好きなのでしょう。
「ディアナです、精霊王様」
『ディアナか』
少し身を乗り出して、精霊王様が私と額を合わせます。
『吾はキノドンダスだ。ディアナよ、そなたの力はこの世界に必要なものだ。吾もそなたを必要としている。吾の頼みを聞いてくれるか?』
「はい、精霊王様」
合わさった額から、なにか温かいものが流れてくるような気がしました。
136
お気に入りに追加
4,534
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】愛してました、たぶん
たろ
恋愛
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける
堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」
王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。
クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。
せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。
キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。
クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。
卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。
目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。
淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。
そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた
ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。
夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。
令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。
三話完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる