たとえ番でないとしても

豆狸

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8・たとえ暴走した黄金色の巨竜だとしても

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「ソティリオス様」
「なんでしょう、妃殿下」
「まだ拝見したことがないので信じていただけないとは思いますが、私は鱗を纏ったあなた方の姿を不快には感じない気がします」

 実際は前のとき、暴走する竜王ニコラオス陛下から逃げ惑う近衛騎士達が恐怖から鱗に覆われている姿を見ています。
 ヒト族のために作られた金属製の鎧は、魔力の鱗に貫かれてボロボロになっていましたっけ。
 私は、少しも怖いとは思いませんでした。彼らが怯える暴走した黄金色の巨竜ですら愛しく感じていたのですもの。

 でもそれは言えません。
 いつか竜王陛下をお救いするために助力をお願いするかもしれませんが、時間が戻ったなどと今話しても信用してもらえないでしょう。
 おかしなことを言うと、前以上に嫌われてしまうかもしれません。

「ほら、迎えに来てくださったあなたの姿を見たときの私も怯えていなかったでしょう?」

 ひと口で食べられてしまいそうな白銀色の巨竜を前にしても、私は怯えることはありませんでした。
 自分でも不思議でした。
 八年の牢獄生活で心が凍りついてしまって、恐怖を感じなくなっていたのかと思っていました。

 でも……でもきっと、竜王陛下が私のつがいだから、あの方と同じ血脈の巨竜に怯えなかったのです。
 ええ、わかっています。私は陛下のつがいではありません。
 それでも私にとってはあの方がつがいなのです。

「……そうですね。それでは、これから妃殿下を護衛する近衛騎士は全身鎧ではなく部分鎧を着用するということでよろしいでしょうか」
「良いのですか? せっかくの気配りを否定するようなことを申し上げてすみませんでした」
「いいえ。妃殿下のご意見を聞きもしない気配りなど、ただの押し付けです。今夜からはぐっすりとお休みください」
「ありがとうございます」
「……」
「ソティリオス様?」

 前のときはいつも私に侮蔑の視線を投げかけていた近衛騎士隊長は、二度目の今回はくるくると表情を変えています。
 今はなんだか眩しそうな顔をして、ぼんやりと私を見つめていました。
 夜の間見回っていてくれていたので寝不足なのかもしれません。光の魔力の強い竜人族は夜が苦手だと言いますものね。

「あ、いえ、なんでもありません。お茶をありがとうございました。妃殿下のお食事も終わったようですので、食器も厨房へ戻しておきます」
「近衛騎士隊長に雑事を任せてしまって申し訳ありません」
「いいえ。リナルディ王国から来てくださった大切な妃殿下のためですから」

 最後に騎士の礼をして、ソティリオス様は離宮を出て行きました。
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