6 / 60
6・たとえ届かない想いだとしても
しおりを挟む
「あ、普通にお茶ですね」
近衛騎士隊の副隊長にしてご自身の弟でもあるオレステス様と監視を交代した後、その足で朝食のパンケーキを持ってきてくださったソティリオス様に香草茶を振る舞うと、ひと口飲んでそうおっしゃいました。
今は春。
使ったのは清々しい香りが特徴的な麝香草です。
まだリナルディ王国のお城で暮らしていたころ、風邪のひき初めで喉が痛いときに母が乾燥させたものでお茶を淹れてくれていましたっけ。
今回は庭師が来てくれるでしょうか。
来てもらえなかったら、夏の前に麝香草の枝を刈り込まなければいけませんね。枝が茂り過ぎると、株が蒸れて葉が枯れてしまいます。なんでも多ければ良いというものではないのです。
「少し刺激があるのは大丈夫ですか?」
「はい、俺はこの味が好きですね。さっぱりします」
ソティリオス様は竜王ニコラオス陛下とは違い、白銀色の髪と白銀色の瞳をお持ちです。
だからといって真っ白というわけではなく、光の反射によっては暗い色に見えます。竜王陛下ほどではないものの、強い魔力をお持ちなことを示している髪と瞳です。
竜人族が竜に変じるといっても、竜王国のすべての民が翼を持って空を飛ぶ巨竜になれるわけではありません。王族以外は全身が鱗に覆われて二足歩行をするトカゲ姿になるのが限界です。それでもヒト族などと比べると遥かに強く、怪我をしたときの回復力も高いのだそうです。
今のカサヴェテス竜王国で巨竜に変じられるのは、竜王陛下とソティリオス様だけです。
白銀色の巨竜に変じてリナルディ王国から私を連れてきてくださったのは、先王陛下の弟君であるガヴラス大公殿下のご子息で陛下の従弟に当たるソティリオス様でした。
竜王陛下が巨竜に変じたお姿は、秋に暴走なさっていたときに見たことがあります。陽光に照らされた麝香草のお茶が波打って放つ黄金色の煌めきに、あのお姿を思い出しました。
……どうして私は竜王ニコラオス陛下を想わずにはいられないのでしょう。
自分でも制御出来ずに荒れ狂うこの身勝手な感情が番だから生じるものではないのなら、一体なんだというのでしょう。
いいえ、あの日気づいたのではありませんか。私の番が竜王陛下であったとしても、陛下の番は私ではないのではないかと。そういうこともあるのでしょう。受け入れなくてはいけません。
「妃殿下、朝食の件では失礼いたしました。庭師や掃除係以外の使用人はいらないとのことですが、ほかになにかご不自由を感じてらっしゃることはございませんか?」
「特になにも……あ」
「なにかございますか?」
今回のソティリオス様は、心から私を思いやってくれているように見えます。
「あの……」
私は、恐る恐るその言葉を口にしました。
近衛騎士隊の副隊長にしてご自身の弟でもあるオレステス様と監視を交代した後、その足で朝食のパンケーキを持ってきてくださったソティリオス様に香草茶を振る舞うと、ひと口飲んでそうおっしゃいました。
今は春。
使ったのは清々しい香りが特徴的な麝香草です。
まだリナルディ王国のお城で暮らしていたころ、風邪のひき初めで喉が痛いときに母が乾燥させたものでお茶を淹れてくれていましたっけ。
今回は庭師が来てくれるでしょうか。
来てもらえなかったら、夏の前に麝香草の枝を刈り込まなければいけませんね。枝が茂り過ぎると、株が蒸れて葉が枯れてしまいます。なんでも多ければ良いというものではないのです。
「少し刺激があるのは大丈夫ですか?」
「はい、俺はこの味が好きですね。さっぱりします」
ソティリオス様は竜王ニコラオス陛下とは違い、白銀色の髪と白銀色の瞳をお持ちです。
だからといって真っ白というわけではなく、光の反射によっては暗い色に見えます。竜王陛下ほどではないものの、強い魔力をお持ちなことを示している髪と瞳です。
竜人族が竜に変じるといっても、竜王国のすべての民が翼を持って空を飛ぶ巨竜になれるわけではありません。王族以外は全身が鱗に覆われて二足歩行をするトカゲ姿になるのが限界です。それでもヒト族などと比べると遥かに強く、怪我をしたときの回復力も高いのだそうです。
今のカサヴェテス竜王国で巨竜に変じられるのは、竜王陛下とソティリオス様だけです。
白銀色の巨竜に変じてリナルディ王国から私を連れてきてくださったのは、先王陛下の弟君であるガヴラス大公殿下のご子息で陛下の従弟に当たるソティリオス様でした。
竜王陛下が巨竜に変じたお姿は、秋に暴走なさっていたときに見たことがあります。陽光に照らされた麝香草のお茶が波打って放つ黄金色の煌めきに、あのお姿を思い出しました。
……どうして私は竜王ニコラオス陛下を想わずにはいられないのでしょう。
自分でも制御出来ずに荒れ狂うこの身勝手な感情が番だから生じるものではないのなら、一体なんだというのでしょう。
いいえ、あの日気づいたのではありませんか。私の番が竜王陛下であったとしても、陛下の番は私ではないのではないかと。そういうこともあるのでしょう。受け入れなくてはいけません。
「妃殿下、朝食の件では失礼いたしました。庭師や掃除係以外の使用人はいらないとのことですが、ほかになにかご不自由を感じてらっしゃることはございませんか?」
「特になにも……あ」
「なにかございますか?」
今回のソティリオス様は、心から私を思いやってくれているように見えます。
「あの……」
私は、恐る恐るその言葉を口にしました。
118
お気に入りに追加
4,534
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】愛してました、たぶん
たろ
恋愛
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける
堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」
王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。
クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。
せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。
キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。
クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。
卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。
目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。
淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。
そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる