たとえ番でないとしても

豆狸

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5・たとえ朝食が運ばれてこなくても

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 竜王国に嫁いで二度目の初めての朝、目覚めてまず私は離宮中庭の噴水から水を汲み食べられそうな草を引き抜きました。

「なにをなさっているのですか、妃殿下」

 あらまあ、妃殿下と呼んでくださるのですね。
 護衛という名の監視、竜王ニコラオス陛下の従弟である近衛騎士隊長のソティリオス様が怪訝そうに見つめてきます。
 夜勤の任務が終わったと報告に来てくださったのです。前にはないことでした。

「草のスープを作って朝ご飯にします。ここは前にいた牢と違って、刃物も火も使えるからありがたいですわ」
「草のスープ? 朝食なら王宮から……いや、まだ来ていませんね」
「ヒト族の女のために用意する食事などないのでしょう」
「……」

 護衛という名の監視は交代でやって来ますが、世話をしてくれるメイドはいません。
 前回もそうでしたし、牢でも自分のことは自分でしていました。
 脱獄して冒険の旅へ出ようと言って、お母様が日常生活に必要なことを教えてくれたのです。リナルディ王国の辺境伯令嬢だったお母様は、若いころ身分を隠して冒険者をしていた逞しい女性でした。自分が愛されていると思い込んでいた愚かな私は、いつかお父様がお母様にかけられた冤罪を解いて迎えに来てくれると信じて誘いを断ってしまいましたが、一緒に脱獄していたら今ごろはどうなっていたのでしょうか。

「……お待ちください、妃殿下。直に俺の交代時間です。次のものに護衛を任せたら、王宮から朝食をお持ちします」
「無理をしなくて良いですよ。草のスープも美味しいものです」
「いいえ! 誇り高い竜人族が、たとえつがいでないとはいえ他国から嫁いで来てくださった女性に食事を出さないなんて恥ずかしい限りです。ご用意させてください、お願いします」
「わかりました。でも……お茶は自分で淹れて飲んでもよろしいですか?」
「……お茶も草ですか?」
「草です」

 王宮内の離宮なのですから、私への感情に関わらず以前から整えられていました。
 庭に生えているのは雑草ではなく季節ごとに色づく花と香りの良い香草です。
 そうでなければ、竜王陛下のつがいと言い張ったことでカサヴェテス竜王国中の竜人族に嫌われた私は一ヶ月も生き延びられなかったでしょう。もしそうなっていたら、祖国のリナルディ王国はどうしたのでしょうか? 内心はどうあれ王女を殺したと糾弾して、竜王国に攻め込むか有利な条件でなんらかの契約を結んでいたかもしれませんね。

 前回の私はそんなことまで考えることはありませんでした。
 ただ竜王ニコラオス陛下への想いを募らせ、どうしてだれもわかってくれないのかと怒り狂い、サギニ様をニセのつがいと罵って暴れていました。
 一度死んで時間が戻ったから、やっと冷静に状況を見ることが出来るようになったのです。とはいえ、竜王陛下が私のつがいだと叫ぶ心だけは鎮められていないのですが。
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