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3・たとえ世界が終わったとしても
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秋のある日、青い空に大きな影がかかりました。
黄金色に輝く巨竜、私の番、竜王ニコラオス陛下です。
カサヴェテス竜王国内で魔物の大暴走が連続発生しているので、休む間もなく救援に向かわれているという話は聞いていました。私の情報源は常に監視の近衛騎士達の会話です。お母様と牢にいたときも門番達の会話は貴重な情報源でしたっけ。
私をこの国に連れて来た白銀色の竜よりも遥かに大きな黄金色の巨竜が、離宮を囲む森を潰して降り立ちました。
暴走なさっていると口々に叫んで、護衛の近衛騎士達が去っていきます。恐怖のせいか、全身に魔力の鱗を纏っています。
確かに竜王陛下は理性を失っているようです。まるで変じた竜人族ではなく恐ろしい魔物の竜のようです。だけど、少しも怖くはありません。
そっと手を伸ばして触れると、竜王陛下は普段の人間の姿にお戻りになりました。
黄金色の髪に黄金色の瞳。
美しく凛々しい私の番、初めて会った瞬間に運命を感じた愛しい方。彼はやっと私に微笑んでくださいました。よく通る涼やかな声が言いました。
──ありがとう、サギニ。私の愛しい番。
私はその場に崩れ落ちました。
私はディアナです。リナルディ王国から嫁いできた王女です。黒い髪に紫の瞳、不貞の罪を着せられた母とともに牢で暮らしてきました。
私の番は竜王ニコラオス陛下です。初めて会ったときにわかりました。心と体が叫ぶのです。でも……竜王陛下の番は私ではないのかもしれません。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
竜王ニコラオス陛下を暴走から解放したのは私ではないそうです。
私は竜王陛下の寵愛を求めて、彼を罠にかけて暴走させ、自分で癒して見せたのだそうです。
魔導の才のない私が、どうすればそんなことが出来るのでしょうか。あの日まで半年、お顔を見ることもなかったというのに。
日々は変わりません。
騒々しい監視の近衛騎士達に見張られながら、草を食べて水を飲みます。
竜王陛下を求める心は消えないのに会いたいとは思いません。彼の笑顔を思い出すと涙が止まりません。彼の声が耳に蘇ると心が凍りつきます。そこは変わりました。
冬が来ました。
冬には珍しい魔物の大暴走が発生して、竜王陛下はお亡くなりになりました。それも私のせいだと言われているのでしょうか。
もちろん陛下の葬儀に出席することは出来ませんでした。カサヴェテス竜王国中に響き渡る弔いの鐘を聞きながら涙するだけでした。
監視の近衛騎士達さえ離宮に来なくなりました。
どうやら私はこの場所に閉じ込められてしまったようです。離宮を包む森のある地点から外に出られないのです。
結界でしょうか。伝説で聞いたことはありますが、実在するとは思っていませんでした。魔力の強い竜人族ならではの魔導なのでしょう。
いつしか結界の外は真っ白に変わっていました。
私には空すら見せてもらえないようです。……愛しい番の竜王陛下と同じ黄金色の太陽が輝く空さえも。
結界の向こうは白いだけでなく、なにかが渦巻いているようにも見えました。吹雪なのでしょうか。カサヴェテス竜王国を見下ろす真白き北の山脈から押し寄せてきた雪崩なのかもしれません。
結界で遮られていても、寒さは伝わってきます。
ただでさえ竜王陛下に押し潰されて枯れていた森が、どんどんと朽ちていきます。
噴水の水面に張った氷を割って水を飲む日々です。食べる草もありません。何日生き延びていたでしょう。わかりません、空は真っ白で昼も夜もないのです。
意識が消える寸前に、結界が消えたのがわかりました。
白く渦巻くものが流れ込んできます。やはり吹雪のようです。冷たい……とても冷たくて凍えていきます。だけど、どこか懐かしい温もりがあるような気もします。
遠くに吹雪を吐き続ける、吹雪と溶け合った白い巨竜が見えたような気がしました。
近衛騎士隊長の白銀色とは違います。もちろん竜王陛下の黄金色ではありません。
私は渦に飲み込まれて行きました。
──そして、世界が終わったのです。
黄金色に輝く巨竜、私の番、竜王ニコラオス陛下です。
カサヴェテス竜王国内で魔物の大暴走が連続発生しているので、休む間もなく救援に向かわれているという話は聞いていました。私の情報源は常に監視の近衛騎士達の会話です。お母様と牢にいたときも門番達の会話は貴重な情報源でしたっけ。
私をこの国に連れて来た白銀色の竜よりも遥かに大きな黄金色の巨竜が、離宮を囲む森を潰して降り立ちました。
暴走なさっていると口々に叫んで、護衛の近衛騎士達が去っていきます。恐怖のせいか、全身に魔力の鱗を纏っています。
確かに竜王陛下は理性を失っているようです。まるで変じた竜人族ではなく恐ろしい魔物の竜のようです。だけど、少しも怖くはありません。
そっと手を伸ばして触れると、竜王陛下は普段の人間の姿にお戻りになりました。
黄金色の髪に黄金色の瞳。
美しく凛々しい私の番、初めて会った瞬間に運命を感じた愛しい方。彼はやっと私に微笑んでくださいました。よく通る涼やかな声が言いました。
──ありがとう、サギニ。私の愛しい番。
私はその場に崩れ落ちました。
私はディアナです。リナルディ王国から嫁いできた王女です。黒い髪に紫の瞳、不貞の罪を着せられた母とともに牢で暮らしてきました。
私の番は竜王ニコラオス陛下です。初めて会ったときにわかりました。心と体が叫ぶのです。でも……竜王陛下の番は私ではないのかもしれません。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
竜王ニコラオス陛下を暴走から解放したのは私ではないそうです。
私は竜王陛下の寵愛を求めて、彼を罠にかけて暴走させ、自分で癒して見せたのだそうです。
魔導の才のない私が、どうすればそんなことが出来るのでしょうか。あの日まで半年、お顔を見ることもなかったというのに。
日々は変わりません。
騒々しい監視の近衛騎士達に見張られながら、草を食べて水を飲みます。
竜王陛下を求める心は消えないのに会いたいとは思いません。彼の笑顔を思い出すと涙が止まりません。彼の声が耳に蘇ると心が凍りつきます。そこは変わりました。
冬が来ました。
冬には珍しい魔物の大暴走が発生して、竜王陛下はお亡くなりになりました。それも私のせいだと言われているのでしょうか。
もちろん陛下の葬儀に出席することは出来ませんでした。カサヴェテス竜王国中に響き渡る弔いの鐘を聞きながら涙するだけでした。
監視の近衛騎士達さえ離宮に来なくなりました。
どうやら私はこの場所に閉じ込められてしまったようです。離宮を包む森のある地点から外に出られないのです。
結界でしょうか。伝説で聞いたことはありますが、実在するとは思っていませんでした。魔力の強い竜人族ならではの魔導なのでしょう。
いつしか結界の外は真っ白に変わっていました。
私には空すら見せてもらえないようです。……愛しい番の竜王陛下と同じ黄金色の太陽が輝く空さえも。
結界の向こうは白いだけでなく、なにかが渦巻いているようにも見えました。吹雪なのでしょうか。カサヴェテス竜王国を見下ろす真白き北の山脈から押し寄せてきた雪崩なのかもしれません。
結界で遮られていても、寒さは伝わってきます。
ただでさえ竜王陛下に押し潰されて枯れていた森が、どんどんと朽ちていきます。
噴水の水面に張った氷を割って水を飲む日々です。食べる草もありません。何日生き延びていたでしょう。わかりません、空は真っ白で昼も夜もないのです。
意識が消える寸前に、結界が消えたのがわかりました。
白く渦巻くものが流れ込んできます。やはり吹雪のようです。冷たい……とても冷たくて凍えていきます。だけど、どこか懐かしい温もりがあるような気もします。
遠くに吹雪を吐き続ける、吹雪と溶け合った白い巨竜が見えたような気がしました。
近衛騎士隊長の白銀色とは違います。もちろん竜王陛下の黄金色ではありません。
私は渦に飲み込まれて行きました。
──そして、世界が終わったのです。
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