オオカミさんといっしょ!

豆狸

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第二話 オオカミさんと暮らしてみれば

※12・この想いは明かさない。(狼のルー視点②)

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 抽出した毒を解析用の透明な瓶状の魔具に入れて作動させる。
 俺は調合台を片づけた。
 闇バチの死体は引き続き保管しておく。
 なにかに役立つことがあるかもしれない。

 ──フォーレ王国北東部を覆う夜の森と、さらに東へと広がる眠りの森は、魔法封印前は城塞都市が立ち並ぶ開発された土地だった。
 モンスターによって都市が滅びた後、森に飲み込まれてしまったのだ。
 今、モンスターたちの力は強くなり過ぎている。
 森に浸食された北の大陸はまだいいが、南の大陸はモンスターによってほかの生きものが住めない砂漠へと変えられていた。
 世界自体が危機を迎えている。
 ノワは人間がモンスターに対抗するため、封印された魔法を解放するべく生を受けた転生者のひとりなのではないかと思う。
 女王モンスターを倒して封印のかけらを奪うのは難しいことなので、知識と力を与えられた多くの転生者が生まれているのだろう。
 そして転生者たちは、女王モンスターが倒せるよう属性に縛られずに魔法を習得する能力を与えられているのではないのだろうか。
 武術による強さには限界があり、高めれば高めるほど年を取って体が衰えていってしまうものだから。
 転生者を殺害している犯人の目的は不明だ。
 被害者が複数の属性の魔法を習得できることに気づいて殺して回っている、魔法嫌いの星の神殿の狂信者なのかもしれないし、深い理由があるのかもしれない。

 魔具の作動が停まる。
 毒の解析が終わったのだ。
 透明な瓶の表面に浮かび上がった記号と文字を読み取り、棚から解毒剤の調合に必要な材料を取り出す。

 ノワが違う世界からの転生者だというのは、俺の想像に過ぎない。
 しかし、あながち間違いでもないはずだ。
 昨日今朝と見た夢は、とても懐かしかった。
 幻視というより過去の記憶が蘇った感じがした。
 俺はあの不思議な世界でロークンとしての人生を終え、この世界に生まれてきたのだと確信している。
 もっとも、俺はノワとは違う。
 俺は風属性の魔法しか習得できない。……俺は選ばれた転生者ではない。
 選ばれたノワを追って、無理矢理この世界に生まれてきたのだ。
 生まれて初めて獣化を解いてしまったほどの彼女への想いが証拠になるだろう。
 初めは夢のせいで気になっているのだと思っていた。
 でも違う。
 俺が彼女に恋をしたから、あの夢を呼び寄せてしまったのだ。

「……」

 ノワは俺とは違う。
 嗅覚の鋭い獣化族だから、彼女が俺に好意を寄せてくれているのはわかっている。
 人間の感情は匂いでわかるものだ。
 しかし、その好意は命の恩人に対するものだ。
 それにつけ込んではいけない。
 魔玉蜜の譲渡に乗じてミントの匂い袋を持たせることができたので、もう彼女が向けてくれる好意の匂いに惑わされることはなくなった。
 いや、惑わされないようにしなくてはいけない。
 その香りが、どんなに心地良いものでもだ。

 ノワが見た夢は俺とは違う。
 彼女は最初から俺のように不埒な夢ではなく、幻を操る夢を見ていた。
 転生者としての使命を果たすのに必要な知識を夢で与えられたのだろう。
 俺が今朝幻を操る夢を見たのは、自分の立場を思い知るためだ。
 幻を操っていたのはロークンではなく、彼の孫だった。

 ……本当はきっと、転生なんて要素は言い訳に過ぎない。
 拒まれるのが怖いだけだ。
 毛皮に覆われた醜い狼の俺がノワに愛される可能性などあるはずがないのだから。

 俺は自分の手を見下ろした。
 もうとっくの昔に黒い毛皮に覆われている。
 せめて獣化を解除できる時間がもう少し長くなれば……いや、考えても仕方がない。
 滅びゆく狼の獣化族である俺は、ノワに相応しくない。彼女に尻尾のある赤ん坊を産ませてはいけない。
 一昨日の夜、街道で傷ついた彼女を見た瞬間、狂おしいほどの想いが沸き起こった。
 絶対に助けなければいけないと思った。
 それはきっと神の啓示だ。
 俺は彼女を守らなくてはいけない。
 でもそれだけだ。それ以上を望んではいけない。
 転生前からか、十五年前からかもわからない想いは飲み込んでしまうのだ。
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