33 / 50
第二章 狸の住処は戌屋敷!
8・『妹=可愛い』の法則④
しおりを挟む
信吾さんはぶ厚い冬用カーテンの前に立ってガラス窓を開けた。
鍵を開ける仕草は見られなかった。……なんで? 玄関はかかっていたのに。
ガラス窓が開くと、猫屋敷家から漂っていた冷気が強まった。
窓辺に立つ彼の背後から、冷気が押し寄せてくる。
前々から魔王に仕える四天王(トップでもないのに悪事の黒幕で、トップを倒すと変形して襲いかかって来そうなキャラ)のようだと思っていたが、今の彼はまさに氷の四天王シンゴーサンといった風情だ。
……シン=ゴーサンだとアジア風だな。シ=ンゴーサンだとアフリカ風?
いや、そんなことを考えている場合ではない。
この冷気、婚約者と妹でも怒りを買えば氷像に変えられてもおかしくなさそうだ。
いささか緊張感のない発想かもしれないけれど、押し寄せる冷気に包まれて、わたしはかなり真剣にそう思った。
黒い影に触っては寝込んでいた幼少期、退屈しないようにと両親がゲーム機を与えてくれていたからか、どうにもRPG脳なのだ。
中学から凛星女学院に通ったことで美妃ちゃんと会って、あまりゲームはしなくなったけれど、根本的な考え方にまだ昔のくせがにじみ出る。
それはともかく、信吾さんからの冷気の寒さで指先がかじかむなあ。
「実は……」
もちろん可愛い梨里ちゃんに泥を被せるつもりはない。
結局は大人であるわたしの責任だ。
意を決して口を開いたとき、信吾さんはわたしたちに背を向けた。
「おやクーラーが冷房になってますね。……指紋は残さないほうがいいでしょうか」
「っ? し、信吾さん! 信吾さんはどうして猫屋敷さんのお家の中にいるんです?」
あまりの衝撃に、質問に答える前に質問を返してしまう。
彼はジャケットの内ポケットから鍵束を取り出した。
金属製の円環に複数の鍵が束ねられている。
……うわー、鍵束だ。正直、生まれて初めて見た。
「僕大家なんですよ、ここら辺一体の」
「大家さん、なの?」
「はい。僕の所有する会社の多くは、市が思い付きで始めて節約の名のもとに外部に放り投げた事業の受け皿となっています」
「確か総合公園の運営も任されてましたね」
「ほかにもいろいろしていますよ。なにしろ市の自主性に任せると、外注業者と癒着して市民の血税から絞り出した予算を無駄に浪費し、その上大切な市民の個人情報まで流出させてしまいますからね。璃々さんのプライバシーを守るためにも、僕が出なければならないでしょう?」
信吾さんの頭上で、黒い狐さんが憐れむような視線を向けてくる。
うん、まあ、わたしのプライバシーは守られてるかな?
信吾さんの言動はプライバシーがどうとかいう問題じゃないし。
「生活状況や健康状態の確認も兼ねて、僕が家賃を回収しているんです」
「家賃があるんですね」
「ええ。社会につながる窓口を残しておかないと、お年寄りが孤立してしまいます」
「ふうん……」
なんだかんだで信吾さんは社会に貢献しているんだなあ。
引き籠りニート女子大生のわたしとしては、頭が下がる思いである。
そういえば、うちの市でもマイナンバーの流出が起こったんだったっけ。
幸い我が家は被害区域ではなかった。
それは信吾さんのせい……じゃなくて、おかげだったのかもね。
「ところで、ふたりがここにいる理由はまだ聞いていませんが?」
信吾さんが圧の強い笑顔を浮かべたので、わたしの頭はさらに下がった。
「……豆田少年が落とした財布を拾いに……」
わたしが絞り出した答えを聞いて、信吾さんは溜息を漏らす。
「そんなことだと思いましたよ。わかってますか、璃々さん。あなたの行動は不法侵入に当たるんですよ?」
「お兄、璃々お姉ちゃんは悪くないし! うちがお願いしただけだし!」
「承知の上だよ、梨里。でもね、璃々さんはもう二十歳。大人としてお前の行動を止める立場なんだ。それに……」
鍵束をしまい、信吾さんは背後のぶ厚い冬用カーテンを全開させた。
夕焼けが最後の煌めきを放っているので、照明がついていなくても室内がよく見える。
さほど広くはないが過ごしやすそうな和室だ。
壁際に置かれたテレビ台の上には薄型テレビがあり、その左右には住人の年齢を感じさせる土産物らしきコケシや熊の置物が飾られていた。硬貨が詰まった瓶もある。
奥には押し入れ、横の柱にはクーラーのものと思われるリモコン入れが設置されている。
部屋の真ん中にはひとり用のコタツ。
コタツの上には蓋を閉じたノートパソコン。
パソコンの横には湯呑と急須。
そして……コタツの上に覆いかぶさっている老女。
「あ、猫屋敷さんですか?」
眠っていたから、さっき玄関で呼びかけたときの声に気づかなかったのだろうか。
なぜか梨里ちゃんがわたしに寄り添って、そっと服の端につかまってきた。
「どうしたの?」
「璃々お姉ちゃん、あの人なんか……」
「はい、猫屋敷さんです。残念ながらお亡くなりになっています。家賃が銀行引き落としなら口座が凍結されるまで巻き上げ続けることもできますが、うちは手渡しなので無理ですね。小ズルく立ち回っているスポーツクラブとかがあるみたいですよ」
「えっ……?」
事態が飲み込めないわたしの横で、梨里ちゃんがやっぱりと呟く。
彼女はわたしにつかまったまま、自分の兄を睨みつけた。
「お兄が、ついに……?」
「梨里、お前は兄をなんだと思ってるんだ?」
「……殺人衝動が抑えきれなくなったのかと思って」
「殺人衝動? そんなものあるわけないだろう? 猫屋敷さんは自然死、老衰だよ。とはいえ病院以外での死亡はすべて変死扱いになるからね、クーラーのリモコンを触って指紋をつけるのはためらっているんだ」
「もしかして、間違って冷房にしてしまったせいでお亡くなりに?」
「面白い推理ですが違うと思いますよ、璃々さん。このクーラーがつけられたのは、猫屋敷さんが亡くなった後ではないでしょうか?」
「タイマーをセットしてたってことですか?」
首を傾げると、梨里ちゃんが吹き出した。
「り、梨里ちゃん?」
「璃々お姉ちゃん、猫屋敷さんがタイマーにしてたんじゃなくて、犯人……うん? 猫屋敷さんは自然死なんだよね、お兄」
「そうだよ」
「うーん、ちょっと事情はわからないけど、本人がつけたんじゃなかったら、だれかが死亡推定時刻を誤魔化そうとしてつけたんでしょ」
「僕もそう思う。同じ時刻に殺された死体でも、押し入れの上に隠されるか下に隠されるかの違いだけで死亡推定時刻が変わってしまうものだ。もっともそれはかなり昔の事件の話だから、今の検死技術なら気温に惑わされないかもね」
……信吾さん、そんな妙なことに詳しいから実の妹に疑われるんですよ!
ねえ? という気持ちを込めて見つめたら、黒い狐さんは察したように頷いてくれた。
信吾さんがジャケットからスマホを取り出す。
「警察を呼びますね」
「……お兄。もし警察に押収されたら、豆田の保険証はしばらく戻ってこない?」
「梨里、病院代くらい僕が建て替えるよ。保険証が返って来たら差額も戻ってくる」
「……豆田、なにかで疑われたりする?」
「どうだろうね」
わたしと梨里ちゃんは息を止めて、警察に通報する信吾さんを見つめた。
やがて通報を終えた彼が、スマホをジャケットに戻してこちらを向く。
「猫屋敷さんが自然死なのは間違いないでしょう。庭の惨状は、彼女が亡くなったために町猫のエサや排泄用のペットシートを片づけられなかったことから、野生動物が入り込んだせいだと思われます。……ここまでは、なんの不思議もありません」
梨里ちゃんの質問に答えるというよりも、わたしに話して考えをまとめるつもりなのだろうか。
信吾さんは丁寧語で話し続ける。
「問題はクーラーの冷房と、このコタツの上」
「コタツの上?」
「猫屋敷さんは重たいキャットフードや消費の激しいペットシートはネット通販で注文していました。たぶん亡くなられたときもネット通販の最中だったのだと思います。パソコンをいじりながらコタツで暖まって……眠るように」
話を聞きながら、ふと気づいた。
ペットシートって、あのナイロンっぽい青い紙みたいなもの?
うん。我が家には動物がいないけど、デパートのペットショップで見たことがある。
ケージの下に敷かれていた。
あれが引き千切られて散乱してたのね。
梨里ちゃんが預かってる三毛は猫砂トイレだったな。
「ノートパソコンが閉じていたのは、猫屋敷さんがお亡くなりになって倒れたときにぶつかったからだと考えることもできます。でも……コタツの上にクレジットカードが出ていなかったのが気になるんですよね。注文が終わってから大事に仕舞っておいたのを取り出すつもりだったのかもしれませんが」
「クーラーをつけたのはクレカ泥棒ってことですか?」
引き籠りニート女子大生のわたしはクレジットカードを持っていない。
ネットで通販したいときは両親にお願いしている。
自分が買った商品の代金は支払ってるものの、そのお金はもらったお小遣いなのよね。
考えてみると両親は、クレカをパソコンの横やキーボードの上に出した状態でネット通販をしていた。まあ個人差はあるんだろうけど。
「その可能性もあります。そもそもカーテンが閉じていたのもおかしいんです」
「寒いから閉めたんじゃないの、お兄?」
「だったらガラス窓の鍵も降ろしておくよ、梨里。窓を開けたままだったのは、町猫たちが食事と排泄を終えたら、すぐに食器と汚れたペットシートを片づけるためだ。周囲に不快感を与えないよう世話するのが、彼女の役目だったんだから。カーテンを閉めていたら猫たちの様子を確認できないよ。……おや? パトカーが来たようですね」
サイレンの音が近づいてくる。
すっかり真っ暗になっていた庭をパトカーの赤色灯が照らした。
──信吾さんの威光か、わたしと梨里ちゃんの取り調べはあっさり終わった。
大家兼第一発見者(クレカ泥棒がいたら第二?)の彼の取り調べを待つ間、梨里ちゃんが言った。
「部屋から冷気があふれて来てたから、お兄が本性をさらけ出して氷の四天王に戻ったのかと思った。……うちの妄想なんだけどさ」
わたしと梨里ちゃんに血のつながりはないけれど、義姉妹の熱い絆が結ばれている。
最近の子は家庭用ゲームよりスマホゲームで遊ぶらしい。
梨里ちゃんはどんなゲームをしているんだろうか。
なにはともあれ、やっぱり妹は可愛いなあ、と思わずにはいられなかった。
鍵を開ける仕草は見られなかった。……なんで? 玄関はかかっていたのに。
ガラス窓が開くと、猫屋敷家から漂っていた冷気が強まった。
窓辺に立つ彼の背後から、冷気が押し寄せてくる。
前々から魔王に仕える四天王(トップでもないのに悪事の黒幕で、トップを倒すと変形して襲いかかって来そうなキャラ)のようだと思っていたが、今の彼はまさに氷の四天王シンゴーサンといった風情だ。
……シン=ゴーサンだとアジア風だな。シ=ンゴーサンだとアフリカ風?
いや、そんなことを考えている場合ではない。
この冷気、婚約者と妹でも怒りを買えば氷像に変えられてもおかしくなさそうだ。
いささか緊張感のない発想かもしれないけれど、押し寄せる冷気に包まれて、わたしはかなり真剣にそう思った。
黒い影に触っては寝込んでいた幼少期、退屈しないようにと両親がゲーム機を与えてくれていたからか、どうにもRPG脳なのだ。
中学から凛星女学院に通ったことで美妃ちゃんと会って、あまりゲームはしなくなったけれど、根本的な考え方にまだ昔のくせがにじみ出る。
それはともかく、信吾さんからの冷気の寒さで指先がかじかむなあ。
「実は……」
もちろん可愛い梨里ちゃんに泥を被せるつもりはない。
結局は大人であるわたしの責任だ。
意を決して口を開いたとき、信吾さんはわたしたちに背を向けた。
「おやクーラーが冷房になってますね。……指紋は残さないほうがいいでしょうか」
「っ? し、信吾さん! 信吾さんはどうして猫屋敷さんのお家の中にいるんです?」
あまりの衝撃に、質問に答える前に質問を返してしまう。
彼はジャケットの内ポケットから鍵束を取り出した。
金属製の円環に複数の鍵が束ねられている。
……うわー、鍵束だ。正直、生まれて初めて見た。
「僕大家なんですよ、ここら辺一体の」
「大家さん、なの?」
「はい。僕の所有する会社の多くは、市が思い付きで始めて節約の名のもとに外部に放り投げた事業の受け皿となっています」
「確か総合公園の運営も任されてましたね」
「ほかにもいろいろしていますよ。なにしろ市の自主性に任せると、外注業者と癒着して市民の血税から絞り出した予算を無駄に浪費し、その上大切な市民の個人情報まで流出させてしまいますからね。璃々さんのプライバシーを守るためにも、僕が出なければならないでしょう?」
信吾さんの頭上で、黒い狐さんが憐れむような視線を向けてくる。
うん、まあ、わたしのプライバシーは守られてるかな?
信吾さんの言動はプライバシーがどうとかいう問題じゃないし。
「生活状況や健康状態の確認も兼ねて、僕が家賃を回収しているんです」
「家賃があるんですね」
「ええ。社会につながる窓口を残しておかないと、お年寄りが孤立してしまいます」
「ふうん……」
なんだかんだで信吾さんは社会に貢献しているんだなあ。
引き籠りニート女子大生のわたしとしては、頭が下がる思いである。
そういえば、うちの市でもマイナンバーの流出が起こったんだったっけ。
幸い我が家は被害区域ではなかった。
それは信吾さんのせい……じゃなくて、おかげだったのかもね。
「ところで、ふたりがここにいる理由はまだ聞いていませんが?」
信吾さんが圧の強い笑顔を浮かべたので、わたしの頭はさらに下がった。
「……豆田少年が落とした財布を拾いに……」
わたしが絞り出した答えを聞いて、信吾さんは溜息を漏らす。
「そんなことだと思いましたよ。わかってますか、璃々さん。あなたの行動は不法侵入に当たるんですよ?」
「お兄、璃々お姉ちゃんは悪くないし! うちがお願いしただけだし!」
「承知の上だよ、梨里。でもね、璃々さんはもう二十歳。大人としてお前の行動を止める立場なんだ。それに……」
鍵束をしまい、信吾さんは背後のぶ厚い冬用カーテンを全開させた。
夕焼けが最後の煌めきを放っているので、照明がついていなくても室内がよく見える。
さほど広くはないが過ごしやすそうな和室だ。
壁際に置かれたテレビ台の上には薄型テレビがあり、その左右には住人の年齢を感じさせる土産物らしきコケシや熊の置物が飾られていた。硬貨が詰まった瓶もある。
奥には押し入れ、横の柱にはクーラーのものと思われるリモコン入れが設置されている。
部屋の真ん中にはひとり用のコタツ。
コタツの上には蓋を閉じたノートパソコン。
パソコンの横には湯呑と急須。
そして……コタツの上に覆いかぶさっている老女。
「あ、猫屋敷さんですか?」
眠っていたから、さっき玄関で呼びかけたときの声に気づかなかったのだろうか。
なぜか梨里ちゃんがわたしに寄り添って、そっと服の端につかまってきた。
「どうしたの?」
「璃々お姉ちゃん、あの人なんか……」
「はい、猫屋敷さんです。残念ながらお亡くなりになっています。家賃が銀行引き落としなら口座が凍結されるまで巻き上げ続けることもできますが、うちは手渡しなので無理ですね。小ズルく立ち回っているスポーツクラブとかがあるみたいですよ」
「えっ……?」
事態が飲み込めないわたしの横で、梨里ちゃんがやっぱりと呟く。
彼女はわたしにつかまったまま、自分の兄を睨みつけた。
「お兄が、ついに……?」
「梨里、お前は兄をなんだと思ってるんだ?」
「……殺人衝動が抑えきれなくなったのかと思って」
「殺人衝動? そんなものあるわけないだろう? 猫屋敷さんは自然死、老衰だよ。とはいえ病院以外での死亡はすべて変死扱いになるからね、クーラーのリモコンを触って指紋をつけるのはためらっているんだ」
「もしかして、間違って冷房にしてしまったせいでお亡くなりに?」
「面白い推理ですが違うと思いますよ、璃々さん。このクーラーがつけられたのは、猫屋敷さんが亡くなった後ではないでしょうか?」
「タイマーをセットしてたってことですか?」
首を傾げると、梨里ちゃんが吹き出した。
「り、梨里ちゃん?」
「璃々お姉ちゃん、猫屋敷さんがタイマーにしてたんじゃなくて、犯人……うん? 猫屋敷さんは自然死なんだよね、お兄」
「そうだよ」
「うーん、ちょっと事情はわからないけど、本人がつけたんじゃなかったら、だれかが死亡推定時刻を誤魔化そうとしてつけたんでしょ」
「僕もそう思う。同じ時刻に殺された死体でも、押し入れの上に隠されるか下に隠されるかの違いだけで死亡推定時刻が変わってしまうものだ。もっともそれはかなり昔の事件の話だから、今の検死技術なら気温に惑わされないかもね」
……信吾さん、そんな妙なことに詳しいから実の妹に疑われるんですよ!
ねえ? という気持ちを込めて見つめたら、黒い狐さんは察したように頷いてくれた。
信吾さんがジャケットからスマホを取り出す。
「警察を呼びますね」
「……お兄。もし警察に押収されたら、豆田の保険証はしばらく戻ってこない?」
「梨里、病院代くらい僕が建て替えるよ。保険証が返って来たら差額も戻ってくる」
「……豆田、なにかで疑われたりする?」
「どうだろうね」
わたしと梨里ちゃんは息を止めて、警察に通報する信吾さんを見つめた。
やがて通報を終えた彼が、スマホをジャケットに戻してこちらを向く。
「猫屋敷さんが自然死なのは間違いないでしょう。庭の惨状は、彼女が亡くなったために町猫のエサや排泄用のペットシートを片づけられなかったことから、野生動物が入り込んだせいだと思われます。……ここまでは、なんの不思議もありません」
梨里ちゃんの質問に答えるというよりも、わたしに話して考えをまとめるつもりなのだろうか。
信吾さんは丁寧語で話し続ける。
「問題はクーラーの冷房と、このコタツの上」
「コタツの上?」
「猫屋敷さんは重たいキャットフードや消費の激しいペットシートはネット通販で注文していました。たぶん亡くなられたときもネット通販の最中だったのだと思います。パソコンをいじりながらコタツで暖まって……眠るように」
話を聞きながら、ふと気づいた。
ペットシートって、あのナイロンっぽい青い紙みたいなもの?
うん。我が家には動物がいないけど、デパートのペットショップで見たことがある。
ケージの下に敷かれていた。
あれが引き千切られて散乱してたのね。
梨里ちゃんが預かってる三毛は猫砂トイレだったな。
「ノートパソコンが閉じていたのは、猫屋敷さんがお亡くなりになって倒れたときにぶつかったからだと考えることもできます。でも……コタツの上にクレジットカードが出ていなかったのが気になるんですよね。注文が終わってから大事に仕舞っておいたのを取り出すつもりだったのかもしれませんが」
「クーラーをつけたのはクレカ泥棒ってことですか?」
引き籠りニート女子大生のわたしはクレジットカードを持っていない。
ネットで通販したいときは両親にお願いしている。
自分が買った商品の代金は支払ってるものの、そのお金はもらったお小遣いなのよね。
考えてみると両親は、クレカをパソコンの横やキーボードの上に出した状態でネット通販をしていた。まあ個人差はあるんだろうけど。
「その可能性もあります。そもそもカーテンが閉じていたのもおかしいんです」
「寒いから閉めたんじゃないの、お兄?」
「だったらガラス窓の鍵も降ろしておくよ、梨里。窓を開けたままだったのは、町猫たちが食事と排泄を終えたら、すぐに食器と汚れたペットシートを片づけるためだ。周囲に不快感を与えないよう世話するのが、彼女の役目だったんだから。カーテンを閉めていたら猫たちの様子を確認できないよ。……おや? パトカーが来たようですね」
サイレンの音が近づいてくる。
すっかり真っ暗になっていた庭をパトカーの赤色灯が照らした。
──信吾さんの威光か、わたしと梨里ちゃんの取り調べはあっさり終わった。
大家兼第一発見者(クレカ泥棒がいたら第二?)の彼の取り調べを待つ間、梨里ちゃんが言った。
「部屋から冷気があふれて来てたから、お兄が本性をさらけ出して氷の四天王に戻ったのかと思った。……うちの妄想なんだけどさ」
わたしと梨里ちゃんに血のつながりはないけれど、義姉妹の熱い絆が結ばれている。
最近の子は家庭用ゲームよりスマホゲームで遊ぶらしい。
梨里ちゃんはどんなゲームをしているんだろうか。
なにはともあれ、やっぱり妹は可愛いなあ、と思わずにはいられなかった。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
『エターナル・ブラック・アイズ』
segakiyui
キャラ文芸
『年齢・性別・経験問わず。当方親切に指導いたしますので、安心安全、ご心配無用。保険も使えます』。マンションのポストに入っていた『占い師求む』のチラシに導かれて、鷹栖瑞穂は『エターナル・アイズ』の占い師になる。家族を失った炎の記憶がつながる事件に、同僚の『グリーン・アイズ』とともに立ち向かう。
AIアイドル活動日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!
そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き
星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】
煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。
宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。
令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。
見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる