好きでした、さようなら

豆狸

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第十三話 私が意識を失っている間に

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 私は朝から色々と制作に取り掛かった。
 まずはとある使い魔を召喚しないといけない。
 召喚のための小麦粉と猫じゃらしを用意して召喚の魔法陣を書く。
 魔法陣の上に魔法陣が見えなくなる程度に小麦粉を振る。
 


「召喚の呪文は…えっと…ええっと……おいでませおいでませ、我の問に………………洞猫!」



 ボブっと小麦粉が舞い、が現れて「できた」と小さい声で言うと白の洞猫に大きな舌打ちをされた。



「呪文端折りやがって。」

「え?喋った?」

「あ?そりゃ喋るよ。ただよくこんな廃れた魔法陣に呪文も…途中までだけど知ってたよな。」

「長生きした甲斐があったね!」

「あっそう。で俺で良いわけ?洞猫でも白で金の瞳だけどよ?、」

「貴方がいいわ?お名前あるかしら?」

「ねーよ。」

「じゃあギンね!私はシュリーよろしく」

「わあたよ。」



 洞猫とは古い昔よく使われていた使い魔だ。
 対となる魔法のランタンが点っている間自由に行き来できるという変わった能力を持つ魔物だ。

 今ではもう忘れ去られてしまっているが、彼らはとても優秀だ。
 そして、でないと洞猫とは呼ばなくそれ以外の洞猫は人間の手により大量処分された。
 その事件から契約していた洞猫達が一斉に契約破棄したのでその後契約するものがいなくなってしまったのだ。



「それで俺のランタンはこれか?いいランタンじゃねぇか!それにこれ…相当いいつくりだな。」

「魔法のランタンなのよ?絶対に迷わないように私の家の方角がわかるようになっているの。」

「見りゃわかるさ!渡すのはあの男か?」

「そう。」

「いい男じゃねぇか!体格もいいし、健康そうだし何より顔がいいじゃんか!」

「そうなの。」

「ぞっこんだねぇ~!」



 まったく、恥ずかしい。
 変なことしか言わないのでギンは放っておいて、最高級のポーション薬を作った。
 全部聖女の祝福入りグレートポーションで統一した10本作れたのだが、次の村の分の薬が減ってしまった。
 早急に地下室を作るべし…だな。

 彼を見るといつの間にか上着は脱いでひたすらに剣を振っていた。
 剣を振って振って疲れたら水を飲んで、また剣を振っての繰り返し、彼は少しでも時間が空くと剣を振っている。
 タカヒコの剣筋は鋭く、何よりも早く敵を殺す剣だと私は思う。
 私の知っている勇者は毎回違う人だった。
 みんなそれなりに勇者をしていたと思う。
 大体の勇者は権力に溺れるようになり、どこかの国で匿われていたりするのが通例だった。
 タカヒコはまた別なようだ。



「タカヒコさん…帰ってきたら聞いてみようかな。」

「今聞けば?…ね?」

「えっ?!いつからそこに?!」

「何が聞きたいの?」

「えっと、タカヒコさんはどのような経緯で勇者になられたんですか?」

「昔…武家の子供に転生して自分の国で武術を学び、そんなある時に信託が下りました。輪廻の神に『あなたが勇者だ』と言われて戸惑いましたが、その時に前世の記憶もよみがえりました。そこからは家からすぐに旅に出なさいと言われすぐに旅に出ました。色々な家から勧誘がありましたが全部断わってきました。俺の役目は魔王を倒すことですから。」

「凄いです本当にこんなに真っ直ぐな人には初めて会いました。」

「そうかな?」

「そうだよ。」

「そっか?……ところでその猫は?子猫か?」



 撫でようと手タカヒコを近づけると、ペシッと手を蹴っ飛ばした。
 その様子を見ると面白くてふふふと笑ってしまった。
 


「最近の人間は挨拶もできねーのか!シュリーこんな男やめた方がいいぜ!」

「そんな事言わないで、挨拶してくれないかしら?」

「この猫喋った?!どういうことだ?」

「俺は使い魔の洞猫だよ。」

「ああ、タカヒコです」
 
「お前にはシュリーは勿体ない!諦めて故郷のあの島国に帰りなっ!しっし!」

「そういう訳には行かない。俺はシュリーを解放してやるって約束したんだ。」



 ギンはうーんとなにか考え込むと手のひらをうった。
 事情を察したのかタカヒコの肩に乗るとヒソヒソと耳打ちをした。
 私に聞こえないようにしているので魔法で聞くなんて無粋な真似はしない
 本当は聞きたかったけど…。

 
 
 

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