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4・迷宮です!② 【ホムンクルス】/【ゴーレム】
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「大地よ蠢け、【動けぬ具足】!」
ローランさんの大地魔法の詠唱で、サラマンダーの四足が岩の具足に包まれました。
サラマンダーが発動を妨害しなかったのは、自分の体を包む炎で焼き尽くせると思ったからでしょう。
大地魔法は炎に弱いのです。でも……
「エメ、爆弾だ!」
「はいっ!」
わたしはお手製の爆弾をサラマンダーにぶつけました。
黒い球の一部に、内部の変換水晶が露出しています。
「ぐぎゃあああぁぁっ!」
サラマンダーの体に接触した変換水晶が炎の魔力を吸い取っていきます。
試作中に自分の体で試したけど、あれはすごく気持ちが悪いのですよ。
体の力が一気に抜けて、内臓が裏返るような感覚を味わうのです。
「ローランさん、破片に気をつけてください」
黒い球が小刻みに震え始めたので、わたしはローランさんに注意しました。
震え出したのは、吸収した魔力量が限界を越えようとしているからなのです。
銀髪エルフのローランさんが無言で頷きます。
「があっ!」
爆弾が破裂して、変換水晶によって属性を変えられた魔力がサラマンダーに襲いかかります。
炎から反転した炎が最も苦手とする水の魔力です。
びしょ濡れになるだけ、なんて甘いことにはなりません。
水滴が石を穿つように爆弾から放たれた無数の水魔力はつぶてとなって、サラマンダーの全身を貫いたのでした。……あ、これだと皮が取れない。
──皮は取れませんでしたが、サラマンダーはかなり高位の魔獣です。
サラマンダーの住処から赤の魔鉱が三つと、紅蓮の魔鉱がひとつ採取できました。
かなりの大きさです。どれもわたしの拳くらいはあるでしょうか。
ふたりしかいないので、肉や骨は諦めます。
ここはマルディの第四層。燃え盛る荒野のエリアです。
細い川には水ではなく溶岩が流れています。
ところどころに険しい岩山がそびえ立っています。
ローランさんは割増料金に恥じない働きをしてくださいました。
まかせっきりにするのは申し訳ないので、持ってきた爆弾でわたしも戦闘に加わらせてもらってます。
彼のMPが切れてしまったら、そこで帰還になりますしね。
マナポーション、全部売らずに一瓶くらい取り置きしておけば良かったです。
「外ではもうすぐ日が沈むころだ。そろそろ迷宮を出よう」
迷宮の中では時間の経過がはっきりしません。
時計を持って入っても強い魔力で針の速度が狂ってしまうのです。
ですが元々迷宮エルフのローランさんは、どれだけ時間が経ったのかを察することができるようです。
「はい」
第一層の草原では十分な量のマナの草とマナの花が採れたし、第三層でも小さな赤の魔鉱をいくつか採取しています。
炎は風を生み出すものなので、緑の魔鉱も少しだけありました。
これだけあればお祭りまでの半月近く商品の原料には困らないでしょう。
降りていくときは魔獣との対峙が必須ですが、帰りは帰還の護符で一瞬です。
ディマンシュの上に建てられたラビラントの大神殿に転移したわたし達は、神官に採取品に応じた税金を支払って外に出ました。
迷宮の六つの区域は中央のディマンシュだけでなく、わかりにくい隠し通路でもつながっています。
ほかの区域の魔獣まで流れ込んでこないように結界を張ってくれている大神殿には敬意が必要でしょう。
……ちょっと税金が高いかな、と思わないでもないですが。
「エメの店は冒険者ギルドの裏だと言っていたな。どうせ依頼完了の報告にギルドへ行くんだ。店まで送ろう」
神殿の外は真っ暗だったので、ローランさんが申し出てくれました。
彼の杖の先には光魔法の明かりが灯っています。
午前中に冒険者ギルドへ行って、お昼前に迷宮へ入って、第四層まで下りてこの時間なら上出来です。採取品も満足できる質と量ですしね。
「ありがとうございます」
建物の窓からこぼれる明かりに照らされたラビラントの町を歩きながら、錬金術師とエルフの魔法使いが話をします。
「ローランさんは、どうして迷宮を出て暮らしているんですか?……言いたくないことでしたら申し訳ありません」
「いや。秘密にするようなことじゃない。といって面白い話でもない。自分以上の魔法使いに会ったから弟子入りさせてもらって外へ出たというだけだ。師匠は迷宮で暮らすエルフではなく、外で暮らす人間だったんだ」
「そうなんですか」
師匠という単語を聞いて、わたしもお師匠様のことを思い出しました。
わたしは、本当は魔法剣士になりたかったのです。
恩人のリュシーさんに憧れていたのです。
でもわたしは剣士に向いていませんでした。
今日もローランさんが魔獣の動きを止めてくれていなかったら、一度も爆弾を当てられていなかったと思います。
根本的に身体能力が低いのです。
魔法の才能はちょっとだけあったのですが、村人の知り合いに魔法使いがいなかったので、村長の知人で錬金術師のお師匠様に弟子入りすることになりました。
今はこれで良かったと思っています。
冒険者ギルドで依頼完了報告を終えたあと、ふたりで『赤の止まり木』への道を辿ります。
「エメの爆弾は面白いな」
ローランさんはわたしの作った魔具に興味を持っているようです。
「そうですか?」
「普通の爆弾は魔獣の魔力を吸って爆発するだけだろう?」
「そうですね。でもそれだと今日のサラマンダーのように、皮の分厚い魔獣にはダメージを与えられないんです。だから魔鉱属性を変える変換水晶を利用し、変換して量が減ってしまった魔力の放出方向を固定することで無駄なく攻撃できるようにしたんです」
「魔法の使い方にも応用できそうな考えだな。魔銃は使わないのか?」
「魔銃は詠唱がいらない代わりに使える魔法が決まっているのと、使用者の魔力を一気に使い過ぎるのが問題なんですよね。ただそれも変換水晶を利用すれば、迷宮に満ちた魔力を利用して複数の魔法を……」
気が付くと、お店の前まで来ていました。
うん、錬金術師になって良かったです。
魔具や護符のことを考えていると楽しくて夢中になってしまいます。
魔法剣士になりたかったわたしなので、特に攻撃系の魔具には思い入れがあります。
そのうちお師匠様みたいに、護符に複数の付与効果を刻めるように──それ、魔銃にも応用できないでしょうか?
一点を撃つ魔銃なら皮を傷つけることもありません。
「エメさん?」
お店の前に金髪の青年が立っていました。
「あ、騎士……さん」
名前は思い出せません。
「店が閉まっていたから心配しました。ご病気じゃなくて良かったです」
「今日は採取しに迷宮へ行っていたんです。貼り紙を……」
見れば扉に貼り紙はありませんでした。
風で飛ばされたのかしら。
ううう、町を汚してしまいました。
「心配かけてすみませんでした」
「ご無事ならいいんです。それでは失礼します」
騎士の姿が消えたあと、ちょっとだけ魔具の話をしてからローランさんと別れました。
今日採取した分でお祭りまで足りると思うけど……いざというときに備えて店番を創っておいたほうがいいかもしれません。
お師匠様には製造許可をいただいていたのですが、これまでは自信がなくて挑戦していませんでした。
わたしはもう『赤の止まり木』の店長ですし、そろそろ創っておいたほうがいいかもしれませんね。
【ホムンクルス】/【ゴーレム】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【ホムンクルス】/【ゴーレム】←
ローランさんの大地魔法の詠唱で、サラマンダーの四足が岩の具足に包まれました。
サラマンダーが発動を妨害しなかったのは、自分の体を包む炎で焼き尽くせると思ったからでしょう。
大地魔法は炎に弱いのです。でも……
「エメ、爆弾だ!」
「はいっ!」
わたしはお手製の爆弾をサラマンダーにぶつけました。
黒い球の一部に、内部の変換水晶が露出しています。
「ぐぎゃあああぁぁっ!」
サラマンダーの体に接触した変換水晶が炎の魔力を吸い取っていきます。
試作中に自分の体で試したけど、あれはすごく気持ちが悪いのですよ。
体の力が一気に抜けて、内臓が裏返るような感覚を味わうのです。
「ローランさん、破片に気をつけてください」
黒い球が小刻みに震え始めたので、わたしはローランさんに注意しました。
震え出したのは、吸収した魔力量が限界を越えようとしているからなのです。
銀髪エルフのローランさんが無言で頷きます。
「があっ!」
爆弾が破裂して、変換水晶によって属性を変えられた魔力がサラマンダーに襲いかかります。
炎から反転した炎が最も苦手とする水の魔力です。
びしょ濡れになるだけ、なんて甘いことにはなりません。
水滴が石を穿つように爆弾から放たれた無数の水魔力はつぶてとなって、サラマンダーの全身を貫いたのでした。……あ、これだと皮が取れない。
──皮は取れませんでしたが、サラマンダーはかなり高位の魔獣です。
サラマンダーの住処から赤の魔鉱が三つと、紅蓮の魔鉱がひとつ採取できました。
かなりの大きさです。どれもわたしの拳くらいはあるでしょうか。
ふたりしかいないので、肉や骨は諦めます。
ここはマルディの第四層。燃え盛る荒野のエリアです。
細い川には水ではなく溶岩が流れています。
ところどころに険しい岩山がそびえ立っています。
ローランさんは割増料金に恥じない働きをしてくださいました。
まかせっきりにするのは申し訳ないので、持ってきた爆弾でわたしも戦闘に加わらせてもらってます。
彼のMPが切れてしまったら、そこで帰還になりますしね。
マナポーション、全部売らずに一瓶くらい取り置きしておけば良かったです。
「外ではもうすぐ日が沈むころだ。そろそろ迷宮を出よう」
迷宮の中では時間の経過がはっきりしません。
時計を持って入っても強い魔力で針の速度が狂ってしまうのです。
ですが元々迷宮エルフのローランさんは、どれだけ時間が経ったのかを察することができるようです。
「はい」
第一層の草原では十分な量のマナの草とマナの花が採れたし、第三層でも小さな赤の魔鉱をいくつか採取しています。
炎は風を生み出すものなので、緑の魔鉱も少しだけありました。
これだけあればお祭りまでの半月近く商品の原料には困らないでしょう。
降りていくときは魔獣との対峙が必須ですが、帰りは帰還の護符で一瞬です。
ディマンシュの上に建てられたラビラントの大神殿に転移したわたし達は、神官に採取品に応じた税金を支払って外に出ました。
迷宮の六つの区域は中央のディマンシュだけでなく、わかりにくい隠し通路でもつながっています。
ほかの区域の魔獣まで流れ込んでこないように結界を張ってくれている大神殿には敬意が必要でしょう。
……ちょっと税金が高いかな、と思わないでもないですが。
「エメの店は冒険者ギルドの裏だと言っていたな。どうせ依頼完了の報告にギルドへ行くんだ。店まで送ろう」
神殿の外は真っ暗だったので、ローランさんが申し出てくれました。
彼の杖の先には光魔法の明かりが灯っています。
午前中に冒険者ギルドへ行って、お昼前に迷宮へ入って、第四層まで下りてこの時間なら上出来です。採取品も満足できる質と量ですしね。
「ありがとうございます」
建物の窓からこぼれる明かりに照らされたラビラントの町を歩きながら、錬金術師とエルフの魔法使いが話をします。
「ローランさんは、どうして迷宮を出て暮らしているんですか?……言いたくないことでしたら申し訳ありません」
「いや。秘密にするようなことじゃない。といって面白い話でもない。自分以上の魔法使いに会ったから弟子入りさせてもらって外へ出たというだけだ。師匠は迷宮で暮らすエルフではなく、外で暮らす人間だったんだ」
「そうなんですか」
師匠という単語を聞いて、わたしもお師匠様のことを思い出しました。
わたしは、本当は魔法剣士になりたかったのです。
恩人のリュシーさんに憧れていたのです。
でもわたしは剣士に向いていませんでした。
今日もローランさんが魔獣の動きを止めてくれていなかったら、一度も爆弾を当てられていなかったと思います。
根本的に身体能力が低いのです。
魔法の才能はちょっとだけあったのですが、村人の知り合いに魔法使いがいなかったので、村長の知人で錬金術師のお師匠様に弟子入りすることになりました。
今はこれで良かったと思っています。
冒険者ギルドで依頼完了報告を終えたあと、ふたりで『赤の止まり木』への道を辿ります。
「エメの爆弾は面白いな」
ローランさんはわたしの作った魔具に興味を持っているようです。
「そうですか?」
「普通の爆弾は魔獣の魔力を吸って爆発するだけだろう?」
「そうですね。でもそれだと今日のサラマンダーのように、皮の分厚い魔獣にはダメージを与えられないんです。だから魔鉱属性を変える変換水晶を利用し、変換して量が減ってしまった魔力の放出方向を固定することで無駄なく攻撃できるようにしたんです」
「魔法の使い方にも応用できそうな考えだな。魔銃は使わないのか?」
「魔銃は詠唱がいらない代わりに使える魔法が決まっているのと、使用者の魔力を一気に使い過ぎるのが問題なんですよね。ただそれも変換水晶を利用すれば、迷宮に満ちた魔力を利用して複数の魔法を……」
気が付くと、お店の前まで来ていました。
うん、錬金術師になって良かったです。
魔具や護符のことを考えていると楽しくて夢中になってしまいます。
魔法剣士になりたかったわたしなので、特に攻撃系の魔具には思い入れがあります。
そのうちお師匠様みたいに、護符に複数の付与効果を刻めるように──それ、魔銃にも応用できないでしょうか?
一点を撃つ魔銃なら皮を傷つけることもありません。
「エメさん?」
お店の前に金髪の青年が立っていました。
「あ、騎士……さん」
名前は思い出せません。
「店が閉まっていたから心配しました。ご病気じゃなくて良かったです」
「今日は採取しに迷宮へ行っていたんです。貼り紙を……」
見れば扉に貼り紙はありませんでした。
風で飛ばされたのかしら。
ううう、町を汚してしまいました。
「心配かけてすみませんでした」
「ご無事ならいいんです。それでは失礼します」
騎士の姿が消えたあと、ちょっとだけ魔具の話をしてからローランさんと別れました。
今日採取した分でお祭りまで足りると思うけど……いざというときに備えて店番を創っておいたほうがいいかもしれません。
お師匠様には製造許可をいただいていたのですが、これまでは自信がなくて挑戦していませんでした。
わたしはもう『赤の止まり木』の店長ですし、そろそろ創っておいたほうがいいかもしれませんね。
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