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第十二話 何度でも恋をする~元聖王ホアン~
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幸せそうな花嫁カロリーナの目尻に嬉し涙が滲んでいるのに気づいて、ホアンは思った。
(貴女が私の番でなかったとしても、私は貴女に恋をしたのでしょう。貴女を失う苦痛を癒してくれるこの温もりはきっと、貴女の幸せを喜ぶ心)
神殿の聖職者自体は結婚を許されているものの、最高位である聖王だけは独身を誓うことになっていた。政略結婚によって神殿が利用されることを防ぐためだ。
ホアンは自分が聖王であることに心から感謝していた。
だって自分の心を殺して結婚しなくても良いのだ。
(私はずっとこの貴女への恋を忘れずに生きていける……)
──その日が終わっても、月が替わっても、カロリーナ王女はホアンの番のままだった。
あんなにも異母弟ヘレミアスを愛していた彼女が、心を寄り添わせようとしないとは考えられない。
やがて、ふたりは白い結婚なのだと、ホアンは気づいた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
(おそらく母上のときと同じだったのでしょうね)
異母弟ヘレミアスとカロリーナ王女の一年目の結婚記念日を祝う夜会の日が来ても、王女はホアンの番のままだった。
獣王国の宮殿の大広間で開かれている夜会にカロリーナ王女の姿はまだない。
だというのに、異母弟は側妃ペサディリャと仲睦まじく寄り添っている。
(側妃になった母上のところへ父上が行くのは嫌だと異母弟の母親が泣き喚いたように、あの女もヘレミアスにカロリーナ王女のところへ行かないでくれとせがんだのでしょう)
それでホアンの母は毒杯を賜った。
獣王国に生まれた獣人族の貴族令嬢で、番というものを大切に思っていたホアンの母だから受け入れられた末路だ。
獣王国の獣人が政略結婚を理解していないと思われるのは当然のことだった。
カロリーナ王女が我儘を通して、番のいる異母弟に嫁いだのではない。
確かにヘレミアスを愛する王女はこの結婚を受け入れたけれど、この結婚を反故にしたくないと望んだのは獣王国も同じだ。
対外的に発表されているよりもずっと、この国の食糧事情は悪化している。
ホアンが獣王国の行く末を案じていたとき、大広間の扉が開いた。
背後に侍女を従えたカロリーナ王女の姿がホアンの瞳を射る。
自分自身の結婚記念日を祝う夜会だというのに、夫の王太子ヘレミアスにエスコートさえされていない王太子妃を嘲る視線に晒されても、王女の姿は気高く輝いていた。
(ああ……)
再び恋に落ちたホアンは、王女に向かって足を踏み出し手を差し出した。
不貞を疑われるような行動を取るつもりはない。
王女の瞳は夫である異母弟ヘレミアスだけを映しているのだから。
自分のこの忘れられない恋が叶う日が来るなんて、このときのホアンは夢にも思っていなかった。
ただ今だけ、今だけでも……愛する彼女を支えたかったのだ。
いずれ『番殺し』を飲む日が来て、結婚式のときに目の前で異母弟に口付けされるカロリーナを見たときの苦痛を思い出して、その苦痛に耐えきることもホアンは想像していない。
(貴女が私の番でなかったとしても、私は貴女に恋をしたのでしょう。貴女を失う苦痛を癒してくれるこの温もりはきっと、貴女の幸せを喜ぶ心)
神殿の聖職者自体は結婚を許されているものの、最高位である聖王だけは独身を誓うことになっていた。政略結婚によって神殿が利用されることを防ぐためだ。
ホアンは自分が聖王であることに心から感謝していた。
だって自分の心を殺して結婚しなくても良いのだ。
(私はずっとこの貴女への恋を忘れずに生きていける……)
──その日が終わっても、月が替わっても、カロリーナ王女はホアンの番のままだった。
あんなにも異母弟ヘレミアスを愛していた彼女が、心を寄り添わせようとしないとは考えられない。
やがて、ふたりは白い結婚なのだと、ホアンは気づいた。
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(おそらく母上のときと同じだったのでしょうね)
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それでホアンの母は毒杯を賜った。
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カロリーナ王女が我儘を通して、番のいる異母弟に嫁いだのではない。
確かにヘレミアスを愛する王女はこの結婚を受け入れたけれど、この結婚を反故にしたくないと望んだのは獣王国も同じだ。
対外的に発表されているよりもずっと、この国の食糧事情は悪化している。
ホアンが獣王国の行く末を案じていたとき、大広間の扉が開いた。
背後に侍女を従えたカロリーナ王女の姿がホアンの瞳を射る。
自分自身の結婚記念日を祝う夜会だというのに、夫の王太子ヘレミアスにエスコートさえされていない王太子妃を嘲る視線に晒されても、王女の姿は気高く輝いていた。
(ああ……)
再び恋に落ちたホアンは、王女に向かって足を踏み出し手を差し出した。
不貞を疑われるような行動を取るつもりはない。
王女の瞳は夫である異母弟ヘレミアスだけを映しているのだから。
自分のこの忘れられない恋が叶う日が来るなんて、このときのホアンは夢にも思っていなかった。
ただ今だけ、今だけでも……愛する彼女を支えたかったのだ。
いずれ『番殺し』を飲む日が来て、結婚式のときに目の前で異母弟に口付けされるカロリーナを見たときの苦痛を思い出して、その苦痛に耐えきることもホアンは想像していない。
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