夢は現となり、現は夢となる

第六夜 噂の展示物

　なあ。
　俺と一緒に死んでくれるか？
　その瞬間、世界から音が消えた。
　……いや、違うか。
　聞こえなくなったんだ。
　お前の心臓の音しか聞こえない。
　まるで世界に俺とお前しかいないみたいだな。

　俺は決めたんだ。
　だから、どうしても伝えておきたいことがある。
　お前のことが好きだった。
　ずっと前から好きだった。
　気付いた時にはもう手遅れでさ。
　どうしようもないくらい好きだったんだ。
　でも、こんな気持ちを知られたら、嫌われると思って言えなかったんだ。
　だから、この気持ちを隠したまま死のうと思ったんだ……。
　ごめんな。結局言っちまった。
　……なあ、聞こえてるか？
　……返事してくれよ。

　そうだよな。
　聞こえるわけないよな。
　分かっていたさ。
　ただ、最後にもう一度会いたかっただけだ。
　じゃあ、そろそろ行くぜ。



「え？　ホント？」
「うん。出たのよ。噂通り！」

　女子高生が二人、興奮した様子で話し合っている。
　そのキャピキャピと騒ぐ姿は愛らしく、若々しさに溢れているのだが……。
　彼女らの後ろにぴったりと張り付くようにいるのは、私と同年代くらいの壮年の男だ。
　ああ、また出てしまったのか。
　私は心の中で溜息を吐いた。

　ここはとある地方都市にある博物館だ。
　古今東西の様々な物が展示されており、月イベントでの展示物も毎回、好評を得ている当館だが、不名誉な曰くつきの噂が付いて回っている。
　曰くつきというのは中年男の幽霊が出るという荒唐無稽の話だ。
　その幽霊は当館で自殺した男なのだという。

　目の前でかしましい様子の二人はその幽霊を見たと言っているのだ。
　もちろん、そんなものはただの噂に過ぎない。
　彼女達のような若い女の子にとって、信じたくなる魅力があるようだが……。
　まあ、私にはよく分からないけどね。

　そもそも、好きな相手に告白出来ず、胸に秘めたままなどと斜に構えて、かっこつけた男というのは私なのだ。
　逃げるように学問に打ち込んでいるうちにいつの間にか、博物館の館長になっていたのだから、運命とは不思議なものだよ。

　ふむ。
　では、彼女らの後ろにいるあれは何かと不思議に思うかい？
　あれは単なる若い女の子が好きなスケベな幽霊だよ。
　当館の誇る立派な展示物の一つさ。