上 下
1 / 10

第零夜

しおりを挟む
「なあ、この小説の結末はどうなるんだ? なんで、主人公が死ななければならないんだよ?」
「あなたが読んだ通り。その通りなのよ」
「どういうことだよ」
「つまり、彼は最後の最後で間違いを犯して、死んだ。それがこの物語の全て。それ以上でもそれ以下でもないの」
「それで終わりなのか? 本当にそれだけなのか?」
「ええ、そうよ。他に何があるというの?」
「いや……その……」

 僕は言おうとした言葉を口に出せず、口ごもってしまう。

「わたしにもよく分からないのよ」

 幼馴染の彼女は実に素っ気なく、言う。
 いつも冷めたような感情の色を表さない瞳と整った顔立ちから、クール系美少女として、男子から密かに人気を集めているのを本人は知らないんだろう。

「わたし達が出会ってから、何年経ったと思うの? 分かるでしょ」
「あっ……うん。そうだね」

 彼女は立ち上がると腰に手をやり、私を見下ろした。
 その位置だとスカートの中が……とは言えない。
 言ったが最後、そのきれいな足が僕のお腹に振り下ろされる未来が見えるからだ。
 お腹なら、まだいいがその下だったら、再起不能になるかもしれない。

「もう帰ったら、どうなの? パパが帰ってくる前に部屋を片付けておかないといけないのよ」

 取り付く島もないとはこのことだろう。
 諦めた僕はのそのそと立ち上がり、ドアまで歩いていき、少しばかりの希望を胸に抱き、振り返った。

「また来てもいいかな?」
「いいわよ。でも、本をちゃんと持ってきてね」
「ああ、もちろんさ」

 彼女の家を出た僕は門を潜り、誰も見ていないのを確認してから、懐から本を一冊取り出す。
 『大いなる銀河への冒険』だった。
 この本には僕の知らないエピソードが数多く、載っているに違いない。
 読むのが楽しみだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

インター・フォン

ゆずさくら
ホラー
家の外を何気なく見ているとインターフォンに誰がいて、何か細工をしているような気がした。 俺は慌てて外に出るが、誰かを見つけられなかった。気になってインターフォンを調べていくのだが、インターフォンに正体のわからない人物の映像が残り始める。

カウンセラー

曇戸晴維
ホラー
あなたは、あなたの生きたい人生を歩んでいますか? あなたは、あなたでいる意味を見出せていますか? あなたは、誰かを苦しめてはいませんか? ひとりの記者がSMバーで出会った、カウンセラー。 彼は、夜の街を練り歩く、不思議な男だった。 ※この物語はフィクションです。  あなたの精神を蝕む可能性があります。  もし異常を感じた場合は、医療機関、または然るべき機関への受診をお勧めします。

【完結】私は彼女になりたい

青井 海
ホラー
丹後アヤメは凛とした女の子。 かたや桃井雛子は守ってあげたくなるかわいらしい女の子。 アヤメは、嫌われているわけでなく、近寄りがたいのだ。 いつも友達に囲まれ、ニコニコと楽しそうな雛子が羨ましい。 アヤメは思う。 『私は彼女になりたい』 雛子も同じように思っていた。 ある時、神社をみつけた雛子は願ってしまう。

ゾバズバダドガ〜歯充烏村の呪い〜

ディメンションキャット
ホラー
主人公、加賀 拓斗とその友人である佐々木 湊が訪れたのは外の社会とは隔絶された集落「歯充烏村」だった。 二人は村長から村で過ごす上で、絶対に守らなければならない奇妙なルールを伝えられる。 「人の名前は絶対に濁点を付けて呼ばなければならない」 支離滅裂な言葉を吐き続ける老婆や鶏を使ってアートをする青年、呪いの神『ゾバズバダドガ』。異常が支配するこの村で、次々に起こる矛盾だらけの事象。狂気に満ちた村が徐々に二人を蝕み始めるが、それに気付かない二人。 二人は無事に「歯充烏村」から抜け出せるのだろうか?

信者奪還

ゆずさくら
ホラー
直人は太位無教の信者だった。しかし、あることをきっかけに聖人に目をつけられる。聖人から、ある者の獲得を迫られるが、直人はそれを拒否してしまう。教団に逆らった為に監禁された直人の運命は、ひょんなことから、あるトラック運転手に託されることになる……

コルチカム

白キツネ
ホラー
都会から遠く、遠く離れた自然が多い田舎町。そんな場所に父親の都合で転校することになった綾香は3人の友人ができる。 少し肌寒く感じるようになった季節、綾香は季節外れの肝試しに誘われた。 4人で旧校舎に足を踏み入れると、綾香たちに不思議な現象が襲い掛かる。 微ホラーです。 他小説投稿サイト様にも掲載しております。

逢禍時

海土竜
ホラー
開けてはならないものほど、開けてみたくはなりませんか?……

【完結】御影山キャンプ場にて~彼此繋穴シリーズR15短編~

月城 亜希人
ホラー
お盆休みを利用して御影山キャンプ場で過ごすことになった三野瀬一家は得体の知れない恐怖と遭遇する。短大生の姉、愛美と高校生の弟、学の視点で交互に進むホラー。※謎を残す形になりますが、カテゴリエラーと年齢制限の問題を考慮し、作品を分割してあります。この物語はフィクションです。作品中に登場する人物、団体、行楽地などは架空の物です。

処理中です...