元OLの異世界逆ハーライフ

砂城

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第一章 ハイディン編

後だし情報は程々に

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 ドレスの仮縫いだの、サンダルのサイズ調整だのと忙しく日々を過ごしているうちに、どんどこ時間がすぎて行く。『月王』に向けての訓練に励んでいるロウとガルドさんの方も、順調に仕上がっているようだ。
 余談ではあるが、私の『月姫』出場が切っ掛けで、この二人も『月王』にでる事になったため、今、ギルドでは空前の『月王』ブームが起きていた。



「ったく、有象無象の連中がうっとおしいったらありゃしねぇ」
「あの腹黒狐め……」

 一度だけ、地下にあると言うギルドの訓練施設を私ものぞいたことがあるのだけど、ものすごい熱気だった。流石は体一つで荒稼ぎをする放浪者の面々だ、常にこうやって体を鍛えているのね、と思ったら違った。

「あのおっさん、レイちゃんが『月姫』になるなら、ついでに『月王』もうちのギルドでもらっちまおうって腹らしいぜ。腕に覚えのある連中にわざわざ回状まで回して、呼び集めたみてぇだなぁ」
「全く……余計なことをしてくれる」

 熱気むんむんな訓練場を見ながら、二人共超不機嫌な低い声で話していたっけ――もし、今、ギルド長さんが目の前に居たら、その首根っこを掴んで締め上げかねない。まぁ、余計なことをしてくれた、ってロウの台詞は私も同感だから、隙があれば足の一つも踏んでやりたい気持ちになる。
 って言うか、これだけの人がギルドから出場するってことは、ロウもガルドさんもかなりの苦戦を強いられるのではなかろうか……?

「安心してくれや、レイちゃん。あの連中なんざ、俺らの敵じゃねぇよ」
「だからと言って、油断はするつもりはないが……大丈夫だ。大船に乗った気でいろ」

 二人がそう言ってくれたから、それを信じるしかない。ホントにお願いします。どこの誰ともしれない相手に、キスなんてしたくありません。って、なんかもうすっかり、私が『月姫』で優勝する気になってないかい?

「レイちゃんなら、絶対に優勝できるって」
「そうだな。お前以外が選ばれるところなぞ、想像できん」

 身贔屓も甚だしいが、二人が頑張っているんだから、私もそれに応えないとね。
 そして、二人が訓練をしている間に、私はシーラさん達と過ごしているのだけど、何度も顔を合わせているうちにすっかり仲良くなることが出来ていた。
 最初の顔合わせの時みたいに出かけることもあったけど、この日は、ギルド内での美容講習ということになっていた。シーラさんもラナさんもエルザさんも、本来はギルドの職員さんで、各々の担当している仕事がある。『月姫』までは融通をきかせてもらえるらしいが、本人じゃないと対応できない案件もあるだろうから、そう毎日、ギルドを留守にもできないからね。

 ギルド内の部屋を借りて、お肌のお手入れに関してその道の達人を自任するラナさんにあれこれと教わっていた――んだけど、女同士で、しかも全員既婚(?)って気安さもあり、結構きわどい話題が出たりもするんだよね、これが。

「それにしても、あの二人を相手に毎晩……って、レイちゃん、意外と体力あるのねぇ」
「い、いえ、毎晩って訳でもないんですけど……」

 うん、嘘じゃない。確か、一回か二回は、無しな夜もあったはず……それ以外の日の事は、今は思い出したくありません。

「それで、どうなの、『銀狼』と『轟雷』って?」
「どうなの……と言われましても、その……まぁ、普通? だと思います」

 マニアックなプレイとかはされたことがないから、とりあえずそう言っておく。一人に付き平均二回とか、シちゃった夜はほぼ毎回、イき堕ち寸前まで追い詰められるとかが、『普通』の範疇に入るなら、だが。

「普通? 普通、ねぇ……まぁ、その辺は深くは追及しないけど、やっぱり愛されてる女って言うのは、それだけで二割増しに綺麗になるものよね」
「レイちゃんが二割増しになったら、それこそ無敵よねぇ」
「全くだわ。うらやましいったらありゃしない」

 順番にラナさん、シーラさん、エルザさんの台詞だ。

「で、でも、皆さんも旦那さんがいらっしゃるんですよね?」
「まぁ、そうなんだけどね……」

 憂いを秘めたため息が、ラナさんの口から洩れる。

「うちはシーラのところとは違って、亭主一人に妻が四人だっていうのは話したわよね?」
「はい」

 家族構成については、初日に大体の事をきいている。シーラさんちは旦那さんが三名で、エルザさんのところは、旦那さんが一人に奥さんが三名、ラナさんのところは今本人が言った通り、だったよね。旦那さんと奥さんのどっちがメインになるかは、完全に個人の選択に任されていることが、彼女たちの話からも伺える。

「私は二番目に嫁いだんだけど、今のところ、子供がいるのが最初の奥さんだけなのよね。何で、そろそろ二人目をって話になって……」

 ふむ、妊活に関する悩みかな? 

「この前の満月詣の話なのよ。先月、私が孕まなかったんで三番目のアリサの順番だったのに、四番目のライラが神殿にまでついてきちゃってね。『私だって早く赤ちゃんが欲しいんですぅ』とか言っちゃって……で、旦那もやっぱり一番若い妻には甘いのよねぇ。結局三人でお祈りしちゃったもんだから、あれ以来、一度に二人相手よ。で、体力が保たない、とか私に泣きついてくるのよ」
「は? え……?」

 あれ? なんか私の予想していた内容と、ちょっと違う……。『先月、孕めなかった』はともかく、『満月詣』って何?

「泣きつくだけ泣きついて、その後は『はい、おやすみなさい』とか冗談じゃないと思わない? そりゃ、先月はしっかりと可愛がってはもらったけど、孕めなかったのは亭主の責任も半分はあるんだし――だから、『かわいそうにねぇ』って言って愚痴聞いてあげた後は、絞れるだけ絞りとってやってるのよ」
「やるわね、ラナ……だけど、順番を守ってるならともかく、抜け駆けした上に子供ができるなんて許せないわよね。その点、うちはもう他の二人に子供がいるから、次は私って決まってるんだけど……」

 ラナさんの話に続いて、今度はエルザさんだ。

「子供が夜泣きして睡眠不足だからしばらく遠慮します、なんてミレイがいうんで、本当は私は三日に一度のはずが、最近、一日おきなのよ。で、うちの旦那って……ラナは知ってるわよね?」
「ああ、あの超お元気な……」
「そうなのよ。三日に一度だから、まだこっちの体力も続いてたのに、それが一日おきになっちゃったでしょ? 私もルシリアもへとへとで……せっかく順番が来ても、この状態で私が妊娠でもしたら、ルシリアが死んじゃうわ」
「それも困るわよねぇ。でも、そこまで凄いとは知らなかったわよ」
「凄いなんてもんじゃないわよ。しかも、旦那の○○って、×××で、****なもんだから、ついついこっちも◇◇ちゃって――こないだなんて、ルシリアと二人掛かりで△△したら、気に入ったらしくて……」

 うっはぁぁ、そこらのAVよりすごくないですか、それ。赤面しつつも、耳がダンボになってしまいます。

「ええ、なにそれ。そんなことするの?」
「シーラは旦那さん達に可愛がられる方だからしなくていいわよ……したら、大喜びでしょうけどね。やってみたいなら、教えるけど?」
「いえ、いいわ……そんなことしてこれ以上頑張られたら、エルザのお宅じゃないけど私が死んじゃうわよ」
「あら、まだ毎晩二人掛かり――いや、今は三人よね、大丈夫なの? お腹の子に障りとかは……?」
「流石に今は遠慮してもらってるわ。それに、元々、私の体の為にも交代でする、なんて言ってたのよ。でも、いざそうなると、どっちが先になるかでもめたらしくて……」
「部屋を分けたって言ってたわよね?」
「つかわない無駄な部屋ができただけだったわ……お揃いで仲好くノックしてくるのに、一人だけ受け入れて、他の二人を追い返せる?」
「ああ、そりゃ無理よねぇ……」

 夫婦の悩みっていうのは、その夫婦の数だけあるものだってのは聞いたことがあるんだけど、こっちはそれに輪をかけてバリエーションが豊富なようだ。圧倒されちゃって、すっかり聞き役に回っていたんだけど、ヒートアップしていたのが少し落ち着きを見せてきたところで、さっきから気になっていたことを尋ねてみた。

「すみません、さっきのラナさんのお話なんですけど……」
「あら、なぁに、レイちゃん? 何か聞きたいことがあるのかしら?」
「はい、あの……先程、ラナさんは先月、妊娠できなかったっておっしゃってましたよね。それって、期間を決めて妊娠できるかどうか試していたってことでしょうか? それと『満月詣』って言うのは、何なんでしょう?」
「あら。レイちゃんのところではやらないの?」
「やらない、というか、そう言う風習は聞いたことが無くて……」
「まぁ……ああ、でもレイちゃんはこの辺りの出身じゃなかったんだっけ」
「ええ、ここからずっと遠いところです。きっと、もう、帰る事は出来ないと思います」

 異世界からやって来たなんて言えないから、こういう言い方になるのは仕方がない。

「まぁ、そうだったの……ごめんなさい、辛いことをきいてしまって」
「いえ、今は仲間も出来ましたから……ただ、その、こういう話題って中々、尋ねにくくて……」
「そりゃそうよねぇ……苦労してるのね」
「私達にまかせておきなさいな。わからないことがあったら何でも訊いていいからね」
「はい、ありがとうございます」

 あまりにも親身になってくれるんで、良心の咎めが……ごめんなさい、皆。でも、知らないのは本当なので、いろいろ教えてください。


「それじゃ……まずは、そうね、『満月詣』から説明するわね。この街の神殿は、レイちゃんも見たことあるかしら、市庁舎の隣にある大きな建物よ」
「あ、はい。白い石造りの、ですよね」
「そうそう。それでね、ここの住民は、伴侶が増えた時や、子供が欲しいって思った時にあそこにお参りに行くのよ。満月の日にやることが多いから『満月詣』って言ってるわ」

 ほー……子宝祈願のお地蔵さまにお参りに行く感じなのかな? と思ったら、少し違う様だ。

「シーラは夫三人と行ったみたいけど、私やエルザだと旦那と二人で、ってことになるわね。そうじゃないと、いっぺんに奥さんたちに子供ができたら大変でしょ?」
「お参りに行くと子供ができるんですか?」
「必ず、ってわけじゃないけどね。で、一月たって妊娠してなかったら、また行くのよ。旦那が一人のところは、次の順番の奥さんと行く事が多いかしら。運に左右されることだけど、機会は均等に与えられるべきだしね」

 うん、奥さん(旦那さん)達を平等に扱わないと後が怖い、って話は聞いている。聞いてはいるが、どうも今一、ピンとこない。お参りをしたら妊娠する(かもしれない)けど、行ってない人は絶対そうはならないっていうふうに聞こえる。

「えっと……ラナさんやエルザさんのご主人は、その間に他の奥さんと、その……エッチしたりはしないんですか?」
「あら、勿論するわよ。でも、一緒に神殿に行った相手とじゃないと、子供は出来ないわね。先月の私は、見事に空振りだったけど」
「つまり、神殿にお参りした女性だけに、妊娠のチャンスがあたえられる……?」
「そうそう、そういうことよ。神殿がないような小さな村でも祠(ほこら)はあるから、そこで祈れば子供が授かるわね」

 確認してみたら、やっぱりそういう答えが戻って来る。ええ……いったいどういうシステムなんだ、これ? 
 あ、そう言えば、もう一つ、聞きたいことを思い出した。

「えっと、それから……生理、なんですけど。みなさん、どうやって処置してらっしゃるんですか?」

 こっちに来てから二月近くになるが、実はまだ来てないのだ。前の私は、きっちり二十八日周期できていたんだけど、この体は生理不順なのだろうか、と疑問に思っていた。けど、どのみち何時かは来るはずだが、流石に、男性であるロウやガルドさんに始末の仕方を聞くのは憚られる。
 ここまであけすけな話題になってるんだし、ついでだから、こっちも教えてもらえればありがたいと思った次第だ。
 ところが、ですよ。

「え? なぁに、それ?」
「あ、こっちではそう言う言い方はしないのかな? 月のもの……?」
「どちらにしても、聞いたことがないわね」
「あれ? あの……月に一回、なんていうのか……あそこから血が出る奴の事ですけど」
「ええっ? そんなの聞いたことないわ。それって、何かの病気じゃないの?」
「……は?」

 ちょっと待て。こっちの人って、ほ乳類じゃ無かったりするのか? そう言えば、子供が出来たとは聞いたが、赤ちゃんとして生まれてくるかどうかってのは、まだ確認していない。もしかして、卵の形で生まれてきたり……?
 大きな卵を、シーラさんと旦那さん達が仲良く温めているところを想像してしまい、軽いパニックになりかけたところで、エルザさんから待ったがかかった。

「いえ、まって……確か、古文書にそんなことが書いてあるのをみたことあるわよ」
「あら、エルザ。それ、本当?」
「ええ、ギルドの書庫にあるやつよ。暇つぶしに読んでたら、そんなのがあったの――どこかの遺跡の碑文を写した奴だったんだけど、女は月に一度、血で『穢れ』るから、その間は隔離しとくとかなんとか……」
「何それ、ひどくない?」
「ラナったら、私に言わないでよ。そういう記述があったってだけよ。で、確か……大昔は魔力がない人が多くて、そういう事があったらしいんだけど、今はほとんどの人にあるじゃない? なので、そういったおかしな体の変化もなくなったんだとか」

 魔力があると、生理が来ないって……じゃ、排卵はどうなるんだ? 
 今までの話を総合すると、お参りすると排卵して、妊娠の可能性が生じるって解釈ができるよね。そして、この私に、今まで一度も生理が来てないのも、『魔力がある』ことに加えて、『神殿に行ってない』からってことで説明はつく――つくんだけど、排卵があれば生理も……え? やっぱり来ないの? どういう体のシステムになってるのか、想像できません。とにかく、全部、魔力があるから……って、なんですか、その魔力万能説。

「まあ、大昔は今よりもずっと寿命も短かくて、五十年足らずで死んでたらしいのよ。そう言う不調が毎月来てたんなら、早死にしていたのも頷けるわ」
「今の三分の一っ? 信じられないわ」
「五十なんていったら、私なんかもうすぐよ。とんでもない話だわね」

 こらこらこら、またものすごいことが飛び出したぞ。生理と妊娠の話だけでもうお腹いっぱいだったのに、今度は寿命の話ですよ。五十で三分の一ってことは、今の平均寿命は百五十才? そして、ラナさんがもうすぐ五十って……マジ?

「あ、あの……失礼ですが、ラナさんっておいくつなんですか? 私、てっきり私よりもちょっと上くらいかと思ってたんですけど?」

 女性に年齢を訊くのはタブーではあるが、流石に聞き捨てならない。ちゃんと『若く見えますけど』って意味を匂わせたから、あまり気を悪くはしないと思うけど。

「あら、やだ。お世辞にしてもそれは言い過ぎよ――そうねぇ、レイちゃんだから教えちゃうけど、次の新年で実は四十七よ」

 四十七で妊活とか、もし出来ちゃったらものすごい高齢出産じゃないですか。でも、さっきからそれをごく当たり前みたいに話をしてたし、こっちでは普通の事なのかもしれない。

「いえ、本当にそう思ってたんです。それじゃ、シーラさんとエルザさんも……?」
「私はまだ三十八よ」
「私もシーラと同い年ね」

 シーラさんとエルザさんも、前の私よりも年上だと判明する。だけど、ここにもし、私が前の体で二人と並んだら、絶対年上に見えるのは私の方だと自信をもって言い切れる――ちょっと悲しいけどね

「まだって、何よ。まだって――十才違いたって、お肌のつやはあんたたちには負けないわよ?」
「まぁ、ラナのお肌に関する情熱はすごいから……」
「ラナなら百を過ぎても、ぴっちぴちの肌してそうよね」
「そりゃ、日ごろの食べものから気を使ってるんですから当然よ――レイちゃんも、若いからって油断しちゃだめよ? 美肌は一日にしてならず! 若いころからの節制とお手入れが重要なんですからね」

 そして、こっそり私が落ち込んでいる傍らで、話題はいつの間にか、本来の目的であるお肌のお手入れ方法に戻ったようだ。もっと掘り下げて聞きたかったのだけど、あまりそこばかりを突っ込んで不審に思われても困る。『月姫』で優勝するためにも大切な話だったんで、私も気持ちを切り替えて、しっかり勉強させてもらった。
 ――詳しい事は、後でロウとガルドさんを締め上げよう。男性には尋ねづらかったアレコレなんだけど、こうなったらそんな遠慮してる場合じゃないよねぇ……。



「――ってことで、キリキリ白状してください」
「……すまん、教え忘れていた」
「何、やってやがる……」

 宿に戻って早々に私に睨まれて、反省の面持ちのロウに、ガルドさんが追い打ちをかける。

「しかし、ガルド。お前だって、言っていなかっただろう」
「俺ぁ、とっくの昔にお前が説明済みだと思ってたんだよ」
「くっ……」

 まぁ、頭から『できない』ってわかっていれば、いちいち口にすることでもないかもしれない。しかし、それは女性の方にも知識がある場合の話だ。無駄手間になるかもしれないにしても、念のため、説明してくれもよかったと思うよ?

「しかし、それが初耳ってこたぁ、レイちゃんのいた世界では違うのか?」
「そうだね。きちんと避妊しないと、赤ちゃんができる可能性は常にあったよ」

 ヤればできる。どこぞの某テニスプレーヤーじゃないけど、私にとってはそれが当たり前のことだったからねぇ。

「けどよ、その割にゃ……?」
「ああ、その事ね……」

 皆まで言うな、です。さんざん、ロウにもガルドさんにも中○しされて、それに対して苦情を言い立てることもなかったのを指摘したいんだろう。

「孕んでも問題ねぇって思ってたってことか?」
「ちょっと違うかな。あのね、あっちでは危険日って言うのがあってね――危険っていうか、受胎可能日と言ったほうが良いかもしれないんだけど、妊娠しやすい期間ってのが解明されてたのよ」

 危険日についての説明は、二人には理解できないだろう。なにせ、そもそも生理ってのがないらしいんだから。なので、そこは端折って話を続ける。

「白状するけど、最初にロウとそういう関係になった時は、妊娠の事なんか頭になかったってのもあるんだ。で、その後も何時になっても生理は来ないし、だからと言ってつわりが始まる感じでもなかったし……で」

 昼間に女性陣と話していた時も思った事なのだが、生理不順なんだろう、ってことで納得していたのだ。女性の体はデリケートだから、ちょっとしたことでも周期が狂ったりするっていうでしょ。そう考えると、中身(?)が丸ごと入れ替わっちゃってるなんて、『ちょっとした』程度じゃすまないよね。そんな状態で妊娠するとも思えないしで、避妊については次の生理が来てから考えたんで間に合うだろう、って暢気に構えてたってのが本当のところです。

「レイは、子供が欲しいのか?」
「まぁ、そりゃいつかは……ね。だけど、今はまだ自分の事で精いっぱいだから、そこまで考えられないかなぁ」
「そうか……」
「それに、こっちだと人生百五十年、なんだってね? なら、時間はまだいっぱいあるよね」
「……それも話してなかったのかよ。つか、ここまであれこれ違うたぁ、流石は異世界だな、レイちゃんのとこは」

 ガルドさんのツッコミに、ロウがもう一回、しまった、って顔をするが、流石にこの件に関してはフォローしてあげよう。

「人生が二倍近くになったなら、その分、長く二人といられるんだから嬉しいよ。それに、今はまだ何時になるのかちょっとわからないけど、いつかは、二人の赤ちゃんが欲しい、って思ってるよ」

 ちょっと恥ずかしそうにして言ってみると、それを聞いたロウの顔が覿面に赤くなった。ガルドさんもまんざらじゃないって顔をしてくれてる。そして、こういうことができる私って、悪女の素質があるんじゃないだろうか。

「男の子がいいな。二人に似たら、きっと強くて優しい子になるだろうね」
「俺は、レイに似た娘がいい。美しくて思いやりのある子だろうからな」
「俺ぁ、どっちでもいいぜ。男なら力いっぱい鍛えてやるし、女ならやっぱり力いっぱい可愛がってやる」
「娘ができたら、二人共むちゃくちゃ甘やかして育てそうだね。で、大きくなってお婿さん候補を連れて来たら『お前なんかにウチの娘はやれん!』って、たたきだすんだよね?」
「……かもしれん」
「あり得るなぁ」

 そんな、どこの新婚バカップルですか? な会話をしつつも、頭のどっかで、今日知ったことを考える。

 昔は魔力のある人が少なかった。でも今は、皆、魔力を持っている。
 もしかしてこれが、こっちの世界が複数婚である理由の一つなのかもしれない、って。

 魔力があるのが遺伝するのだとしたら、それを持つ男性がいたら、女性は自分の夫になってほしい。そうして、魔力のある子供を産みたいと思うだろう。同じく、それが女性であれば、やはりたくさんの男性が『自分の子供を産んでほしい』と願うのが当然だよね。だけど、男性なら、合意に基づいて片っ端から手を付けて、大勢の子供をつくれるだろうけど(いや、それを推奨するわけじゃないんだけど)、女性なら力づくで妊娠させられてしまうかもしれない。望まぬ妊娠を、何度も強要されるかもしれない。そういう事にならないように、ある程度の緩やかさを持った婚姻のシステムは、女性を守るためにも必要不可欠だったはずだ。

 そして、もう一つ――寿命が延びたことにより、排卵(?)が抑制されるようになった、というのは突飛すぎる考えだろうか?
 こちらの女性の妊娠可能な期間がどれだけあるのかはわからないが、百は言い過ぎとしても、ラナさんを見れば七~八十才くらいまでは十分、妊娠出産に耐えると思われる。結婚するのが二十歳前として、それから六十年間も生み続けると仮定すると、母体への負担はものすごいことになるだろう。
 だから、それを防ぐ為にも、魔力で体が変化していった――あるいは、させていった、と考えたら? 勿論、一世代や二世代の話ではないだろう。けど、数世代を経て魔力を持ち、寿命の長い人が増えるのにつれ、徐々に変わってきたのではないだろうか? 無意識に体を巡る魔力を使い、望んだ時に妊娠できるようになってきた、と。

 ……まぁ、全部私の想像でしかないんだけどね。あちらの世界での知識――それも、普通に学校で習う程度ので、こちらで生きている人の体の仕組みがどうなっているのか、本当の事が分かるはずもない。何しろ、リアルに神様のいる異世界なんだから、『神様がそうしたんです』の一言で済んじゃう可能性だってあるんだしねぇ……ってことで、考えるのはここまで!
 そんな事よりも、今は目の前に迫ってる夏至祭の方が重要だから、きっぱり頭を切り替えることにしましょう。
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