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闘うネトゲ廃人と暴走する異世界プリンセスと(現実世界パート)
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《僭王の使いが来た!》
リューナはシャントの身体を押しのけると、閂を外して戸を開けた。
……僭王って?
沙羅の王家に反乱を起こしたヤツらしいと思い当たったところで、液晶画面に一瞬だけ横線が光った。松明の灯が差し込んできたのだ。
その中に見えたのは、男たちが抱えて持っていく丸太だった。どうやら、戸をぶち破るために持ってきたらしい。見ただけで、俺の腹にも怒りが込み上げてきた。
……ひでえことしやがる。
それでもよほどテヒブが怖いのか、手に手に棍棒を持って駆け込んできた村の男たちは、シャント…山藤がわたわたと構えた武器に怯んであとじさった。
《テヒブを……テヒブを出せ!》
言いよどむ声に男たちの弱気を見て取ったのか、シャント…山藤はたどたどしい異世界語で言った。
《テヒブ……行った》
《どこへ!》
いないと分かると調子のいいもので、男たちは、がぜん強気になっていた。シャントが長柄の武器を横に払って、日本語ではっきりと言う。
《テヒブさんはヴォクス男爵を追って消えた》
テヒブと吸血鬼の名前しか分からなかったはずだが、シャントの勢いに押されて、男たちはたじろいだ。ひとり、またひとりと武器の指す方向に目を遣る。それはヴォクスとテヒブの消えた辺りを指しているようだった。
男たちがそれを理解したかどうかは分からないが、誰かが呻くようにつぶやいた。
《何でお前がヴォクスの名前を……》
言葉の通じないよそ者のガキと侮っていたらしい。山藤なら仕方ないが、それでも武器をつきつけて黙らせる甲斐性はあった。
《出せ!》
シャント…山藤は異世界語で叫んだ。だが、男たちはぽかんとしている。スマホ画面で見ているだけでも、緊張感は一気にダダ崩れに崩れてグダグダになった。
慌てて武器を振りまわしはじめたが、これはさすがに危ない。何とかに刃物、山藤にも刃物だ。男たちは棍棒を振るう間もなく、たじろいだ。
こいつらも、たいしたことないらしい。
根性なし同士が再び睨み合う、というかお互いの様子をうかがうという妙な形で緊迫感が戻ってくると、シャント…山藤は日本語で凄んだ。
《出ていけ!》
その武器に飛びついたのは、意外にもリューナだった。長い柄を抱え込むと、ロックコンサートのヘッドバンキングよろしく首を上下に振る。シャントは武器を手にしたまま、呆然とした様子でそれを眺めていた。
男たちにもようやく余裕が戻ってきたのか、ひとり、またひとりと棍棒を構えてシャントとリューナににじり寄っていく。やがて、二人は村の男たちに包囲されていた。ただ、戸口の辺りだけは外に出られるように空けてあった。
外から、呼ぶ声がした。
《ついてこい》
リューナは抱えた武器を放すと、暗闇の中に燃える松明の群れに向かって歩き出した。シャントも、長柄の武器で男たちを牽制しながら後に続く。
男たちがテヒブの家をぞろぞろ離れていくところで、俺はそのなかのひとりだけが動かないのに気がついた。
マーカーを置いた男を動かして、その男のそばに寄る。
そいつは、俺から逃げるようにふらふらと歩き出した。その向こうには、ヴォクスとテヒブが戦った跡がある。
俺はそこで気付いた。
……沙羅だ!
モブを走らせて、先回りする。男はぶち当たってきた。なおも押し返すと、そいつは棍棒を振り下ろしてくる。後へ退くと、脇をすり抜けようとする。
スマホ画面をタップして、自分の方の棍棒を動かした。だが、そいつは怯む様子もない。デタラメに棍棒を振り回してきた。
《何やってんだお前ら!》
男が2人駆け寄ってきて、俺たちの操るモブを捕まえた。取っ組み合いの当事者になった瞬間、マーカーが外れる。
モブたちは棍棒を手にしたまま、正気を取り戻した。
《いや、俺たちは何も……》
きょろきょろしている二人の棍棒を取り上げた男たちが、それぞれの武器を目の前につきつけた。
《今、これで喧嘩を》
《俺たちが?》
事情を呑み込めていないのは無理もないが、この場にいる男たちにしてみれば、不可解極まりない出来事だろう。各々が顔を見合わせているところで、ひとりが言った。
《ヴォクス男爵じゃないか?》
残りの3人が表情を凍らせた。俺が操ってたのが口を開く。
《遠くから人を操るっていう、あれか?》
話がちょっと見えなかった俺は、ギクッとした。
……何でこのアプリ知ってるんだ?
これが俺と沙羅のゲームだってことは、この異世界でシャントやってる山藤でさえ知らない。モブが知っているはずはなかった。
別のひとりの言葉で、その疑問は解けた。
《ヴォクス男爵が、どこかで見てるんだ》
吸血鬼は、見える相手を遠くから操れるということだ。
厄介な能力だが、それが効いているというのは今、ここではありがたい誤解だった。男4人が、ほとんど同時に逃げ出したおかげで、沙羅の暴走もつじつまが合う。誰も不自然に思わないだろう。
入れ替わりにシャント…山藤が鈍く光る長柄の武器を手に、あたふた走ってきた。その後に、リューナが続く。
シャントはしばらく、しかめ面して辺りを見渡していたが、やがてリューナをかばうようにそろそろと後じさった。
それを追ってみると、男たちの先頭に立つリューナのそばについて、暗い夜道を歩き出した。
俺は画面を閉じて、アプリのメッセージを沙羅に送った。
リューナはシャントの身体を押しのけると、閂を外して戸を開けた。
……僭王って?
沙羅の王家に反乱を起こしたヤツらしいと思い当たったところで、液晶画面に一瞬だけ横線が光った。松明の灯が差し込んできたのだ。
その中に見えたのは、男たちが抱えて持っていく丸太だった。どうやら、戸をぶち破るために持ってきたらしい。見ただけで、俺の腹にも怒りが込み上げてきた。
……ひでえことしやがる。
それでもよほどテヒブが怖いのか、手に手に棍棒を持って駆け込んできた村の男たちは、シャント…山藤がわたわたと構えた武器に怯んであとじさった。
《テヒブを……テヒブを出せ!》
言いよどむ声に男たちの弱気を見て取ったのか、シャント…山藤はたどたどしい異世界語で言った。
《テヒブ……行った》
《どこへ!》
いないと分かると調子のいいもので、男たちは、がぜん強気になっていた。シャントが長柄の武器を横に払って、日本語ではっきりと言う。
《テヒブさんはヴォクス男爵を追って消えた》
テヒブと吸血鬼の名前しか分からなかったはずだが、シャントの勢いに押されて、男たちはたじろいだ。ひとり、またひとりと武器の指す方向に目を遣る。それはヴォクスとテヒブの消えた辺りを指しているようだった。
男たちがそれを理解したかどうかは分からないが、誰かが呻くようにつぶやいた。
《何でお前がヴォクスの名前を……》
言葉の通じないよそ者のガキと侮っていたらしい。山藤なら仕方ないが、それでも武器をつきつけて黙らせる甲斐性はあった。
《出せ!》
シャント…山藤は異世界語で叫んだ。だが、男たちはぽかんとしている。スマホ画面で見ているだけでも、緊張感は一気にダダ崩れに崩れてグダグダになった。
慌てて武器を振りまわしはじめたが、これはさすがに危ない。何とかに刃物、山藤にも刃物だ。男たちは棍棒を振るう間もなく、たじろいだ。
こいつらも、たいしたことないらしい。
根性なし同士が再び睨み合う、というかお互いの様子をうかがうという妙な形で緊迫感が戻ってくると、シャント…山藤は日本語で凄んだ。
《出ていけ!》
その武器に飛びついたのは、意外にもリューナだった。長い柄を抱え込むと、ロックコンサートのヘッドバンキングよろしく首を上下に振る。シャントは武器を手にしたまま、呆然とした様子でそれを眺めていた。
男たちにもようやく余裕が戻ってきたのか、ひとり、またひとりと棍棒を構えてシャントとリューナににじり寄っていく。やがて、二人は村の男たちに包囲されていた。ただ、戸口の辺りだけは外に出られるように空けてあった。
外から、呼ぶ声がした。
《ついてこい》
リューナは抱えた武器を放すと、暗闇の中に燃える松明の群れに向かって歩き出した。シャントも、長柄の武器で男たちを牽制しながら後に続く。
男たちがテヒブの家をぞろぞろ離れていくところで、俺はそのなかのひとりだけが動かないのに気がついた。
マーカーを置いた男を動かして、その男のそばに寄る。
そいつは、俺から逃げるようにふらふらと歩き出した。その向こうには、ヴォクスとテヒブが戦った跡がある。
俺はそこで気付いた。
……沙羅だ!
モブを走らせて、先回りする。男はぶち当たってきた。なおも押し返すと、そいつは棍棒を振り下ろしてくる。後へ退くと、脇をすり抜けようとする。
スマホ画面をタップして、自分の方の棍棒を動かした。だが、そいつは怯む様子もない。デタラメに棍棒を振り回してきた。
《何やってんだお前ら!》
男が2人駆け寄ってきて、俺たちの操るモブを捕まえた。取っ組み合いの当事者になった瞬間、マーカーが外れる。
モブたちは棍棒を手にしたまま、正気を取り戻した。
《いや、俺たちは何も……》
きょろきょろしている二人の棍棒を取り上げた男たちが、それぞれの武器を目の前につきつけた。
《今、これで喧嘩を》
《俺たちが?》
事情を呑み込めていないのは無理もないが、この場にいる男たちにしてみれば、不可解極まりない出来事だろう。各々が顔を見合わせているところで、ひとりが言った。
《ヴォクス男爵じゃないか?》
残りの3人が表情を凍らせた。俺が操ってたのが口を開く。
《遠くから人を操るっていう、あれか?》
話がちょっと見えなかった俺は、ギクッとした。
……何でこのアプリ知ってるんだ?
これが俺と沙羅のゲームだってことは、この異世界でシャントやってる山藤でさえ知らない。モブが知っているはずはなかった。
別のひとりの言葉で、その疑問は解けた。
《ヴォクス男爵が、どこかで見てるんだ》
吸血鬼は、見える相手を遠くから操れるということだ。
厄介な能力だが、それが効いているというのは今、ここではありがたい誤解だった。男4人が、ほとんど同時に逃げ出したおかげで、沙羅の暴走もつじつまが合う。誰も不自然に思わないだろう。
入れ替わりにシャント…山藤が鈍く光る長柄の武器を手に、あたふた走ってきた。その後に、リューナが続く。
シャントはしばらく、しかめ面して辺りを見渡していたが、やがてリューナをかばうようにそろそろと後じさった。
それを追ってみると、男たちの先頭に立つリューナのそばについて、暗い夜道を歩き出した。
俺は画面を閉じて、アプリのメッセージを沙羅に送った。
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