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インターミッション・走馬灯の夢の果てに
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ここに御佩《はか》せる十拳《とつかの》剣《つるぎ》を抜きて、後手《しりへで》に振きつつ逃げ来《く》るを……(古事記)
「行くぞ公文!」
引退を控えた3年生の部長が、コート最後方にいる僕に振り向いた。
「え……?」
何のことか、よく分からなかった。
僕は確か、12世紀のヨーロッパで大西洋のど真ん中に落ちたはずだ。
「あ、そうか……」
これは、死ぬ前に目の前を走馬灯のように駆け巡るという、人生のステージだ。
つい昨日の……つまり、800年後の昨日というややこしい日の、あのみじめな敗北の1シーンだ。
楓ヶ谷学園の体育館で行われた、魔法格闘対抗戦の団体戦のコートに、僕は立っていた。。
「お……おお!」
同じ場面の再現なら負けるに決まっているのに、僕は精一杯の元気で返事をした。
中世の兜を模したヘルメットをかぶって、フェイスマスクを着ける。顔面を守るものだが、そのままだと仲間が識別できないので、各々がカスタマイズをするのが普通だった。
僕のは、冷たく笑う悪魔の仮面だ。
プロテクターは、個人格闘とは違って中世の全身鎧に似せてある。ただし、金属ではない。魔法使いだけに伝わる方法で草の葉や木の皮から作られた、それでいて頑丈な素材が使ってある。
両軍に分けられたコートの両端には、校旗が掲げられている。僕たちは、それぞれの魔法高校の名誉を背負って戦うのだ。
制限時間の間、体力の続く限り武器と腕力、ときには呪文で戦って相手を全滅させるか、試合終了時に敵陣に残っている人数の多い方が勝ちとなる。
それで勝負がつかなければ、転倒させられてダウンした回数の合計が少ない方が勝つことになっている。
選手は、腰から上を床に着けたらダウンと見なされ、これが3回目になると退場しなければならない。
あるいは、体力がもたないと本人か審判が判断したら退場。
倒れてから10カウント取られると、審判が「気付け」の呪文で活を入れて退場させる。
こうならないように、どのチームでも1人だけ「防護陣」の呪文を唱える担当がいる。
僕はその「防護陣」の担当として、フォーメーションを組んだ味方の後ろに立っていた。この担当になると、他の呪文は使えない。使えば、「防護陣」担当ではなくなる。
1チームは12名。それぞれの学校によって戦法が違うので、人数の配分は様々だ。
部長がつぶやく。
「サザン・クロス……」
今回のフォーメーションは、こうだった。
前衛、つまり最前線の斬り込み部隊が3人。
本隊、つまり主力部隊も3人。
後衛、つまり敵陣に突入したときに背後からの挟み討ちをはねのけるのが3人。
その脇に付く遊撃は、相手の背後や側面を突くのが役目だ。
この陣形は、前衛から防護陣までの一直線に、遊撃同士を結んだ線が交差するように見える。
だから、「3×3クロス」と呼ばれているのだ。
相対する12人ずつが各々の位置に付くと、高らかな角笛の音が試合開始を告げた。
本隊の中央に立った部長が部長が叫ぶ。
「前衛!」
刃のないハルバードを構えた3人が、敵陣へ突進した。
ところが、相手はコートの端に寄って、まるで三角定規のような陣形を取った。
その先頭は楓ヶ谷の前衛を1人転倒させただけで、こちらの陣地に押し寄せてきた。
部長が指示を下した。
「遊撃!」
コートの端で結果的に最前線になってしまった1人が、あっという間にダウンを奪われる。倒れた相手を攻撃するのは反則なので、立ち上がる一瞬だけ試合が止まった。
その瞬間、味方の弱点が見えた。
このまま相手の陣地に侵入すれば、端からぐるりと輪を描くように追い込まれ、取り囲まれてしまう。
それを味方に告げようと思ったが、リーダーは部長だ。その指揮を乱すわけにはいかない。それに、向こうにも作戦を悟られたと気付かれてしまう。
黙っているうちに、相手の陣地はガラ空きになった。
部長が動き出した。
「本隊!」
部長を含む、陣地中央の3人が、前衛の2人と共に相手の後衛に襲いかかる。あっというに、相手の3人が倒されて退場した。
でもこちらは、後衛も、それを助けに行った遊撃も、袋叩きの目に遭っている。
僕はたまらず叫んだ。
「こっちへ!」
4人が僕の周りにしゃがみこんだのを確かめて、僕は膝をつくとコートの床に指を滑らせる。
うっすらとした起毛に覆われた床に描かれた印に向かって、呪文を唱えた。
追いかけてきた相手のハルバードが振り下ろされたが、見えない壁に弾き飛ばされて吹っ飛んでいった。
間一髪、「防護陣」が間に合ったのだ。
武器を失った相手を、戻ってきた部長たちが背後から打ちのめす。2人がギブアップを申告して、コートを去った。
7対6、死に物狂いの乱戦が始まった。相手の「防護陣」担当は、味方を守ることもできずに立ち尽くしている。
こっちが優勢だ。
これで「防護陣」を解けば、中の4人が戦闘に参加できる。
僕は申し出た。
「解除します!」
部長は却下した。
「温存しろ!」
目の前の味方が、動きを加速する「疾走」の呪文で相手の背後に回り込んだかに見えたが、打ち込んだハルバードは空を切る。
相手は、光の屈折を調整する「屈光」の呪文で、本当の位置からズレた場所に自分の姿を現していたのだった。
僕の心の中で、何かが呼ぶ声がした。
まずい、と……。
今、斬り込まないと負けるかもしれない。
「部長!」
「まだだ!」
そう言うなり、部長は「重力低下」の呪文で高々と跳躍した。
魔法女子プロレスの伊能カリアもかくやと思うような空中殺法で、1人のダウンを奪う。
ただし、この弱点は、武器に自分の体重を乗せて叩きつけることもできなくなってしまうということだ。
だから、ノックアウトはできない。
そのリスクを背負って、部長は相手の選手を何人も翻弄する。その隙を狙って、残りの味方が相手のダウンを奪うという寸法だ。
だが、相手も必死だった。
着地の瞬間、部長が相手の陣地まで吹っ飛ばされたのだ。
それでも、僕は「防護陣」の解除を許されなかった。
「こらえろ!」
相手チームの1人が、「腕力倍増」の呪文を使ったらしい。楓ヶ谷の選手が片端からノックアウトされていく。
だが、魔法女子プロレスのお約束どおり、その効果はそれほど長続きしない。せいぜい番組の終了を計算に入れた3分間だ。
部長は、それを読んでいた。
「まだ5分ある! こらえろ!」
他のメンバーを励ましながら、部長は「腕力倍増」を使った相手を挟み撃ちにかかる。
僕は再び、部長に申し出た。
「防護陣解きます!」
「呪文準備! 防護陣そのまま!」
それでも味方はダウンを繰り返して、次々に退場を強いられる。
だが、部長の読み通り、試合終了前に相手の呪文の効果は切れた。やがて、立っているのも難しくなったところで、部長がハルバードの一突きを見舞う。
僕は、安堵のため息をついた。
「あと、5人……」
目の前の相手チームは4人になっていた。コートの向こうには、「防護陣」担当が1人残っている。
このまま時間切れまで粘れば楓ヶ谷学園の勝ちだが、向こうはたぶん、引き分けにするために1人で立っている部長を狙ってくる。
ただし、多分、呪文は唱えない。その隙を突かれて、ノックダウンされるおそれがあるからだ。
僕は何度目かの、「防護陣」解除を口にした。
「部長!」
相手は疲れ切っていて、こちらは呪文まで準備している。
戦えば、間違いなく勝てる。
部長も同じことを考えていたようだった。
「よし、防護陣……」
僕は印を消そうと、手を床に伸ばす。
そのときだった。
「解くな!」
そう言いながら、部長が床に倒れた。
相手の「防護陣」担当が、ハルバードを振り上げて突進してくる。自分の役割を放棄して、部長に「衝撃」呪文を使ったのだ。
だが、残り時間は、あと1分しかない。
僕が「防護陣」を張り続けていれば、数の上での引き分けには持ち込める。
あとは、ダウンの数の判定で勝てるはずだった。僕たちは無傷だからだ。
ところが、味方のひとりがいきなりノックダウンされた。立ち上がろうとした他の味方も、不意打ちを食らって次々に転倒する。
「対魔法呪文《ディスペル》……」
僕の「防護陣」を無力化するためだったら、1人が唱えれば充分だ。
他の味方も、呪文を唱えているうちは防御できない。「防具強化」の呪文ならノックダウンは避けられるが、多分、誰も使っていない。「防護陣」が解けた瞬間、打ってかかるか、攻撃呪文を使うつもりだったと考えるのが普通だ。
残った3人は大混乱に陥っていた。戦えるのは、僕しかいない。
「おおおお!」
恐怖をはねのけるため、僕は獅子の如く吼えた。
いや、吼えた……つもりだった。その叫びには何の効果もない。
僕は「防護陣」を張り続けて疲れ切った身体を、ほとんど何もしていない相手の「防護陣」担当のハルバードで、横殴りに吹っ飛ばされた。
そこで、試合終了の角笛が鳴る。
僕たちは、負けたのだ。
大会が終わってからの帰りに、ロッカールームからとぼとぼ外へ出た僕は、部長に呼び止められた。
「悪かったな、お前が正しかった」
「いえ、僕は……」
部長は、それ以上は言わせなかった。
僕の頭をコツンと小突く。
「頑張れよ、秋の新人戦……1年生を頼む」
夏の夕まぐれの中、校庭を駆け去っていく部長を見つめていると、誰かから後ろ頭をどやしつけられた。
「おい、公文」
振り向くと、同じ2年生の副部長だった。
「何だよ」
だが、今までのようなタメ口は通らなくなっていた。
「明日から部長になるんでな、その辺、よろしく」
だが、その日は800年前なのだった……僕にとっては。
その日も、今、終わろうとしている。
「おおおおお……」
最後にせめて、獅子のように吼えてみようとしたが、海の中では肺に水を満たすばかりだった。
意識が、遠のいていく……。
「行くぞ公文!」
引退を控えた3年生の部長が、コート最後方にいる僕に振り向いた。
「え……?」
何のことか、よく分からなかった。
僕は確か、12世紀のヨーロッパで大西洋のど真ん中に落ちたはずだ。
「あ、そうか……」
これは、死ぬ前に目の前を走馬灯のように駆け巡るという、人生のステージだ。
つい昨日の……つまり、800年後の昨日というややこしい日の、あのみじめな敗北の1シーンだ。
楓ヶ谷学園の体育館で行われた、魔法格闘対抗戦の団体戦のコートに、僕は立っていた。。
「お……おお!」
同じ場面の再現なら負けるに決まっているのに、僕は精一杯の元気で返事をした。
中世の兜を模したヘルメットをかぶって、フェイスマスクを着ける。顔面を守るものだが、そのままだと仲間が識別できないので、各々がカスタマイズをするのが普通だった。
僕のは、冷たく笑う悪魔の仮面だ。
プロテクターは、個人格闘とは違って中世の全身鎧に似せてある。ただし、金属ではない。魔法使いだけに伝わる方法で草の葉や木の皮から作られた、それでいて頑丈な素材が使ってある。
両軍に分けられたコートの両端には、校旗が掲げられている。僕たちは、それぞれの魔法高校の名誉を背負って戦うのだ。
制限時間の間、体力の続く限り武器と腕力、ときには呪文で戦って相手を全滅させるか、試合終了時に敵陣に残っている人数の多い方が勝ちとなる。
それで勝負がつかなければ、転倒させられてダウンした回数の合計が少ない方が勝つことになっている。
選手は、腰から上を床に着けたらダウンと見なされ、これが3回目になると退場しなければならない。
あるいは、体力がもたないと本人か審判が判断したら退場。
倒れてから10カウント取られると、審判が「気付け」の呪文で活を入れて退場させる。
こうならないように、どのチームでも1人だけ「防護陣」の呪文を唱える担当がいる。
僕はその「防護陣」の担当として、フォーメーションを組んだ味方の後ろに立っていた。この担当になると、他の呪文は使えない。使えば、「防護陣」担当ではなくなる。
1チームは12名。それぞれの学校によって戦法が違うので、人数の配分は様々だ。
部長がつぶやく。
「サザン・クロス……」
今回のフォーメーションは、こうだった。
前衛、つまり最前線の斬り込み部隊が3人。
本隊、つまり主力部隊も3人。
後衛、つまり敵陣に突入したときに背後からの挟み討ちをはねのけるのが3人。
その脇に付く遊撃は、相手の背後や側面を突くのが役目だ。
この陣形は、前衛から防護陣までの一直線に、遊撃同士を結んだ線が交差するように見える。
だから、「3×3クロス」と呼ばれているのだ。
相対する12人ずつが各々の位置に付くと、高らかな角笛の音が試合開始を告げた。
本隊の中央に立った部長が部長が叫ぶ。
「前衛!」
刃のないハルバードを構えた3人が、敵陣へ突進した。
ところが、相手はコートの端に寄って、まるで三角定規のような陣形を取った。
その先頭は楓ヶ谷の前衛を1人転倒させただけで、こちらの陣地に押し寄せてきた。
部長が指示を下した。
「遊撃!」
コートの端で結果的に最前線になってしまった1人が、あっという間にダウンを奪われる。倒れた相手を攻撃するのは反則なので、立ち上がる一瞬だけ試合が止まった。
その瞬間、味方の弱点が見えた。
このまま相手の陣地に侵入すれば、端からぐるりと輪を描くように追い込まれ、取り囲まれてしまう。
それを味方に告げようと思ったが、リーダーは部長だ。その指揮を乱すわけにはいかない。それに、向こうにも作戦を悟られたと気付かれてしまう。
黙っているうちに、相手の陣地はガラ空きになった。
部長が動き出した。
「本隊!」
部長を含む、陣地中央の3人が、前衛の2人と共に相手の後衛に襲いかかる。あっというに、相手の3人が倒されて退場した。
でもこちらは、後衛も、それを助けに行った遊撃も、袋叩きの目に遭っている。
僕はたまらず叫んだ。
「こっちへ!」
4人が僕の周りにしゃがみこんだのを確かめて、僕は膝をつくとコートの床に指を滑らせる。
うっすらとした起毛に覆われた床に描かれた印に向かって、呪文を唱えた。
追いかけてきた相手のハルバードが振り下ろされたが、見えない壁に弾き飛ばされて吹っ飛んでいった。
間一髪、「防護陣」が間に合ったのだ。
武器を失った相手を、戻ってきた部長たちが背後から打ちのめす。2人がギブアップを申告して、コートを去った。
7対6、死に物狂いの乱戦が始まった。相手の「防護陣」担当は、味方を守ることもできずに立ち尽くしている。
こっちが優勢だ。
これで「防護陣」を解けば、中の4人が戦闘に参加できる。
僕は申し出た。
「解除します!」
部長は却下した。
「温存しろ!」
目の前の味方が、動きを加速する「疾走」の呪文で相手の背後に回り込んだかに見えたが、打ち込んだハルバードは空を切る。
相手は、光の屈折を調整する「屈光」の呪文で、本当の位置からズレた場所に自分の姿を現していたのだった。
僕の心の中で、何かが呼ぶ声がした。
まずい、と……。
今、斬り込まないと負けるかもしれない。
「部長!」
「まだだ!」
そう言うなり、部長は「重力低下」の呪文で高々と跳躍した。
魔法女子プロレスの伊能カリアもかくやと思うような空中殺法で、1人のダウンを奪う。
ただし、この弱点は、武器に自分の体重を乗せて叩きつけることもできなくなってしまうということだ。
だから、ノックアウトはできない。
そのリスクを背負って、部長は相手の選手を何人も翻弄する。その隙を狙って、残りの味方が相手のダウンを奪うという寸法だ。
だが、相手も必死だった。
着地の瞬間、部長が相手の陣地まで吹っ飛ばされたのだ。
それでも、僕は「防護陣」の解除を許されなかった。
「こらえろ!」
相手チームの1人が、「腕力倍増」の呪文を使ったらしい。楓ヶ谷の選手が片端からノックアウトされていく。
だが、魔法女子プロレスのお約束どおり、その効果はそれほど長続きしない。せいぜい番組の終了を計算に入れた3分間だ。
部長は、それを読んでいた。
「まだ5分ある! こらえろ!」
他のメンバーを励ましながら、部長は「腕力倍増」を使った相手を挟み撃ちにかかる。
僕は再び、部長に申し出た。
「防護陣解きます!」
「呪文準備! 防護陣そのまま!」
それでも味方はダウンを繰り返して、次々に退場を強いられる。
だが、部長の読み通り、試合終了前に相手の呪文の効果は切れた。やがて、立っているのも難しくなったところで、部長がハルバードの一突きを見舞う。
僕は、安堵のため息をついた。
「あと、5人……」
目の前の相手チームは4人になっていた。コートの向こうには、「防護陣」担当が1人残っている。
このまま時間切れまで粘れば楓ヶ谷学園の勝ちだが、向こうはたぶん、引き分けにするために1人で立っている部長を狙ってくる。
ただし、多分、呪文は唱えない。その隙を突かれて、ノックダウンされるおそれがあるからだ。
僕は何度目かの、「防護陣」解除を口にした。
「部長!」
相手は疲れ切っていて、こちらは呪文まで準備している。
戦えば、間違いなく勝てる。
部長も同じことを考えていたようだった。
「よし、防護陣……」
僕は印を消そうと、手を床に伸ばす。
そのときだった。
「解くな!」
そう言いながら、部長が床に倒れた。
相手の「防護陣」担当が、ハルバードを振り上げて突進してくる。自分の役割を放棄して、部長に「衝撃」呪文を使ったのだ。
だが、残り時間は、あと1分しかない。
僕が「防護陣」を張り続けていれば、数の上での引き分けには持ち込める。
あとは、ダウンの数の判定で勝てるはずだった。僕たちは無傷だからだ。
ところが、味方のひとりがいきなりノックダウンされた。立ち上がろうとした他の味方も、不意打ちを食らって次々に転倒する。
「対魔法呪文《ディスペル》……」
僕の「防護陣」を無力化するためだったら、1人が唱えれば充分だ。
他の味方も、呪文を唱えているうちは防御できない。「防具強化」の呪文ならノックダウンは避けられるが、多分、誰も使っていない。「防護陣」が解けた瞬間、打ってかかるか、攻撃呪文を使うつもりだったと考えるのが普通だ。
残った3人は大混乱に陥っていた。戦えるのは、僕しかいない。
「おおおお!」
恐怖をはねのけるため、僕は獅子の如く吼えた。
いや、吼えた……つもりだった。その叫びには何の効果もない。
僕は「防護陣」を張り続けて疲れ切った身体を、ほとんど何もしていない相手の「防護陣」担当のハルバードで、横殴りに吹っ飛ばされた。
そこで、試合終了の角笛が鳴る。
僕たちは、負けたのだ。
大会が終わってからの帰りに、ロッカールームからとぼとぼ外へ出た僕は、部長に呼び止められた。
「悪かったな、お前が正しかった」
「いえ、僕は……」
部長は、それ以上は言わせなかった。
僕の頭をコツンと小突く。
「頑張れよ、秋の新人戦……1年生を頼む」
夏の夕まぐれの中、校庭を駆け去っていく部長を見つめていると、誰かから後ろ頭をどやしつけられた。
「おい、公文」
振り向くと、同じ2年生の副部長だった。
「何だよ」
だが、今までのようなタメ口は通らなくなっていた。
「明日から部長になるんでな、その辺、よろしく」
だが、その日は800年前なのだった……僕にとっては。
その日も、今、終わろうとしている。
「おおおおお……」
最後にせめて、獅子のように吼えてみようとしたが、海の中では肺に水を満たすばかりだった。
意識が、遠のいていく……。
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