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異界の戦士
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夏草や 兵どもが夢のあと(松尾芭蕉)
雪月花 ついに三世の契りかな(与謝蕪村)
秋の夜明けの冷たく静かな空気を破って、馬蹄の轟きが聞こえてくる。
フードを目深にかぶった男が操る荷馬車の後ろで揺られて浅い眠りについていた僕は、ボロ毛布をはねのけて身体を起こした。
頭を振って、音の聞こえる方向を眺める。
荷馬車が通ってきた石畳の道の彼方と、左右に見える林の中からから、白い縦長の旗を掲げた異装の戦士たちが追撃してくる。
アトランティス内の反体制派や、結界を破ろうとする者を追い詰めて捕えることを任務とする治安部隊、通称「白旗隊」だ。
一人残らず、ラメラー・アーマーと呼ばれる、鉄板を貼った板を組み合わせた軽量の鎧をまとっている。
全身が真っ黒なのは、夜戦に対応するため、鎧を黒く塗っているからだ。
兜はなく、どの戦士の髪もは一様に黒い。
現代なら、魔法使いに逃走系の呪文を使わせないため、警官隊を守る魔法士がいる。
この時代でも、同じ役割の魔法使いがいるはずだが、いない。
その理由には、心当たりがある。
「僕に任せて馬車を!」
「頼んます!」
僕のいた現代ならともかく、この時代の魔法使いなら「狭間隠し」で逃げられるのに、この男はそうしない。
恐怖で混乱している馬を操るのに必死で、呪文に集中する余裕がないのだろう。
仕方ない。
自分の身は自分で守るしかないようだ。
高校生でも使える「疾走」の呪文を唱える。
黒衣の戦士たちが短弓で連射する矢が、手で掴めるくらい遅く見える。
身体の運動速度を倍加させる魔法で、動体視力が上がったのだ。
剣を振るえば、ひとつ、またひとつと面白いように矢が落ちていく。
普通の人に過ぎない戦士たちからは、目にもとまらぬ早業に見えるはずだ。
普通の人には。
だが、魔法使い同士となると話は別だ。
武装しているとはいえ、たかが普通の人間相手にあの試合のようなヘマはできない。
魔法で強化された剣が相手の武器を片端から遠くへ弾き飛ばしたところで、防具強化の呪文を唱えた。
マントといえども防具にはなる。
長柄の武器を失った戦士が次々に剣で切りつけてくるが、マントは鋼の鎧のようにこれを弾き返す。
「よく考えたら旦那ア!」
こんなときによく他事が考えられるものだ。
「狙われてるのは旦那じゃあないんですかい!」
気づかれたか。
たとえそうでなくても、僕にはこの命の恩人を守り抜く義務がある。
だが、馬車のように動いているものに、「防護陣」は使えない。
かといって、飛び降りるわけにもいかない。
そりゃ、落ちた衝撃を吸収する「羽毛」の呪文がなくもないが、それやったら多勢に無勢だ。
「逃げろ!」
「羽毛」の呪文でふわりと地面に降り立つ。
荷馬車が一目散に逃げ去ったあと、僕はたちまち数騎の戦士に取り囲まれた。
手に手に持った剣やハルバードが、おそるおそるではあるが、馬上から僕につきつけられる。
絶体絶命だ。
一斉に振り下ろされる長柄の武器を、僕は地面に「防護陣」を張って防いだ。
見えない障壁を作る魔法だから、こちらからも攻撃はできない。
どれだけ保つか。
試合ですら限界がある。
ましてや実戦では生き残れるはずがない。
さらに、「魔法使いでないものに魔法は効かない」以上、「防護陣」にも弱点はある。
だが、幸か不幸か、むきになった戦士たちは武器を振り下ろすのをやめない。
そのまま気づかなければいいのだが。
去年の夏も、敵チームが近接戦闘に踏み切らなければよかったのだが。
防護陣の中で頭を抱えてすくみこんでいた僕の脳裏に、そんな現実逃避ともいえる思いがよぎった。
「どこだ!」
「だれだ!」
僕の耳に、戦士たちの叫び声が聞こえてきて、はっとした。
ひとり、またひとりと黒いラメラー・アーマーが地面に転がり、主を失った馬たちは怯えて駆け去った。
見れば、落馬した戦士には、長弓の矢が深々と刺さっている。
誰の仕業か、考えている暇はなかった。
戦士たちが混乱する馬を抑えかねている、今がチャンスだ。
僕は防護陣を解き、馬の鞍に次から次へと斬りつけた。
戦士がばたばたと落馬する。
地面に寝転がったところに魔法をかけた剣で斬りつけてやると、鎧がすっぱりと切れた。
これが「武器強化」呪文の威力だ。
現代では、ハサミやペーパーナイフや包丁が切れないときに使ったりもする。
その、紙や刺身を切るような様を見て、戦士の顔が恐怖に歪む。
ヨーロッパ系ではなく、アジア系の顔立ち。つまり、僕と同じモンゴロイドだ。
落馬した戦士が立ち上がろうとするところへ剣を振るうと、鎧は易々と切り裂かれ、杖代わりのハルバードは真っ二つになる。
それでも剣で斬りかかってくる者はいた。
軽くかわしたが、身体がやや重たくなってきているのは「疾走」呪文の効果が切れかかっているのだろう。
すると、他の呪文もそろそろ効かなくなるころだ。
まずい。
魔法使いは、魔法が使えなければ普通の人間にも劣る。
呪文は、魔法使いでないものには効かない。強化された武器であっても、それで殺傷力が増すわけではない。
但し、武器そのものの働きが損なわれることもなかった。
もともと魔法使いは武器を必要としなかったが、第1次アトランティス戦争で招かれた戦士の中には製鉄技術に長けた者があり、純度の高い鉄と強度のある武器はあっという間に全土に広がり、戦禍は拡大した。
振りかぶった剣を渾身の力で叩きつけると、相手は剣を取り落した。
僕は精一杯、勝者らしく胸を張り、膝をついて震えている戦士たちを見下ろした。
「去れ」
武器と鎧を失った戦士たちはおずおずとうなずき、三歩ばかりあとじさると、一目散に逃げ出した。
言葉は通じなくても、気持ちは伝わったのだろう。
12世紀で普通の人と話が通じるのは、ここが魔法使いの結界で閉ざされたアトランティスだからなのだろうか。
仮に言葉が通じなかったとしても、これ以上、生身の人間には何もできない。
だが、逃げたはずの戦士たちは歓声を上げた。
「ケイ卿だ!」
「ノスフェラストウ・ベン!」
「不死身のケイ!」
鎧を切り裂かれ、退散する戦士たちは立ち止まって、やはり黒い鎧の戦士が操る5頭立ての戦車で現れた巨人を出迎えた。
身長は約3メートル。
特に鎧はつけていないが、全身の金属面が鈍い灰色に輝いている。
こんなものが人間であるわけがない。
ブロンズ・ゴーレムだ!
こいつが背負っているのは、禍々しい7つの武器だ。
先が爪のように曲がったトライデント。
巨大なハンマー。
鉄の鎖。
大斧。
フレイル。
鉄の十字棒。
トゲのついた巨大な棍棒。
こんなものがいちいち飛んで来た日には、どうすることもできない。
とっさに遅滞呪文をかけた。
もちろん普通の人間には効かないが、知覚を持って動くものには、コンピューター制御されたものにさえ「自分は何倍もの速さで動いている」と錯覚させることができる。
図体の大きい相手ひとりを小さな者が複数で相手にするときは、もっとも効率がいい。
もっとも、相手が頑丈では遅滞呪文もあまり意味がない。
だが、勝機はあった。
ゴーレムは、主人の命令を受けなければ動けない。
命令を下した主人は、ここにはいない。
たぶん、僕をつかまえられるとタカをくくっているのだ。
後からゆっくり来るつもりだろう。
そして、ゴーレムには単純な命令しかできない。
この場合、「捕えろ」という命令しか受けていないだろうから、逃げ切れば勝ちだ。
疾走呪文を使えばいい。
問題は、逃げるはずだった連中だ。
こいつらは再び剣を拾い、ゴーレムと対峙する僕を包囲している。
一斉にかかって来られたら、いくら高速で相手しても、凶悪な一撃の隙をゴーレムに与えてしまう。
実際に、ゴーレムは鉄の鎖を叩きつけてきた。
とりあえず、背後に向けて衝撃の呪文を使う。
身体に巻きつく前に、鎖が粉砕される。
狙った相手がどこに行こうと、射程内なら間違いなく命中する。
防具に魔法がかかっていなければ、衝撃は一切吸収できない。
振り下ろされた巨人のハンマーは、僕の頭上で吹き飛ばされる。
横薙ぎのフレイルが、カンフー映画のヌンチャクのように飛んでくる。
衝撃呪文が2本の棍棒と棍棒の継ぎ目にある蝶番を吹き飛ばしたので、ゴーレムの手に残った柄は身体をかすめただけで済んだ。
巨大な棍棒は、そのトゲで服を引っ掛ける。高々と持ち上げられた。
今だ!
呪文がゴーレムの足もとをぐらつかせる。
地面が液状化して溶ける。
ゴーレムはアリジゴクにでもはまったかのように、泥の中へと沈んでいく。
全日本U-18応用魔法コンテストで団体優勝したときに使った呪文だ。
町ひとつ設定してのトラップを切り抜け、相手チームを出し抜いて脱出する魔法バトルだった。
僕は『泥沼』の呪文で地面を液状化させ、主催者が仕掛けた暴走トラックを転倒させたのだ。
あのとき、僕は最年少だったが、呪文は使い方で絶大な効果を発揮することを学んだ。
現に今、戦士たちは逃げ出した。
ゴーレムは腰まで沈んだところで、僕を引っ掛けた棍棒を投げ出し、手を伸ばして固い地面を掴む。
だが、地面は次々に崩れていく。
やがて、ゴーレムは泥の中に沈んだ。
「さて……と」
呪文の効果がなくなれば、泥沼は元の固い地面に戻る。ゴーレムは土に埋まって、しばらくは動けないはずだ。
橋へ向かって歩き出す。
この先の道にある一軒家、としか覚えていない場所を探して、ひたすら歩かなくてはならない。
そこに、彼女がいる。
炎の色をした髪を持つ、輝く瞳の少女が。
カリア。
それは後の世で、「結界の少女」として知られる名前である。
雪月花 ついに三世の契りかな(与謝蕪村)
秋の夜明けの冷たく静かな空気を破って、馬蹄の轟きが聞こえてくる。
フードを目深にかぶった男が操る荷馬車の後ろで揺られて浅い眠りについていた僕は、ボロ毛布をはねのけて身体を起こした。
頭を振って、音の聞こえる方向を眺める。
荷馬車が通ってきた石畳の道の彼方と、左右に見える林の中からから、白い縦長の旗を掲げた異装の戦士たちが追撃してくる。
アトランティス内の反体制派や、結界を破ろうとする者を追い詰めて捕えることを任務とする治安部隊、通称「白旗隊」だ。
一人残らず、ラメラー・アーマーと呼ばれる、鉄板を貼った板を組み合わせた軽量の鎧をまとっている。
全身が真っ黒なのは、夜戦に対応するため、鎧を黒く塗っているからだ。
兜はなく、どの戦士の髪もは一様に黒い。
現代なら、魔法使いに逃走系の呪文を使わせないため、警官隊を守る魔法士がいる。
この時代でも、同じ役割の魔法使いがいるはずだが、いない。
その理由には、心当たりがある。
「僕に任せて馬車を!」
「頼んます!」
僕のいた現代ならともかく、この時代の魔法使いなら「狭間隠し」で逃げられるのに、この男はそうしない。
恐怖で混乱している馬を操るのに必死で、呪文に集中する余裕がないのだろう。
仕方ない。
自分の身は自分で守るしかないようだ。
高校生でも使える「疾走」の呪文を唱える。
黒衣の戦士たちが短弓で連射する矢が、手で掴めるくらい遅く見える。
身体の運動速度を倍加させる魔法で、動体視力が上がったのだ。
剣を振るえば、ひとつ、またひとつと面白いように矢が落ちていく。
普通の人に過ぎない戦士たちからは、目にもとまらぬ早業に見えるはずだ。
普通の人には。
だが、魔法使い同士となると話は別だ。
武装しているとはいえ、たかが普通の人間相手にあの試合のようなヘマはできない。
魔法で強化された剣が相手の武器を片端から遠くへ弾き飛ばしたところで、防具強化の呪文を唱えた。
マントといえども防具にはなる。
長柄の武器を失った戦士が次々に剣で切りつけてくるが、マントは鋼の鎧のようにこれを弾き返す。
「よく考えたら旦那ア!」
こんなときによく他事が考えられるものだ。
「狙われてるのは旦那じゃあないんですかい!」
気づかれたか。
たとえそうでなくても、僕にはこの命の恩人を守り抜く義務がある。
だが、馬車のように動いているものに、「防護陣」は使えない。
かといって、飛び降りるわけにもいかない。
そりゃ、落ちた衝撃を吸収する「羽毛」の呪文がなくもないが、それやったら多勢に無勢だ。
「逃げろ!」
「羽毛」の呪文でふわりと地面に降り立つ。
荷馬車が一目散に逃げ去ったあと、僕はたちまち数騎の戦士に取り囲まれた。
手に手に持った剣やハルバードが、おそるおそるではあるが、馬上から僕につきつけられる。
絶体絶命だ。
一斉に振り下ろされる長柄の武器を、僕は地面に「防護陣」を張って防いだ。
見えない障壁を作る魔法だから、こちらからも攻撃はできない。
どれだけ保つか。
試合ですら限界がある。
ましてや実戦では生き残れるはずがない。
さらに、「魔法使いでないものに魔法は効かない」以上、「防護陣」にも弱点はある。
だが、幸か不幸か、むきになった戦士たちは武器を振り下ろすのをやめない。
そのまま気づかなければいいのだが。
去年の夏も、敵チームが近接戦闘に踏み切らなければよかったのだが。
防護陣の中で頭を抱えてすくみこんでいた僕の脳裏に、そんな現実逃避ともいえる思いがよぎった。
「どこだ!」
「だれだ!」
僕の耳に、戦士たちの叫び声が聞こえてきて、はっとした。
ひとり、またひとりと黒いラメラー・アーマーが地面に転がり、主を失った馬たちは怯えて駆け去った。
見れば、落馬した戦士には、長弓の矢が深々と刺さっている。
誰の仕業か、考えている暇はなかった。
戦士たちが混乱する馬を抑えかねている、今がチャンスだ。
僕は防護陣を解き、馬の鞍に次から次へと斬りつけた。
戦士がばたばたと落馬する。
地面に寝転がったところに魔法をかけた剣で斬りつけてやると、鎧がすっぱりと切れた。
これが「武器強化」呪文の威力だ。
現代では、ハサミやペーパーナイフや包丁が切れないときに使ったりもする。
その、紙や刺身を切るような様を見て、戦士の顔が恐怖に歪む。
ヨーロッパ系ではなく、アジア系の顔立ち。つまり、僕と同じモンゴロイドだ。
落馬した戦士が立ち上がろうとするところへ剣を振るうと、鎧は易々と切り裂かれ、杖代わりのハルバードは真っ二つになる。
それでも剣で斬りかかってくる者はいた。
軽くかわしたが、身体がやや重たくなってきているのは「疾走」呪文の効果が切れかかっているのだろう。
すると、他の呪文もそろそろ効かなくなるころだ。
まずい。
魔法使いは、魔法が使えなければ普通の人間にも劣る。
呪文は、魔法使いでないものには効かない。強化された武器であっても、それで殺傷力が増すわけではない。
但し、武器そのものの働きが損なわれることもなかった。
もともと魔法使いは武器を必要としなかったが、第1次アトランティス戦争で招かれた戦士の中には製鉄技術に長けた者があり、純度の高い鉄と強度のある武器はあっという間に全土に広がり、戦禍は拡大した。
振りかぶった剣を渾身の力で叩きつけると、相手は剣を取り落した。
僕は精一杯、勝者らしく胸を張り、膝をついて震えている戦士たちを見下ろした。
「去れ」
武器と鎧を失った戦士たちはおずおずとうなずき、三歩ばかりあとじさると、一目散に逃げ出した。
言葉は通じなくても、気持ちは伝わったのだろう。
12世紀で普通の人と話が通じるのは、ここが魔法使いの結界で閉ざされたアトランティスだからなのだろうか。
仮に言葉が通じなかったとしても、これ以上、生身の人間には何もできない。
だが、逃げたはずの戦士たちは歓声を上げた。
「ケイ卿だ!」
「ノスフェラストウ・ベン!」
「不死身のケイ!」
鎧を切り裂かれ、退散する戦士たちは立ち止まって、やはり黒い鎧の戦士が操る5頭立ての戦車で現れた巨人を出迎えた。
身長は約3メートル。
特に鎧はつけていないが、全身の金属面が鈍い灰色に輝いている。
こんなものが人間であるわけがない。
ブロンズ・ゴーレムだ!
こいつが背負っているのは、禍々しい7つの武器だ。
先が爪のように曲がったトライデント。
巨大なハンマー。
鉄の鎖。
大斧。
フレイル。
鉄の十字棒。
トゲのついた巨大な棍棒。
こんなものがいちいち飛んで来た日には、どうすることもできない。
とっさに遅滞呪文をかけた。
もちろん普通の人間には効かないが、知覚を持って動くものには、コンピューター制御されたものにさえ「自分は何倍もの速さで動いている」と錯覚させることができる。
図体の大きい相手ひとりを小さな者が複数で相手にするときは、もっとも効率がいい。
もっとも、相手が頑丈では遅滞呪文もあまり意味がない。
だが、勝機はあった。
ゴーレムは、主人の命令を受けなければ動けない。
命令を下した主人は、ここにはいない。
たぶん、僕をつかまえられるとタカをくくっているのだ。
後からゆっくり来るつもりだろう。
そして、ゴーレムには単純な命令しかできない。
この場合、「捕えろ」という命令しか受けていないだろうから、逃げ切れば勝ちだ。
疾走呪文を使えばいい。
問題は、逃げるはずだった連中だ。
こいつらは再び剣を拾い、ゴーレムと対峙する僕を包囲している。
一斉にかかって来られたら、いくら高速で相手しても、凶悪な一撃の隙をゴーレムに与えてしまう。
実際に、ゴーレムは鉄の鎖を叩きつけてきた。
とりあえず、背後に向けて衝撃の呪文を使う。
身体に巻きつく前に、鎖が粉砕される。
狙った相手がどこに行こうと、射程内なら間違いなく命中する。
防具に魔法がかかっていなければ、衝撃は一切吸収できない。
振り下ろされた巨人のハンマーは、僕の頭上で吹き飛ばされる。
横薙ぎのフレイルが、カンフー映画のヌンチャクのように飛んでくる。
衝撃呪文が2本の棍棒と棍棒の継ぎ目にある蝶番を吹き飛ばしたので、ゴーレムの手に残った柄は身体をかすめただけで済んだ。
巨大な棍棒は、そのトゲで服を引っ掛ける。高々と持ち上げられた。
今だ!
呪文がゴーレムの足もとをぐらつかせる。
地面が液状化して溶ける。
ゴーレムはアリジゴクにでもはまったかのように、泥の中へと沈んでいく。
全日本U-18応用魔法コンテストで団体優勝したときに使った呪文だ。
町ひとつ設定してのトラップを切り抜け、相手チームを出し抜いて脱出する魔法バトルだった。
僕は『泥沼』の呪文で地面を液状化させ、主催者が仕掛けた暴走トラックを転倒させたのだ。
あのとき、僕は最年少だったが、呪文は使い方で絶大な効果を発揮することを学んだ。
現に今、戦士たちは逃げ出した。
ゴーレムは腰まで沈んだところで、僕を引っ掛けた棍棒を投げ出し、手を伸ばして固い地面を掴む。
だが、地面は次々に崩れていく。
やがて、ゴーレムは泥の中に沈んだ。
「さて……と」
呪文の効果がなくなれば、泥沼は元の固い地面に戻る。ゴーレムは土に埋まって、しばらくは動けないはずだ。
橋へ向かって歩き出す。
この先の道にある一軒家、としか覚えていない場所を探して、ひたすら歩かなくてはならない。
そこに、彼女がいる。
炎の色をした髪を持つ、輝く瞳の少女が。
カリア。
それは後の世で、「結界の少女」として知られる名前である。
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