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第32話 全知の盾
しおりを挟む私とお兄様の結婚式の三日前に妖精の国へ、お兄様が戦争をしに行くことになりました。
事の発端は妖精の国の者からソフィアさんが殺されたからだそうです。お兄様からソフィアさんが殺されたことを聞いた私は、メイド服から外着に着替えて城に向かいました。
ソフィアさんの殺された現場は死体を置かれていなく、部屋は血が飛び散っていました。飛び散った血は赤黒い血に変わり、この惨状を成した場面を想像するだけで、残忍で惨たらしく殺されたんだと思いました。
何故ソフィアさんをお兄様が殺したのか、何故知らないお兄様をお兄様と言っているのか、何故知らないお兄様と結婚式をあげないといけないのか。
何故お兄様に言われた時のように、知らないお兄様の言うことを聞いてしまうのか。
記憶操作のスキルを掛けられていると思うのに、相当強力なスキルなのか、記憶の誤差があるのに解ける気がしない。
お兄様がお兄様と違うと分かるほどなのに、お兄様をお兄様と思ってしまう。
これだけの強力なスキルなのに、素人が使っているような違和感が拭えない。
壊れた指輪を拾う。
ソフィアさんがお兄様から貰った指輪が私も欲しくて、お兄様にねだったのは遠い昔のことなのに鮮明に思い出す。
ソフィアさんは勝ち誇ってましたね。
そんな指輪を捨てたということは、ソフィアさんは知らないお兄様をお兄様と思っていましたし、知らないお兄様がこの惨状を創り出したことは間違えないはずです。
本当のお兄様だったらフェニックスの指輪のことも、私が嘘を見抜く目を持っていることも、わかるでしょう。
お兄様は教会の女の人が現れてから、用があると何処へ行くとも言わないで、城へ行きました。何処へ行くかは嘘を見抜くよりも簡単です。
お兄様が帰ってきて、服は同じでしたが、私がお洗濯している服じゃないことで怪しいと思い、城が慌ただしいですねと言ったら、ペラペラと妖精の国と戦争がしたいと話してくれました。
「おいノエル! ソフィアさんはどうした!」
お兄様がもう一度死んだのを確認したいのか、私に遅れてやって来ました。
「もう片付けられた後みたいですね。あっ! ソフィアさんは死んだ時に自分の身体がマナ還元される指輪を嵌めてはしたね。自分の身体が人の敵に渡らないように」
この部屋で拾いましたと、お兄様にフェニックスの指輪を見せます。
「そうなのか」
「えっ、お兄様がソフィアさんに上げたんですよ、覚えていないのですか?」
「そ、そうだったな」
お兄様はポーチから弓を持って目を閉じる。
「何をやっているのですか?」
「いや、なんでもない」
集中されないように声を掛けるとお兄様は弓をポーチにしまい、ぎこちない笑顔で私を見てくる。
お兄様はお兄様とは次元が違いすぎる武器を持っている。弓や盾、それに剣を、まだまだ持っているかもしれない。
その武器はムーリク王国の教会で見たヒビの入った剣の偽物に似ている。お兄様が持っているのが神が持っていたという武器、神器じゃないかと思っている。
「ソフィアさんを殺した人はどこに行ったのでしょう」
「僕が殺しといた!」
「そうですか、さすがお兄様ですね」
ソフィアさんにこんなこともあろうかと妖精の国の入り方を教えてて良かったと思う。私の友達と言って木にシフルちゃんと会いたいと問いかけたら良いと。
「お兄様が屋敷から出た頃に教会の女の人が来たんですが。お兄様が失敗した時に私を殺すとか不穏なことを言っていましたね」
「ホントかそれは!」
「はい」
お兄様は心底心配したように眉を下げ、私の両肩を掴む。
「私は殺されるんですか?」
「そんなことはさせない!」
あっ! お兄様は何かを思い付くと、ポーチから金色の盾を私に渡す。
金色の盾は白と黒の装飾が付けられて、懐かしい感じがする。
「これは絶対防御の盾だ! これがあれば教会の人はノエルを殺すことは不可能」
「お兄様が使ってください。お兄様がこの盾で自分を守ってください!」
「いいや、これはノエルのだ」
私はわかりましたと言って、神器を貰う。
盾に触れているだけで、私の真眼以上の情報が頭に流れた。クラっとふらつく。
「ノエル! 大丈夫か」
「は、はい」
お兄様が心配してくれている、佐藤さんが。
この盾は絶対防御の盾じゃない、これは私の力を最大限に引き出す盾だ、全知の盾。
記憶が戻っていく、回復している? 神器の銃で記憶を破壊されて、違う記憶と呪いが付与されていた。呪いは佐藤さんの言うことを聞く呪い、そして佐藤さんをお兄様と思い想う呪い。
こんな素人が考えた呪いでも、解くことが出来なかった。神器の銃は相当に恐ろしい。でも呪いを無効にして、記憶も回復させる神器の盾も相当だと思います。
佐藤さんが敵になった時に守れる武器が欲しかったんですけど、それ以上の物を手に入れてしまいました。
可愛がれている内に次の手を考えておけ、はお兄様からの教えです。
盾をポーチに入れ、血なまぐさい部屋を後にして、佐藤さんに
「妖精の国へ攻めるのはいいですが、結婚式までには終わらしてくださいね」
「あぁ、任せておけ!」
「私は屋敷でお待ちしております」
ラクゼリアとノエルはお兄様をお待ちしております。
妖精の国へ行って、テトナちゃんとお兄様を困らしてしまおうか。
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