12 / 55
第12話 トレード
しおりを挟む俺は今、ノエルに膝枕をしてもらっている。
ファランシオ国の近くの海に池の水を運んだ俺は、ラクセルの街にある少し値の張る宿に泊まり、ふかふかのソファーでノエルの膝枕を堪能していた。
俺が池の水を海に運んだことで、津波が起こり、ファランシオ国の城壁が壊されていた。暗かったし、よく見えなかったが、城壁が壊れただけで済んだと思う。
ファランシオ国からプオーンと警戒態勢を知らせる放送が流れていたが、俺はそのままガレッグの街の宿に帰った。
俺たちは次の日にガレッグの街を出たが、ガレッグの街での心残りはメシュさんと手合わせでもいいから剣を合わせたかったなと。
俺は戦闘狂ではないが、メシュさんはノエルが認めたほどの男だ。俺から見てもメシュさんは相当に強い。ノエルと語り合ってたみたいに、俺も剣で語り合いたかった。
俺は剣しかしらないからな。
すーはーすーはーと鼻で呼吸をする。
「お兄様」
ノエルがジト目で俺を見ている。ノエルの反応はお構い無しで、ノエルの香りと枕の優らかさ、温かさを堪能する事にする。
「良い香りだ」
「ムッ」
プンプンとノエルが怒りだす前に、充分にノエル成分を俺の身体に注入しとかないと!
「ムムムッ!」
はい、終わりですよ! が、来ない!? いつもは俺のイタズラに頬を赤く染めて、怒る。そして立ち上がり、強制的に膝枕を止めるのに、その時間が来ない。
ボーナスタイムに突入したのか?
「旅の途中で、お兄様から膝枕をしたいと言われたら、気の済むまでやってあげようと思っておりました。こんなに続けることが恥かしいなんて、初めて知りました」
「そう言うことか、じゃあ一生このままだな」
ノエルの足が痺れたらいけないと思い、俺はいつもの二倍、ノエル成分を注入して、膝枕から泣く泣く離れた。
ノエルと宿を出て、ラクセルの街を散策する。
提灯が空に沢山並べられて、夜になると空から街を照らすんだろうか。
このラクセルの街は建物が有名らしい。お寺とか、神社とか、普通の家も、芸術的だと評価をされているとパンフレットに書いてあった。
普通の建物とは違うらしい。屋根に瓦という物を敷いてあるぐらいしか、感じない。
ノエルは建物がカッコイイとすら言っていた。俺が間違えているんだろう。
ラクセルの街に来て、俺が感動したのは、浴衣だった。
ノエルが浴衣を着て、歩いている。それだけでラクセルの街に来て良かったと感じる。
音がなる靴と、白銀の髪に栄える黒と花火の浴衣。街を歩けば、ノエルが老若男女の全ての目を奪っていく。
俺の存在が霞むほどに、ノエルが眩しい。
ノエルが美しいのは当然と、俺は胸を張り、ノエルは俺の手にくっついて離れようとしない。
「止まれ!」
楽しい散歩中の俺たちの目の前に手のひらを差し出して、歩みを阻む輩がいた。
そしてその後ろにあった箱から、デブった男が出てきた。
あの箱は人を運んでいたのか。
「ほほぉ、これは見目麗しい女だ」
デブった男が懐から金貨? を取り出すと、俺の足元にその金貨を投げた。
「その女をマロに寄越せ下民」
そんな横暴を、この俺に言って生きて帰った奴はいない。
「お兄様やめて!」
「グォグォグェ」
「そうか」
ノエルの言葉と共に、俺は片手でデブった男の首を持ち上げ、絞めることをやめた。
ポイッと男を投げ下ろす。
その瞬間に俺を刀が囲んでいた。
「俺の動きが見えてない奴らが刀を構えたところで、どうにもなんねぇよ。刀を収めろ、殺すぞ」
俺の殺気に刀を下ろし、後ずさりしたあと、刀をしまった。
「一回目は見逃した。次はねぇからな」
ノエルはデブった男に歩みより。
「何かお困り事ですか?」
得意のお節介が発動していた。
城の一室にやって来た俺たちは、デブった男から土下座をしてもらっていた。頼んでないけど。
「申し訳ございませんでした。これだけの騎士を傍に置いているなんて、これ相当に名のあるお方なのでしょう。マロ・レニダス・ラクセル一生の不覚」
「私を欲しかった理由はなんですか?」
「はい、私の娘が魔王に奪われました。誰か見ても目を奪われる貴女様を交換に出せば、娘が帰ってくると思いまして」
ほうほう、お前それは魔王とやってることが変わらない。こんな奴、助ける価値もない。
「私、交換されましょう!」
えっ! マジで!?
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
スキル【特許権】で高位魔法や便利魔法を独占! ~俺の考案した魔法を使いたいなら、特許使用料をステータスポイントでお支払いください~
木塚麻弥
ファンタジー
とある高校のクラス全員が異世界の神によって召喚された。
クラスメイト達が神から【剣技(極)】や【高速魔力回復】といった固有スキルを受け取る中、九条 祐真に与えられたスキルは【特許権】。スキルを与えた神ですら内容をよく理解していないモノだった。
「やっぱり、ユーマは連れていけない」
「俺たちが魔王を倒してくるのを待ってて」
「このお城なら安全だって神様も言ってる」
オタクな祐真は、異世界での無双に憧れていたのだが……。
彼はただひとり、召喚された古城に取り残されてしまう。
それを少し不憫に思った神は、祐真に追加のスキルを与えた。
【ガイドライン】という、今はほとんど使われないスキル。
しかし【特許権】と【ガイドライン】の組み合わせにより、祐真はこの世界で無双するための力を得た。
「静寂破りて雷鳴響く、開闢より幾星霜、其の天楼に雷を蓄積せし巍然たる大精霊よ。我の敵を塵芥のひとつも残さず殲滅せよ、雷哮──って言うのが、最上級雷魔法の詠唱だよ」
中二病を拗らせていた祐真には、この世界で有効な魔法の詠唱を考案する知識があった。
「……すまん、詠唱のメモをもらって良い?」
「はいコレ、どーぞ。それから初めにも言ったけど、この詠唱で魔法を発動させて魔物を倒すとレベルアップの時にステータスポイントを5%もらうからね」
「たった5%だろ? 全然いいよ。ありがとな、ユーマ!」
たった5%。されど5%。
祐真は自ら魔物を倒さずとも、勝手に強くなるためのステータスポイントが手に入り続ける。
彼がこの異世界で無双するようになるまで、さほど時間はかからない。
勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。
カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。
伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。
深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。
しかし。
お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。
伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。
その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。
一方で。
愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。
死へのタイムリミットまでは、あと72時間。
マモル追放をなげいても、もう遅かった。
マモルは、手にした最強の『力』を使い。
人助けや、死神助けをしながら。
10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。
これは、過去の復讐に燃える男が。
死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。
結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。
朱本来未
ファンタジー
魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。
天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。
ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる