147 / 201
神と勇者
しおりを挟むフランとユリアの剣は互いに交錯する。
オールアビリティの効果は見た者全ての能力を自分に付与する力。
フランの能力をコピーして、運操作の能力を軽減しているが、やはり相殺は出来ない。
オリジナルよりは劣るのだ。
『運が良かった』で成立する全ての事がフランの味方をする。
「おっと、そこにはちょうど魔法を設置してました」
適当に設置型の魔法を置くだけでも相手が引っかかる。
「くっ!」
ユリアの足に虹色の鎖が巻き付く。
「こんな物で私が止まると思うな!」
無理矢理に力任せで鎖を引きちぎるとフランに向けて黒剣を振り抜く。
ユリアはことごとく罠にハマり、その全てを傷つきながら無力化していく。
ユリアは戦いの中で気付いたことがある、時々見せる違和感。
フランの剣に躊躇いが生まれる瞬間があるのだ。
フランの異変、変わりすぎた思想。
だからこそ時間を稼ぐ、フランを助ける為に。
「フランさん、目を覚ましてください」
「またそんな戯言を! 私は今、神様なんですよ……なんでも思い通りです」
剣を交えながらユリアの戦況は不利になっていく。
「フランさんは操られているみたいですね」
「私の意思ですよ、これは!」
フィーリオンを攻めてきた学生達も洗脳されていた事を考えると、フランも前もって洗脳されていたと考えるのが普通。
「考えてみればフランさんがこんな事するはずがなかったんですよね」
フランは戦いの中で少しずつ口調が荒々しくなっていた。
「貴女に何が分かるって言うんですか!」
「フランさん、自分の意志が少しでもあるなら抗ってください」
ユリアの剣の速度が上がっていく。
先程まで引っかかっていた魔法の全てが不発に終わる。
設置型の魔法陣が発動する頃にはその場にユリアはいない。
『瞬間移動』
フランはユリアを目で捉える事が出来ない。
「ここです!」
フランの不意をついたユリアは全ての魔力を剣に乗せてフランに放つ。
だが……。
「そんなに甘くはないですよ?」
振り下ろした剣はフランを捉えることなく、空を斬り、地面には壮大なクレーターが出来上がる。
そしてユリアの首元に漆黒の剣が置かれていた。
ユリアはユウカの能力『神化』を使っていたがタイムリミットが来てしまう。
纏っていた魔力が全て消え失せたユリアはその場で膝をつく。
「私の負けです、流石に私も長期戦が無理だったので決着を焦っていたのかも知れません」
フランの勝ち誇った笑みがユリアに向けられる。
『爪が甘いですね』
「そうかもしれません」
首元に置いていた剣を振り上げるとフランはユリアに剣を振り下ろす。
だがその剣は首元でピタリと止まる。
その異変に気づいたユリアはフランに声をかける。
「フランさん、お目覚めですか?」
「手が動かない!」
ユリアの首元でガクガクと震える漆黒の剣。
『ベークさん、その身体で運操作なんか使ったら運良く催眠が解けるかも知れないじゃないですか』
「チッ!」
フランの中から弾き出された様にベークが姿を現す。
息を切らしたフランはユリアにもたれ掛かる。
「私はユリアさんに酷いことを言ってしまいました……ごめんなさい」
「言わされてたって分かってましたよ」
ユリアはフランを抱きしめるとそれを見ていたベークが苛立ちを含んだ声を漏らす。
「私の計画が狂ったじゃないですか」
ベークはユリアを睨みつける。
「まぁ、最初から使い捨てるつもりだったのでいらないですけどね」
ベークの瞳はまだ虹色の光が輝いている。
神化は解けていないようだ。
この場にべークと戦える者はいない。
べークの前には既に魔力を使い切ってしまったユリアとベークに魔力を奪い取られたフランだけ。
すると精霊神がいる方向から何かが砕け散る音が聞こえてくる。
『やっと出れた』
その瞬間にフランとユリアの前に銀髪の少年クレスが現れる。
フランは目を見開いてクレスに声をかける。
「お兄様なんでここへ」
クレスはべークを視界に捉えて前を向いたままフランに問う。
「お前はまだ母親を助けられなかった剣の勇者の事を恨んでるか」
『いえ、剣の勇者様は私を助けてくれました。それだけでお母様が私を想って作り出した奇跡だと今は思っています』
「そうか……ユリア、フランと一緒に精霊神の所へ」
「はい、頑張ってください」
クレスの指示に従い、ユリアはフランを担いで精霊神の所に向かう。
ベークが少しユリア達の方を見るとクレスの横を何かが通り過ぎた。
エルフ特有の不可視の魔法。
『しまっ!』
クレスは油断はしてなかったが、感知できない魔法にはあまり耐性がない。
その不可視の魔法はフランに当たる直前で消える。
『大丈夫ですか? フランさん』
そこには魔法と入れ替わったアクアがいた。
急な登場人物にビックリしたようなフラン。
「ア、アクア様!? なんでこんな所に」
アクアは悔しそうに眉をひそめる。
「こうなったのは僕のせいでもあるからね……」
クレスはベークに目を向ける。
「あっちの心配はもうしなくてもいいようだな」
「次から次へと、邪魔ばっかり……で? 私の前にいるアンタはなに? 最初に突っ込んで来て罠にハマった馬鹿じゃないか」
ベークは魔力無しの人物にやれやれと首を降る。
「身の程を知りなよ~早く終わらせないと気絶してる神の子達が起きて面倒になっちゃうんだよね」
「それは心配するな」
クレスは何も無い空間に手を入れると金色のオーラを纏う黒剣を召喚する。
『リミテット・アビリティー』
ベークは目を見開く。
『その前に終わらせてやるから』
「まさか剣の勇者……様」
ベークは俺を目の前にして驚きを隠しきれないようだ。
そしてベークから馬鹿にしていた雰囲気は消え去る。
「私は貴方をずっと待ってました、ですがもう既に私は貴方を超える力を手に入れたのです」
確かコイツは俺が初めてリリアに読んであげた『歴代勇者』の作者。
その名前がベーク・スタリオッティだった気がする。
「俺を超えた?」
「貴方の凄さなら私も知っております、ですが今さら現れた所で手遅れなのですよ。そうですね、私の方が強い事を証明しておきましょうか、人族最強を葬った後に全てを無に還すのも面白そうです」
「出来ると思うのか?」
ベークは両手を広げると円のように虹色のオーラの膜が現れる。
それは一瞬にしてその場の全員が収まるように広がっていく。
「剣の勇者様に敬意を評して、私も本気で相手をしましょう」
俺の持っている黒剣がキラキラと粒子になり消えていく。
「神になった私の能力ですよ」
俺の中のちっぽけな魔力が感じられないし、黒剣も消えた。
俺が分かることは魔力と能力を制限する空間を作り出しているという事ぐらいだ。
でたチート能力。
だから嫌なんだよ! この世界は俺に理不尽すぎる。
「アリアス! 剣をくれ」
「キュイ」
ブンっとドラゴンの状態のアリアスが俺に剣を投げる、結構な距離なのによく飛ばせたなと思うが。
「そんなお飾りのような剣で私と戦うのですか?」
「本気は出せないかもな」
「グランゼルですか? その剣じゃ本気を出すことも出来ないんじゃないですか?」
確かに本気で振ったら壊れる武器だ。
「お前なんか本気を出さなくても勝てるって事だよ」
「舐められてますよね? こんな絶望的な状況で私にそんな口を聞けますか……さすが剣の勇者様ですね、私が尊敬しただけはあります」
ベークの魔力が殺気と共に膨れ上がっていく。
「こんなに人を煽るのが上手いだなんて、少し軽蔑しちゃいますよ」
「おいおい、今は人じゃないだろ、神様」
『死ね』
ベークの殺気の篭った声を聞き流す。
俺はグランゼルを鞘から引き抜く。
『手加減してやるからかかってこいよ』
グランゼルの刀身をベークに向けながら俺は何時もの言葉を言い放った。
0
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる