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平和の亀裂

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 ジークとユリアの面倒を見終えた俺は真っ直ぐと家に帰る。

「腹減ったな~」

 明かりがついてない部屋の中。

 いつもならリリアが飯を作って待ってるはずなのに。

 可笑しい。

『クロ』

『はい、リリアの探知ですね』

 クロは俺の意図を汲み取り、リリアの探知を始める。

 学園が遅くなったならありえるが、嫌な予感がする。

『リリアはこの国にはいないようです』

『……なんだと』

 じゃあ何処に行ったんだ。

「クレス君!」

 バタンと部屋の扉が開き、焦った様子でユウカが入ってきた。


『大変なんだよ、リリアちゃんと学園の生徒達がいなくなった』


 生徒達? 狙いはリリアじゃないのか?

「僕の直感ではリリアちゃん以外にも狙いはあったんだと思うよ」

「ユウカ、リリアを連れ去った奴が何処にいるかわかるか?」

 リリアが連れていかれたら俺が黙ってられるはずないだろ。

「少し前、ダリアード王国の王子様を見かけたっていう人がいるけど、これ可笑しいよね」

 ダリアードの王子はアクアか? でもアクアは国を動けないって言ってなかったか?

 アクアは今はどうでもいい! そんなすぐにクロの探知範囲から外れた場所に送るなんて……。

 転移か。

 生徒達を全員転移させる程のでかい魔法なら俺が気づかないはずがない。

 生徒達とリリアを指定しながらの転移って事は綿密な魔法の組み上げとそれ相応の術者が必要になる。

 

「クレス君も気づいたみたいだね、そんな大規模で繊細な魔法をうてる人物に僕は心当たりがない」

 ユウカはもしかしてと呟く。


『闇女神信者』


「前に言ってた奴か!」

「そうだよ、リリアちゃんクラスの人物を操れるようになったのかも、だから行動に移した……それか」

 ユウカは一番当たって欲しくない予感を口にする。


『リリアちゃんを生贄にする事が目的なのかも』


 生贄? なんのために。
 

「じゃあ早速、ユリアちゃんのもとに行こうか」

「なぜだ?」

 今の状況でなんでユリアなんだ?

「クレス君とずっと居たユリアちゃんは転移されてない、次に狙われるのはユリアちゃんだよ」

 ユリアがなんで狙われるんだ?


『ユリアちゃんは神の子だからだよ』


 神の子? 疑問を持ったが今はそんな状況でもないと思い俺達は家を出てフィーリオン剣士学園に向かう。





 大きな地下の空間、薄らと照らし出された空間は岩が周りを囲み、大勢の人がいた。


「こんなに人を集めてこの中に神の子がいるのか?」

「ゴミは喋るんじゃないよ」

「ごみ~ごみ~」

 いきなり転移させられて戸惑う人々の中で男と女と幼女が仲良さそうに喋っている。

「神の子の選別はすんでるわよ、ゴミが探してる子は引っかからなかったけどね」

 女が喋りながら空中に浮遊している空間に指を指すと。

 そこにはフラン、リリア、ソフィアが入っている。

「ミリテリオンの神の子がフィーリオンに行ったって聞いたからこの転移で全てのピースが纏めて揃うって思ってたのに。なんで学園内にいないのよ、私の完璧な計画が狂ったじゃない」

「完璧っていうか、ミリテリオンの場合は完全にお零れ的な感じだったけどな」

「準備して、早速最後のピースを……」

「そしてコイツはどうするんだ?」

 男の目の前には、物言わぬ人形のように棒立ちのアクアがいる。

「コイツはここに居るために必要よ、なんせダリアードの王子様がいればダリアードを好きなように操れる」

「それならいいけどよ、約束は守れよ、俺が協力してるのは」

「はいはい、わかってるって、最後の神の子に相手して貰えばいいじゃない。その後で私の計画に組み込むから」

「ママ~えをかいたの」

 幼女は地面に画用紙を置いてママと呼ばれた女に見せる。

「この人はゴミなの?」

 女は手を繋いでいる三人の絵が書かれた髪が短い男を指さす。

「ちがうの、モヤモヤしてるの、ティア、だれをかいたのかわかんない~」

 女は幼女に聞こえないように冷めた声でくだらないと呟くと。

「素敵な絵ね」

 幼女の絵を褒めた。

「うん!」

 歪な家族関係な事は他から見れば明らかだが、その事を幼女は知らない。

「それじゃあティアちゃん」

 戸惑う人達を女が指さす。

「この人達全員、ママに酷いことしたの。だからママの言うことを聞くように言ってくれないかな」

「わるいひとたち、だめ!」


 幼女は戸惑う人達の前に歩み出ると。

『マインド』

 幼女の瞳が虹色に変わる。


『ママのいうことはちゃんときいて!』


「ありがとう、ティアちゃん」

 幼女の前に女が出ると口を開く。


『今から取り逃した神の子を奪いにフィーリオンに行く、お前達の役目は暴れ回ること、もし神の子と戦ったら動きを一瞬でも止めればいいから死んでも隙を作れ』


『『『はい』』』

 ここに集められた人達は無機質な声で女に返事を返した。

 女は早速、転移の魔法陣を発動させるのだった。

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