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無い者の在り方

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 ラグナロクも終わり俺は何も起きない日常を謳歌していた。

 フランも今ではユリアとの戦闘で注目を浴びて人気者への道を歩もうとしている。

 フランのお兄ちゃんとしては鼻が高い。

 俺は絶賛嫌われ者の道を歩んでいる。

 まず誰が噂を流したのか知らないが俺は光の勇者にセコイ技で勝ち、フィーリオン内では一番最初に退場した卑怯者と影で言われてるらしい。

 そして極めつけはラグナロク優勝者のユリアからの猛烈アタックによる嫉妬。

 俺はユリアから師事したいと言われ毎回断って逃げているのだ。

 そりゃそうだろ、めんどくさい。

 他の生徒が思うには何でアイツなんかに? だろうな。

 周りから見ればキテレツな話だ、フィーリオン剣士学園で一番強い奴が卑怯者に師事しようなんてな。

 俺は学園の授業を休み、フィーリオンの外にある木陰で寝転んでいる。

 周りは草原しかない、しいて言うならフィーリオンの外壁が見えるぐらいか。

 冒険者ギルドの依頼を受けているんだけどな。

 仕事としてココで寝転んでいるから、授業をサボっても誰からも文句は言われない。

 依頼の内容はただの見張り、フィーリオンの学生ならこのぐらいの依頼なら学生証を見せるだけで受けることが出来る。

「今日も平和だな~」

 呟くと地面がグラグラと揺れる。

 地震だ。

 前から地震が多くなっていて、最近では頻繁に起こるようになってきたってリリアが言っていたな。

 そんなことはいいか、昼寝しよ。




 俺がうとうとしてる時に。

 
『……りゃ! とりゃ! うぉぉぉぉ!』

 
 う、うるせぇ。

 甲高い子供の声が耳に響く。

 俺は上半身を起こして周りを見る。

 ちっちゃいガキが木の棒を振り回しながら木を叩いていた。

 しかもめっちゃ近い、もっと離れてやれや。

「お前、何してんの?」

「とりゃ! おりゃ!」

「おーい」

 全然聴こえていないようだ。

 俺は心が寛容なのでこんな事で怒ったりはしない。

「うぉぉぉぉ!」

「糞ガキしばくぞ!」

「えっ!」

 クソガキは俺の大声にビクッと肩を揺らしてコチラに振り返る。

 やっと気がついたようだ。

 紫色の艶がある髪に、赤い瞳、そして端正な顔立ち、美少年という言葉がしっくりくる。

 大人になったらイケメンになる素質がある少年。

 俺の嫌いなタイプだ。

 普通のガキには寛容になれるがイケメンはガキでも許さん。


「お兄さん、まさかフィーリオン剣士学園の人ですか?」


 しかも礼儀がちゃんとしてるタイプのガキかよ! タチが悪いな。

「まぁな」

 俺が着てる服はフィーリオン剣士学園の制服だ、それに目をつけたんだろう。


「お兄さん、僕に剣術教えてください」


 キラキラの眼差しで俺を見てくる美少年。

「嫌に決まってんだろ」

 俺の至福の時を邪魔した罪は重い。


「そうかぁ、そうだよね、僕じゃやっぱりダメなのかな」

「なんでそう思う?」

「ママやパパ、友達から諦めろとか、諦めなさいって言われるんだ」


 少年は木の棒を握りしめながら続ける。


『だって僕には魔力がないから』


 木の棒を握っている力強さとは裏腹に声には少しの悲しさが漏れている。

 その言葉、俺には反則じゃないか? 別に目の前のガキだけじゃない他にも魔力がない奴は沢山いる。

 だけど、だけどな、木に打ち付けられた傷が一日二日の物とは到底思えない。


「お前、ここでずっと木の棒で木を叩いてるのか?」

「うん、やっぱり僕は諦められないから、魔力がある人より努力したら超えられるかなって」


 安直な考え方だな、魔力ある奴はそれだけで身体的にも強くなる、最初からスタート地点に大きな超えられない領域のハンデが存在する。

 この世界で平等なんて言葉は存在しない、全てが不公平で理不尽だ。


「お前は何の為に力が欲しいんだ? 見返したいか? お前を見下した奴等全員を」

「見返したいなんて考えた事ないけど、目の前で助けを求める大切な人を守ってあげれるくらいには強くなりたい」


 俺は少年の答えに笑ってしまった。

 見返したいじゃなくて、守りたいか。


『小さな剣の勇者を見ているようです、昔のユウ様はこんな感じでしたよ』

『こんな奴ではなかったよ』

『そういう事にしておきます』


 クロが俺の中でからかってくる。

 俺はこんなに純粋じゃなかった。

「教えてやるよ、大切な人を守れるぐらいにな」

「本当に?」

 俺はため息をついて腰の剣を少年に投げる。

『クロ、簡易の重力魔法』

『はい』

 少年は木の棒を下に投げて剣をキャッチすると剣に重力がかかる。

「まずこれを振れるぐらいはやってみろ」

「お、重いぃ! うぉぉぉぉ!」

 少年が持ち上げようと雄叫びを上げるが剣の切っ先が地面から離れない。

「そういえばお前名前は?」

「ジークゥゥ!」

「ジークか」

 魔力なしの少年と魔力なしの勇者の師弟関係が始まったのだった。


「ついでだ、そこに隠れてるお前も来い」

 ユリアが木陰からスッと姿を現す。

「クレスさん! その子だけずるいです!」

 目をうるうるさせて訴えてくるユリア、そして顔近い。

「ユ、ユリアさん!」

 ジークは唐突な有名人ユリアの登場で剣を落とす。


「ついでだし、お前にも教えてやるよ」

 ユリアの顔がパァっと見るからに明るくなる。

「い、いいんですか!」

 ユリアの喜ぶ姿がリリアと重なる。

 調子が狂うな。

 めんどくさい事を引き受けたなと自分ながらに思い、俺は草原に寝転がった。


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