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強者

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 俺の殺気に後ずさる魔族は俺を観察して余裕の笑みを浮かべる。

 どうやら気づいたようだ、魔力が無いことに。

「ふっ! しゃしゃり出てきてどんな強敵かと身構えてみれば、魔力が全くないネズミが俺様に勝てる筈がない」

 そのセリフ何千回と聞き飽きてるんだよ、コッチはな。

「そう言って消えていった魔族がどれだけいると思ってんだお前」

 すでに魔族は黒銀の魔力を纏い精霊化オーラルフォーゼを発動している。

「俺様の呪いの魔法で殺してやる!」

「今の俺には呪いなんて効かねぇよ」

「ほざけ!」

 魔族の魔力が高まると俺の身体を霧状の闇が拘束する。

「やはり口先だけだったようだな」

 それはどうかな。

 精霊神のシロとクロが俺の両隣に現れると、拘束していた闇が弾ける。


『『主様には私達がいる限り、魔法は通しません』』


 魔族は驚きの声を漏らす。

「精霊だと!」

 俺と魔族を遮るように間に入ってきた人影。



 水の精霊神アオイはリリアをお姫様抱っこしながら俺の前に現れた。


『シロとクロがどこに行ってたのかと思ったらユウ様と一緒に居たんですね、私はのけ者ですか?』


「アオイ、なんでココにいるんだ?」

 俺の疑問をスルーしてアオイは魔族を見る。

「話は後で聞かせて貰いますよ、パパッとそこの魔族を倒してください」

 人使いが荒いな。

 俺は魔族に黒剣を向ける。


『手加減してやるからかかってこいよ』
 

「舐めるなぁぁぁぁ!」

 魔族は鎧をガチャガチャと揺らしながら俺に向かって剣を振るう。

「遅いんだよ」

 黒剣で迎え撃とうとした時、魔族が仕掛ける。

『リミットオーバー』

 魔族の動きが一段と速くなる。

 だけど、遅いことには変わりない。

 黒剣は魔族の剣を弾き返す。

「なんでだ!」

 魔族の苛立ちの含む声に煽り返す。

「リミットオーバーって速さ上げる能力なのか? 弱い能力だな」

「クッ!」



 魔族は一旦俺から距離を取ると黒いオーラを纏う。

『リミットオーバー、リミットオーバー、リミットオーバー……』

 何度も。

『リミットオーバー、リミットオーバー……』

 何度も。

『リミットオーバー』

 魔族の身体は黒く鈍く光る。

 何度も能力を繰り返すうちに動かなくなった魔族。

「クハ、ハハハ、もう俺様に貴様は勝てない! グハッ!」

 勝利宣言した瞬間に血を吐いたんだけどコイツ!

「何もやってないのにボロボロなんだけど」

「能力に耐えれる限界はとうに超えた! 限界を超える能力の限界という奴だ。俺様は後一回能力を自分の身体に使えば死ぬ」

 魔族の底は知れた、俺は勝ちを確信して呟く。

「そうか、ならお前は死んでも俺には勝てないな」

「貴様は俺様を舐めたんだ! 貴様はただでは殺さん!」

 魔族の踏み込みと同時に身体がぶれる。

 その瞬間に俺も黒剣を振るうと黒剣が魔族の剣を捉える。

 魔族の剣は黒剣を受けた一撃で崩れ去る。

「ッ!」

 魔族は自分の剣が壊れて驚き顔だ。

「何故って顔だな、お前がいくら限界を超えようと」

 無防備な魔族に向かって俺は容赦なく黒剣を振り抜く。


『俺の方が強かった、それだけだ』

 
 魔族は魔法石を残して消滅した。

 役目が無くなった黒剣を放るとキラキラとエフェクトを残して消えていった。

「あんな魔族に手間取って……鈍りましたか?」

 ギクッ!

「そ、そんなことはないはずだ! アオイも負けてたんだろ、少し強かったんだよ……」

限定精霊化オーラル・フォーゼの強制解除で一時的に魔力が制限されるんですよね」

 リリアが限定精霊化を使っていたのか……。

 俺はリリアの成長と精霊神がリリアを認めていることを知れて嬉しかった。

 アオイは俺の顔を見て頬を膨らます。

「ユウ様、何を笑っているんですか? 私は怒ってるんですよ!」

 俺はすぐさま話をそらす。

「……限界を超える能力って他の奴にも使えるのか……じゃあなんで俺に使わなかったんだ?」

「自分よりも強い相手を強化する人はいないでしょうね」

 なるほど。

「それでは久しぶりにユウ様と話したいです」

 アオイが少し素直だ。

「なんですか、その顔は……私だって待ってたんですからね」

 アオイの頬が朱に染まる

「じゃあ話すか、ユウカが待ってるから続きは馬車でな」

「はい!」




 俺達は馬車に戻り、アオイと話した。これまでの事とか色々な事を。

 リリアをずっと守ってくれていたアオイには感謝を伝えた。





 そうこうしてる内にアオイの案内でフィーリオンにあるリリアの家までついた。

 アオイは扉に手をかけ魔力を流すとガチャリと鍵が開く。

 登録した魔力に反応するらしい。

 ハイテクだ!



 アオイがリリアをベットに寝かせると。

「ん~」

 タイミングよくリリアが目を覚ました。

 何故か俺はベットの下に隠れる。

 何故かユウカも。

 ユウカが至近距離で近寄って来て、ちょっとドキドキしました。

 精霊神達もアオイ以外は姿を消す。

「やっと起きましたか」

「どうしてここに?」

 ベットの上からアオイの声とリリアの声が聞こえる。

「私が運んで来ましたよ」

「魔王は!」

「一人で倒しました、私が本気を出せば簡単でした」

「そうかな~?」

 リリアの可愛い声が聞こえてくる。

 何故隠れたのかわからないが、ここで出ていくのは不味い気がする。

 妹のベットの下から「サプライズ~」とか言いながら飛び出すか?

 ダメだ……嫌われる~!

「そんな深く考えてはダメですよ、今日は大事な日じゃないですか?」

「そうだった! アオイちゃんありがとね!」

 ドタドタと音がして勢いよく家を出ていくリリア。

「ふ~」

 俺とユウカはベットの下から出る。

「なんで隠れたんだい?」

「なんとなく?」

 なんとなく恥ずかしかった。

 ずっと家に帰って来なかったのにいきなり家に帰ったら照れ臭くなるアレだ!


「クロ! 俺は学園に侵入します! 手伝って~」

「はい、ユウ様」

 クロは姿を現すと俺の身体に入ってくる。

『指定は人族、あとはクロのオススメで』

『はい』

 俺は闇を纏う。

『うつし影』

 変装が完了した俺にユウカが疑問を投げかける。

「また入学するのかい?」

「そうだな、フランの友達になって学園に馴染ませるまでがミッションだ」

「あとはリリアちゃんの教師姿も見たいんだよね」

 ……図星だ。

「それもある!」

 別に隠すことはないし。

 俺の学園生活の始まりだ!



 俺はリリアの家を出るとフィーリオン剣士学園に向かう。

「クレス君……そっちじゃないよ」

 俺はユウカに連れられながらフィーリオン剣士学園に向かうのだった。



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