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弱者

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 俺は一ヶ月の間、リリアに剣技を少し教えてはトウマに任せて帰るを繰り返していた。

 精神的に休まないとやってられないからだ。

「私にも貴方の剣を教えて欲しい!」

 ずっと俺の帰宅を見ていた奴が姿を現した。

 ミミリアだ。

「トウマに教えて貰った方が無難じゃないか?」

「いや、私はキマイラと戦っている貴方の姿を見た」

「お前に教えてやれることはない」

 俺は寮に帰ろうと足を動かす。

「このままではミリアードが! 私は強くならねばならないんだ」

「きゅい~」

 アリアスもミリアードという言葉に反応したのか声を出す。

 俺は足を止める。

 それを言われたら手を貸さないという選択肢がなくなるじゃないか。

「お前はミリアードの剣聖になりたいのか?」

「剣の勇者が世界を滅ぼうとした事は貴方も知っているでしょう」

「あぁ」

「私は今は禁忌の姫と呼ばれて皆んなからは軽蔑されている、私も世界を救った一人だとしても剣の勇者を召喚した国の姫だからだそうだ」

「同情して欲しいのか?」

「言葉に出来ないんだが、私は今だに剣の勇者が世界を滅ぼそうとしたことは認められないんだ。この目で見て戦ったというのに変だろ?」

 ミミリアにはアレクの血が色濃く出ているなと思ってしまった。

 そういう所はアリアスに似なくて本当によかったな。

「きゅい~!」

 ドラゴンが頬を膨らませている。

「私が剣聖になれば……」

 俺はミミリアの声を遮る。

「力をつければ軽蔑の目を向けてた奴等を見返せるからか?」

「違う、私が剣聖になればミリアードを守れるかも知れないからだ」

「国が潰れるかも知れないとお前は言ってるのか?」

「魔物襲来でミリアードは半壊した、剣聖は逃げたらしい」

 タイミングと状況が悪すぎるなミリアード。

「他の国からは剣聖が逃げたことでミリアードは今や最弱の国となってしまい、復旧にもそんな国に金をやるほど周りの国は優しくない」

「そして剣聖適性で逃げた剣聖をボコって威厳を復活させようと?」

「それもあるが私は剣の勇者を信じて、私は国を愛している。他の勇者のようにまたこの世界に剣の勇者がやって来るかも知れないのだ、その時にミリアードがなかったらと考えると」

「故郷を無くしたような気持ちになるかもな」

 国を愛しているか……。


「教えてやるよ、俺の剣技を」

「本当か!」

「最初に言ったよなお前に教えることは何もないと、それは本当の事だ」

「な、なぜだ?」

「アレク流剣術の使い手なんだろ?」

「あぁ、何故それを?」

「俺の剣術は全てアレク流剣術の中に入っている、その腰にかけている剣は玩具か」

「これは剣の勇者の剣だ!」

「それが答えなんだが、その剣とアレク流剣術の意味を考えろ。答えはお前の中にある、その意味を半分でも理解した時」

 俺は自分の左手を胸に当てる。



『どの剣聖にも負けることはねぇよ』



 手を貸すのはここまでだ、俺はミミリアの声に振り返ることなく歩き出す。



「きゅい」

 不満そうに鳴くアリアス。

「何が不満なんだよ、俺は充分に教えてあげただろ」

 




 嫌な人の指導というかトウマさんの指導を受けてすでに二ヶ月もの月日が経った。

『この人全然教えてくれないじゃん!』

 私の不満は爆発していた。

 なんなの? 教えてくれるって言ったのに。

 明日は剣聖適性の試験がある。

 そして私は嫌な人と向かい合っていた。

「お前に教える最終日だからな、少しは強くなったか試してやる」

 絶対に倒してやるんだから。

 私は剣を構える。

「手加減してやるからかかってこいよ」

 むかつく!

 嫌な人の懐に飛び込んで剣を斜め下から斬り上げる。

 私は剣を振るけど掠りもしない。

「お前さ、今まで何してきたの?」

 むぅ。

「全然教えてくれなかったじゃん」

「教えただろ? 今お前の剣を避けてる技術は全て教えた物だけでやっている」

 嘘!?

 私は嫌な人の動きを見ながら剣を振る。

「ほらな」

 今までの復習のように見せられる動きに本当の事を言ってるのだと気づかされる。

 私は剣を振るのを止める。

「なんでそんな言い方するの? 私が弱いから?」

 なんで貴方はいつもそんな辛そうな顔をするの?

「あぁ、お前が弱くて相手にならないからだ、俺は退屈でつまらなすぎる」

 私に言葉を吐く度に、顔色が悪くなっていく嫌な人。

 私が聞きたいことは。

『なんでそんなに辛そうなの?』

 だけど聞けない、聞いてしまえば、この人の何かが壊れてしまいそうな気がするから。

「トウマ頼む」

「あぁ」

 いつもと同じだ、私が剣を振るのを止めるとトウマさんに交代して自分は帰る。

 嫌な人には一度も剣を当てることなく、一度も倒すことは出来なかった。

 そして一度も、彼の笑顔を見れなかったことが悔しかった。

『笑顔?』

 私はなんで嫌な人の笑顔を見たかったんだろ。

 全部私が弱いからダメなの?

『力が欲しいよ』

 リリア自身、自分の心が分からなくなっていた。
 

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