41 / 201
病気
しおりを挟む『手加減してやるからかかってこいよ』
「やっぱりお兄ちゃんだね」
リリアの言葉にユウカとミミリアも頷く。
三人は一斉に剣の勇者に斬りかかる。
その全てを剣の勇者が弾き返す。
「遅いな、俺の右目で見えない物はない!」
剣の勇者が叫ぶ。
俺も心の中で叫ぶ。
『や~め~て~く~れ~!』
俺は頭を抱える。
くそっ! もしかしてと思ったが調子に乗ってた時期に記憶の石を使っていたのか。
俺は集中した状態の時、魔法の流れが目で見える。今では集中したら肌で感じるまでになっているが……。
空気中の魔力や魔法発動の兆候、普通は目に見えない魔法の流れ、それを俺は見る事ができる。
あの記憶の石に封じ込められた思想はたぶん俺が魔法の流れを目で見えるようになった時の物だ。
俺の忘却したい過去の一つ。
痛い事をやってて恥ずかしいと少しでも思ってるならまだいいのだ。
その時の俺はその痛い事を本気でカッコいいと思っていたから何十倍も痛いのだ。
普通の人が見えないものを自分だけが見えている。その時の感情は察して欲しい。
そんな状況になったら男なら誰でも昔の俺みたいに思春期特有の病が発症する。
「ふははは、手加減してやると言ってるのだぞ、さぁかかってくるがいい! 俺の……」
俺は耳を塞ぐ。
このまま聞いていたら精神が持たない。
リリア、ミミリア、ユウカの三人はコイツ何言ってんの? という目をしている。
俺にはそれが耐えられない。
「フィリア、これやるよ」
俺はフィリアにポップコーンモドキをやると立ち上がる。
「いいのか? クレスよ、どこに行くのじゃ?」
「ちょっとな」
俺は心の中で強く念じる。
アイツらは何時も見てるらしいからな。
こっちからは呼べないと言うのは昔の俺は一度も助けを求めたことがない、呼んだことがないのだ。魔力がないから呼べるか分からないが。
『クロ、動けるなら助けてくれ』
「ユウ様の頼みなら断れませんね」
俺の隣に音もなく現れた紫の長い髪と紫の瞳を持つ美女。
「はやっ!」
精霊神が来る速さに驚く。
「助けてくれてありがとうございます。シロも言ってましたよ」
「それなら当然の事をしただけだ、あと……」
フィリアが俺の言葉を遮ると頭を下げる。
「闇の精霊神よ、すまなかった」
「別にいいですよ、気にしてないですし」
「ほらな気にしてないって言っただろ?」
「うむ」
「お前は昔とは違う、今は笑顔の方が似合うんだから深く考えて深刻になるな、笑え」
「う、うむ」
フィリアの頬が朱に染まり俺から視線をそらす。
「それより可愛らしい姿になりましたね。魔法の映像でみるよりも直で見る方が何倍も可愛いです。昔のユウ様は助けてくれとか一言も言わなかったから新鮮ですけど、なんかこの状況で呼ばれると複雑な気持ちですね」
「他の精霊神から聞いてるなら説明はいらないな。俺は黒歴史を消し去るためなら何でもする」
「おい、クレスよ、食堂では使わないって自分で言っておったじゃないか!」
「はっ? なに言ってるんだ? これは緊急事態だろうが! クロやるぞ!」
「ユウ様はいつまでもユウ様ですね」
闇の精霊神のクロは変わらないユウ・オキタを見て微笑み、光の粒子になりクレスに入っていく。
クレスの蒼の瞳が、紫色に変わる。
限定精霊化だ。
クレスはすぐさま闇の精霊神の特殊能力を発動する。
『うつし影』
性別や種族とわず指定した生物になれる。
一度でも見たことがある生物しかなれないという制限がある。
周りからそう見えるようになるとかじゃなく特定の人物を指定した場合、体格から性別、何から何までその人物になる。
もちろんクレスがここでなるのは剣の勇者ユウ・オキタだ。
限定精霊化したクレスの身体を包む黒銀のオーラが一瞬にして紫色に染まり。
また黒銀に染まると黒髪黒目になり身長も高くなる。
『リミテッド・アビリティー』
何もない空間に手をいれて、金色のオーラを纏う黒剣を取り出す。
「どうだフィリア、俺は剣の勇者か?」
「どこからどうみても剣の勇者じゃ」
「そうか」
クレスは呟くとその場から一瞬で消える。
「ん?」
バトルフィールドにいる剣の勇者が異変に気付く。
「ぐっ!」
咄嗟に飛んできた斬撃を受け止める。
「さすが俺だな」
クレスは剣の勇者に向けて言い放つ。
「誰だお前は」
「俺か? 俺はお前の本体だ」
「な、なに!」
目にも止まらぬ剣の乱舞。
その合間に言葉を交わす二つの黒剣。
「人形のお前には悪いがここで消えてもらう」
「ふっ、やれるものならやってみろ」
会場中が静まりかえる。
バトルフィールドには何が起こったのか理解も出来ていない三人の姿がある。
「な、なにこれ」
ユウカの口から漏れる。
何かがぶつかる音だけが聞こえるが何も見えない。
ぶつかる音だけ、衝撃もなにも起きないのだ。
そして剣の勇者も見当たらない。
「お前はよくやったよ」
「お前、強すぎるだろ! 本気、だしても、俺の、剣が、掠りも、しない」
「言っただろ剣の勇者、本人だって」
人形はすでに至るところボロボロだ。
クレスは止めを指すことにする。
「終わりだな」
人形の反応できない全力で黒剣を振る。
人形が真っ二つに割れる。
「さすが俺の本体だな、強いはずだ」
一言残してキラキラと人形が光の粒子に変わる。
中から記憶の石が出てきて、それも真っ二つ割れて光の粒子に変わる。
クレスは黒剣を頭上に放ると空中に放り出されたグランゼルを握る。
全てがキラキラと消える中、そのエフェクトで彩られた本物の剣の勇者が姿を現す。
音が鳴りやみ剣の勇者を視界にとらえる。
「なんか剣の勇者がさらに強くなってる気がするだけど気のせい?」
「はい、私もそう思います」
「リリアも」
三人は冷や汗を流し、リリアは私からリリアに自分の呼び方が変わっている。
さらなる強敵を目の前にして三人は剣を構え直すのだった。
0
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
【完結】魔力・魔法が無いと家族に虐げられてきた俺は殺して殺して強くなります
ルナ
ファンタジー
「見てくれ父上!俺の立派な炎魔法!」
「お母様、私の氷魔法。綺麗でしょ?」
「僕らのも見てくださいよ〜」
「ほら、鮮やかな風と雷の調和です」
『それに比べて"キョウ・お兄さん"は…』
代々から強い魔力の血筋だと恐れられていたクライス家の五兄弟。
兄と姉、そして二人の弟は立派な魔道士になれたというのに、次男のキョウだけは魔法が一切使えなかった。
家族に蔑まれる毎日
与えられるストレスとプレッシャー
そして遂に…
「これが…俺の…能力…素晴らしい!」
悲劇を生んだあの日。
俺は力を理解した。
9/12作品名それっぽく変更
前作品名『亡骸からの餞戦士』
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
異世界で引きこもり生活を始めたら、最強の冒険者になってしまった件
(笑)
ファンタジー
現代日本で引きこもり生活を送っていた大学生、翔太。ある日、不慮の事故で命を落とし、異世界に転生する。そこで、美しい女神から「この世界で第二のチャンスを与えます」と告げられ、強制的に「チート能力」を授けられる。翔太は引きこもり生活を続けたいと考え、異世界の小さな村の外れにある古い屋敷に住み着く。翔太は「物質生成」と「魔力操作」の能力を駆使して、屋敷を快適な引きこもり空間に改造し、理想的な生活を送る。しかし、村が魔物の襲撃を受けると、村人たちはパニックに陥り、翔太も不安になるが、彼は自らの能力を使って村を救うことを決意する。翔太の勇敢な行動により、彼は村の英雄として称えられる。その後、翔太は美しい剣士エリナと出会う。エリナは翔太の能力に興味を持ち、一緒に冒険することを提案する。最初は引きこもり生活を続けたい気持ちと、新しい仲間との冒険心の間で揺れる翔太だが、最終的にはエリナと共に旅立つ決意をする。旅の途中で翔太とエリナは謎の遺跡に辿り着く。遺跡には古代の力を持つアイテムが隠されており、それを手に入れることでさらなるチート能力を得られる。しかし、遺跡には数々の罠と強力な守護者が待ち受けており、二人はその試練に立ち向かう。数々の困難を乗り越えた翔太は、異世界での生活に次第に馴染んでいく。彼は引きこもり生活を続けながらも、村を守り、新たな仲間たちと共に冒険を繰り広げる。最終的には、翔太は異世界で「最強の冒険者」として名を馳せ、引きこもりと冒険者の二重生活を見事に両立させることになる。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる