20 / 201
自称剣の勇者
しおりを挟むもう午後のトーナメントが始まっている。
少し遅れてしまったがミミリアとリリアは無事に一回戦を突破したみたいだな。
電光掲示板のようなモニターにトーナメントの組み合わせが映し出されている。
「僕は剣の勇者だ!」
ん? 俺がコロシアムの掲示板を見ている時にバトルフィールドから痛い声が聞こえてきた。
見るとそこには異世界では珍しいんじゃないかな? 黒髪黒目のイケメン美男子がいた。
「な、なに!」
自称剣の勇者の相手も青髪の美男子だ。えっ? トーナメントに出てる奴はこんなんばっかりか! 禿げろ!
俺は使えない呪いの魔法を気合いでかける、発動はしないが。
「今まで四年間隠して来たが僕は邪神を倒した本当の剣の勇者だ!」
会場は盛り上がる。
俺はこの美男子君を冷めた目でみる。
だって俺は恥ずかしくて死にそうだ。
入学式の日の俺を見てるみたいで客観的に観ると、あっ! コイツ痛い奴だなってなるのは当たり前じゃん。
ミントが呆れながらまた? 剣の勇者? って言っていた顔が鮮明に浮かび上がる。また一つ俺の心の中のパンドラの箱が開く、そして鎖で巻かれた黒歴史の本のページにこの事は刻まれてしまった。
俺は刻み終えた黒歴史の本の鎖を巻き直して、元のパンドラの箱に戻す。
入学式のことはもう無かったことだ。
ふぅ、剣の勇者ね、アイツ痛い奴だ。
黒髪黒目のイケメン君は続ける。
「最強の剣の勇者ユウ・オキタの隣にはリリア・フィールドさんが相応しい」
アイツも模擬戦で天使みたいなリリアを見て惚れた一人なんだろ。
見てないのになぜ分かるって? 精霊化してる妹様はめっちゃ可愛いからな! 見なくても分かります。
でもやっていいよね? 偽者には制裁を!
「だが、このトーナメントで優勝し誰もが認める強さを見せつけてリリアさんに婚約を申し込もうと思う!」
まぁいい心がけだな、リリアがいる限り優勝は無理だがな!
なんで勇者だったと告白したんだ? 今まで隠していたんだろ?
「皆んなが何故ここでと思っただろう! それはな、リリア・フィールドが俺を見てホーリートレースを発現させたからだ! 僕に向けての愛を感じた。だから僕も剣の勇者であることを告白しようと思ったんだ。リリアさんには気づかれていたみたいだがな!」
盛大に勘違いしている奴がいるな。
自称剣の勇者様はリリアが剣の勇者のファンだと思って自分が剣の勇者に成り代わろうとしているんだと思う。
おっ! 青髪君が動いた。
「何をするんだ! 今、大事な所だろ」
自称剣の勇者は青髪君の剣を容易くかわす。
「僕は剣の勇者だ、そんな剣じゃ効かないね!」
青髪君には悪いがこれは実力差がありすぎる。
自称剣の勇者は気配だけで剣を避けたぞ。
「勝負する気がないなら早く退場しろよ!」
青髪君が怒鳴る。
「良いだろう、僕の力を見せてあげよう」
自称剣の勇者が半透明な黄色のオーラル纏う。
『我が想像の力に置いて創造せよ』
自称剣の勇者が呪文を詠唱する。
土属性神級創造魔法。
『クラウドクラフト』
自称剣の勇者の手から黒剣が出現する。
自称剣の勇者君も凝ったことするな!
少し見直した。
「どうだ、この黒剣は剣の勇者の証!」
自称剣の勇者が自信満々に言い切ると。
「剣の勇者は魔力がないんだから魔法で黒剣を作れないだろ」
「魔力がない説が嘘なんだよ! 魔力なくて邪神が倒せるはずないじゃん、少し考えれば分かるだろ!」
「た、たしかに!」
お~い青髪、もう少し頑張れよ。
「じゃあその剣に魔法付与もしないで魔法を斬れるのか?」
「だからそんな事は出来ない! 絵本の読みすぎだぞ」
「剣の勇者が言うならそうなのかもな」
おい青髪! そいつ偽物だからな、何でこんなに信じやすいんだよ。
「剣の勇者が現れたって事は世界に五人の勇者が揃ったのか!」
はっ? どういうことだ? 青髪君が意味深な事を呟いた気がしたんだが。
「あぁラグナロクが楽しみだぜ」
自称剣の勇者が青髪君を翻弄してその試合は終わった。
なんだったんだ? 五人の勇者? 他の奴等も生まれ変わりをしていたのか?
トーナメントに出た時点でラグナロクの参加は決まってるからな。
青髪君は実力差があると判断したのかすぐに降参したしな。
あっ! 次はリリアの試合だ。
見なければ!
始まってすぐに相手が気絶して終わる。
うん、なんて言えばいいのかな。
もうリリアの対戦相手はリリアに当たったことが不幸としか言えないな。
午前中のリリアの比じゃないほど今のリリアは本気を出している。
なにがあった? もしかして約束か?
ミミリアがシード枠だから次にリリアに当たるのが自称剣の勇者か? これは少し面白いな。
少しの時間が空いてリリアと自称剣の勇者がコロシアムに現れる。
「リリアさん僕が優勝したら結婚を前提にお付き合いしてください」
自称剣の勇者からの告白。
それをリリアは。
「嘘つきは嫌いです」
それはそうか本物を知っているからな。
「嘘つき? この僕が? 僕は剣の勇者だぞ! 最強だから何しても許されるんだ!」
この学園クズみたいな奴多すぎるだろ。
自称剣の勇者がリリアに強引に迫る。
『私の最強を具現化せよ』
リリアが呪文を詠唱する。
『ホーリートレース』
黒髪黒目のイケメン、ユウ・オキタが金色のオーラを発する黒剣を持ち現れる。
偽物よりもイケメン度が高い。
それを見て偽勇者がリリアに向かっていた足を止める。
「貴方が剣の勇者なら私の剣の勇者を倒してみて! そしたら結婚でも何でもしてあげるから」
リリアは自分の最強が負ける事を微塵も思っていない。
『倒したらの話だよ』
リリアはその場でくるりと周り小悪魔的な笑みを見せる。
観客席ではその笑みにやられ何人かがノックダウンしている。
くっ! 可愛い! あとで抱き締めたら嫌われるかな?
俺は観客席でリリアに嫌われないように抱き締めるにはどうするかを必死に考えるのだった。
0
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~
霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。
ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。
これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
【完結】魔力・魔法が無いと家族に虐げられてきた俺は殺して殺して強くなります
ルナ
ファンタジー
「見てくれ父上!俺の立派な炎魔法!」
「お母様、私の氷魔法。綺麗でしょ?」
「僕らのも見てくださいよ〜」
「ほら、鮮やかな風と雷の調和です」
『それに比べて"キョウ・お兄さん"は…』
代々から強い魔力の血筋だと恐れられていたクライス家の五兄弟。
兄と姉、そして二人の弟は立派な魔道士になれたというのに、次男のキョウだけは魔法が一切使えなかった。
家族に蔑まれる毎日
与えられるストレスとプレッシャー
そして遂に…
「これが…俺の…能力…素晴らしい!」
悲劇を生んだあの日。
俺は力を理解した。
9/12作品名それっぽく変更
前作品名『亡骸からの餞戦士』
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる