上 下
19 / 201

稽古

しおりを挟む






「アレク様を侮辱したお前は許さない」

「アレク流剣術ね、やってみろよ」

『漆黒の闇よ、形をなし我が手の中へ』

 ミミリアの手の中から黒銀のオーラを纏った銀色の剣が現れる。

 そして俺を睨み付けるとミミリアが瞬間移動で間合いを詰める。

「おっ! 瞬間移動か。ミリアードの一族は皆んなレアなスキル持ってんな」

「知ったような口を!」

 ミミリアが俺の右肩から左側にかけて剣で斬り付ける。

 それを俺の模擬剣で弾き返し、無防備になったミミリアの首元に剣を突きつける。

「末裔が弱すぎてアレクが見たら悲しむぞ」

「!!!」

 ミミリアの姿が消えて最初にいた場所に現れる。

「次は俺の番だよな」

 呪いの影響か? 体が痺れる。重度の筋肉痛を意地で動かしてるような感じだな。

 身体への負担が大きすぎる、これは長くはもたない!

 呪いは水の抵抗と同じだ。力を出せば出すほど泳ぐ時の抵抗は大きくなっていく。




 ミミリアは瞬間移動を駆使してクレスの模擬剣を受け流す。

 そしてミミリアは違和感を感じる。

 防戦一方のミミリアが瞬間移動で大きく間合いを取る。

「おい何故貴様がアレク流剣術を使っている?」

 クレスに疑問を投げ掛ける。

「これは俺の剣術だが?」

「いや、それはアレク様の物だ! 勝手に使うなど恥を知れ!」




 俺はその場で立ち止まり、ミリアード王家に一つ貸しを返すことにする。

「一つ誤解を解いとくとな。その剣術は剣の勇者の剣術をアレクが真似して覚えた物なんだよ」

「剣の勇者の剣術だと!」

 ミミリアには隠す必要はないよな。俺はミミリアの先祖のミリアード王家にはめちゃくちゃ世話になったし。

「リリアのホーリートレースが何故あれほど完璧なのか疑問に思わなかったのか?」

「た、たしかに今は存在しないはずの剣の勇者を指定した場合は不発に終わるか、発動しても神級魔法を一撃で消滅させるほどの力を出せるはずがない」

 俺は模擬剣を地面に刺す。

「そして何故俺がアレクの事を知っているのか」

「そうだ! 私はアリアス様の兄としか言ってはいない、でもだからと言って兄がアレク様だと言うことはこの学園の者はもちろん剣の勇者を知る者は殆ど知っている」

「口でヒントを出しまくっても分からないのか? 答え合わせだ」

 俺は何もない空間に手を入れる。

『リミテッド・アビリティー』

 その空間から金色のオーラを纏う黒剣を取り出す。

「貴様、それは!」

「何故? 俺がアレクの事を知っていたのか? 何故? リリアが剣の勇者を完璧に再現させたのか? それはな」

 ミミリアは驚愕して目を見開いている。

『俺が剣の勇者だからだ』

 貸しを返す準備は整った。

「この試合勝つ気満々だったが気が変わった。アレクが憧れた剣の勇者から直々に稽古をつけてやる」

「貴様が剣の勇者だと! そんなの信じやれるか!」

「この黒剣が何よりの証拠だろ」

「くっ!」

「ミミリアは俺の剣術をかじった程度だが筋はいい方だ。剣を合わせた実力だと天才以下だが才能はある。だから俺が今からお前を天才に変えてやるよ」

「わかった、私が強くなるために」

 ミミリアは釈然としない気持ちを抑え込み、クレスの言うことを聞く。



「これはリリアにも教えている事だがその剣術の心得としてな、まずは相手の攻撃を見る」

 俺はミミリアにも見える速度で上段から剣を振る。

「そして受ける」

 ミミリアの懐に飛び込み、同じように剣を振る。

「ぐっ!」

 ミミリアは必死にそれを受けている。

「そうだ、そしてそれを受け流す」

 剣を横にずらしミミリアは力を全て流す。

「そして最後に見切り、かわす」

 またもや上段からの一撃を放つと、ミミリアの目と鼻の先を通過し剣が地面を切る。

 ミミリアは随分と呑み込みが早いな。

 俺はその動作を順番にミミリアにやらせる。




 それからミミリアは数分という短い時間を永遠と感じるほど長く感じた。

 それはそうだろう。クレスの剣撃が繰り返す毎に速くなり、重くなっていくのだから。受けるからかわすに至るまで力を抜けない。もし気を緩めるとその些細な一瞬で死の世界に誘われると確信するほどの威圧感がある。

「はぁ、はぁ、これで私が強くなるのか」

「気づいてないのか? 今の状態ならリリアの剣を受けれるはずだ」

 クレスはミミリアの懐に飛び込み、横一文字に切りつける。

 それをミミリアは咄嗟に剣を滑らせて受け流す。

「貴様なんのつもりだ!」

「数分前の状態なら受ける事も出来なかっただろうな」

 ミミリアは咄嗟にあれだけの速度と剣撃を受け流した事に今更ながらに気づいた。

「何故数分前と今なら全然違うのだ」

「ミミリアは切っ掛けがなかっただけだ。天才の領域に片足だけ突っ込んでた状態に過ぎない。それを俺が押し込んだと言ったら理解できるか? それとなリリアの剣術は俺の中でも正統派な剣術を教えた。だがミミリアの剣術は剣の勇者のオリジナルの剣術に近い、人殺し、邪神や魔王殺しの剣術だ。アレクは厄介な物を残したもんだな」

「私が剣の勇者の剣術を!」

「その剣術をかじっただけでも習得するのには相当な努力が必要のはずだ、天才染みた才能もな。俺の剣術をよく知るアレクも特殊能力のモノマネでしか俺の剣術を扱えなかった位だからな」

「クレス、私を強くしてくれた事には礼を言おう、ありがとう」

 礼と一緒にミミリアはクレスに微笑んだ。

 ミミリアのその笑顔はアリアスに似ていてクレスの胸が少し高鳴ったのは秘密だ。

「やっと名前で呼んでくれたな」

「クレス! 戦いを再開しよう」

 クレスは黒剣を放り投げると金の煌めきと共に黒剣は消えていく。

「悪いな、俺はもう動けな……い」

 そしてクレスはドサリと地面に倒れた。




 目が覚めると。

 コロシアムにある医務室のベッドに俺は横たわっていた。

「お兄ちゃん!」

 ベッドの横には涙を流し目を腫らした妹様と心配そうに俺を見つめているミミリアの姿があった。

「どうした?」

「お兄ちゃんバトルフィールドで倒れたんだって心配じだよ~」

 リリアが俺に抱きついてくる。  

 俺は抱きついてきたリリアの頭を優しく撫でる。

「涙を拭けよ」

「うん」

 リリアが元気なく頷く。

「ところでミミリアはどうしているんだ?」

「べ、別にクレスが心配でついてきた訳じゃないぞ! クレスが倒れた原因が少しでも私にあるのなら、付き添うのは当たり前だ!」

「お姉ちゃんは、お兄ちゃんが倒れたときに、凄く心配してたんだよ」

「リリア! 余計な事を言うな!」

 ミミリアの頬が朱に染まり慌てて取り繕う。

「次は試合だろ? 見てるから頑張れよ」

「嫌だ! お兄ちゃんと一緒に居るの!」

 リリアは俺に抱きついて離そうとしない。

「リリアが頑張ってる姿が見たかったな~」

 リリアの身体がビクッと震える。

「優勝したらお兄ちゃん何でもしちゃうぞ」

 顔をガバッと上げて。

「本当だね! 約束だよ!」

「あぁ」

 俺は少し気押される。なにをさせるきだ!

「やっくそく~、やっくそく~何して貰おうっかな~」

 リリアは優勝する気満々でササッと次の試合に向かう。

「ミミリアもだろ」

「私は剣の勇者に憧れてきた。だから私もクレスの傍にい……『居たい』」

「えっ?」

「な、なんでもない!」

 真っ赤になったミミリアもそそくさと医務室から居なくなった。



 やっぱり呪いはキツイよな。二割でこれなんだから呪い状態での力加減を誤ると俺は死にそうだな。気を付けるか。

 リリアに危機が迫ったら勿論死ぬ気で危機を排除するけどな!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

2度追放された転生元貴族 〜スキル《大喰らい》で美少女たちと幸せなスローライフを目指します〜

フユリカス
ファンタジー
「お前を追放する――」  貴族に転生したアルゼ・グラントは、実家のグラント家からも冒険者パーティーからも追放されてしまった。  それはアルゼの持つ《特殊スキル:大喰らい》というスキルが発動せず、無能という烙印を押されてしまったからだった。  しかし、実は《大喰らい》には『食べた魔物のスキルと経験値を獲得できる』という、とんでもない力を秘めていたのだった。  《大喰らい》からは《派生スキル:追い剥ぎ》も生まれ、スキルを奪う対象は魔物だけでなく人にまで広がり、アルゼは圧倒的な力をつけていく。  アルゼは奴隷商で出会った『メル』という少女と、スキルを駆使しながら最強へと成り上がっていくのだった。  スローライフという夢を目指して――。

女神のチョンボで異世界に召喚されてしまった。どうしてくれるんだよ?

よっしぃ
ファンタジー
僕の名前は 口田 士門くちた しもん。31歳独身。 転勤の為、新たな赴任地へ車で荷物を積んで移動中、妙な光を通過したと思ったら、気絶してた。目が覚めると何かを刎ねたのかフロントガラスは割れ、血だらけに。 吐き気がして外に出て、嘔吐してると化け物に襲われる…が、武器で殴られたにもかかわらず、服が傷ついたけど、ダメージがない。怖くて化け物を突き飛ばすと何故かスプラッターに。 そして何か画面が出てくるけど、読めない。 さらに現地の人が現れるけど、言葉が理解できない。 何なんだ、ここは?そしてどうなってるんだ? 私は女神。 星系を管理しているんだけど、ちょっとしたミスで地球という星に居る勇者候補を召喚しようとしてミスっちゃって。 1人召喚するはずが、周りの建物ごと沢山の人を召喚しちゃってて。 さらに追い打ちをかけるように、取り消そうとしたら、召喚した場所が経験値100倍になっちゃってて、現地の魔物が召喚した人を殺しちゃって、あっという間に高レベルに。 これがさらに上司にばれちゃって大騒ぎに・・・・ これは女神のついうっかりから始まった、異世界召喚に巻き込まれた口田を中心とする物語。 旧題 女神のチョンボで大変な事に 誤字脱字等を修正、一部内容の変更及び加筆を行っています。また一度完結しましたが、完結前のはしょり過ぎた部分を新たに加え、執筆中です! 前回の作品は一度消しましたが、読みたいという要望が多いので、おさらいも含め、再び投稿します。 前回530話あたりまでで完結させていますが、8月6日現在約570話になってます。毎日1話執筆予定で、当面続きます。 アルファポリスで公開しなかった部分までは一気に公開していく予定です。 新たな部分は時間の都合で8月末あたりから公開できそうです。

処理中です...