上 下
18 / 201

約束だからな

しおりを挟む






 少し本気を出してやるよ。

 俺は模擬剣を構える。

「お前、付与魔法を使えよ」

「いいのか?」

 ミミリアが疑問を投げ掛けてくる。

「おいおい、手加減しないんじゃなかったのか? 俺は手加減してやるから全力で来いと言っているんだ」

 俺は盛大に煽る。アレを使ってもらうために。

「いい度胸だな兄だからリリアは『勝てない』と思い込み信じているみたいだが魔力がない奴がリリアより強いはずがない」

「ミミリアの先祖、アレク・リル・ミリアードなら俺と戦うならまず範囲付与魔法を全力で張るだろうな」

 アレク・リル・ミリアードはアリアスの兄だ。

「アレク様は剣の勇者様と剣で渡り合う程だったと聞いている。そのアレク様がお前ごときに全力で付与魔法などせんわ!」

「は? なに言ってんの? アレクなんか普通に相手にならないってだってアレクより剣が使える奴なんて魔族にいくらでもいたんだからな」

「な、なに! アレク様を侮辱する気か!」

「侮辱するもなにも本当の事だし。笑えるな! アレクより強い奴なんか沢山いた時代だぞ」

「もういい! 私はアレク様の王家最強の剣術を習った言わばアレク流剣術だ。どれ程の強さか知らしめてやろう!」


 ミミリアは神級付与魔法の詠唱に入る。

『我が力を高める闇の鼓動を速めよ』

 術者の闇の魔力の効果を高める魔法。

 闇が空間を支配する。

『ブラックワールド』

 闇がバトルフィールドを包み、中からも外からも、互いに観ることが出来なくなる。

 懐かしいなこの状況。

 精霊化オーラルフォーゼにブラックワールド。

 俺がアレクと何度目だったか? 無理矢理戦わされた時の事を思い出す。

 あれは邪神を倒した後の事だったな。



 アレクに呼び出されて。

「ユウ! 私はお前が最強の剣士など認めない!」

 アレクは剣を構える。

「俺が広めた訳じゃないんだけど」

 アレクが発動した『ブラックワールド』の中に閉じ込められる。

「お前より私の剣が最強なのだ!」

「いつもそう言って負けてんじゃん」

「な、なに! お前に勝たねばアリアスはお前の所に行ってしまう」

「アリアスは関係ないって俺の事なんか気にしてもないだろ」

「お前! 気づけよ! いや、気づいてるんだろ! 好き好きオーラ出しまくってるのに鈍い奴だな!」

「お兄様勘違いだって気にすんなよ」

「お兄様とか言うなよ! なんで私が妹の恋を手伝わないといけないんだ! なんで妹はこんな鈍い奴の事を好きになったんだ! そこで私は気づいたのだ尊敬していた兄よりも強いお前がいるからだと、ならお前より強くなればいい」

 アレクは自信満々に言い放つ。

「は? それ間違って……」

「関係ない! 私は悪の化身剣の勇者から妹を救い出す」

 俺の言葉をアレクは遮る。

「お兄様、俺は魔王倒してクタクタなんだよ」

「私はお前の事が嫌いだ。もしお前が私に勝てればアリアスをくれてやるから好きにしろ」

「だからアリアスは俺の事なんか」

「いい加減気づけよ! 何回言わせるんだ」

「だがアリアスは元の世界に連れていけないぞ」

「そんなことは分かっているこの戦いは気持ちの問題だ」

 真剣な相手には真剣に。

『リミテッド・アビリティー』

 俺は金のオーラを纏う黒剣を何もない空間から取り出す。

 黒剣を構えて全力で相手をする。

 アレクのオーラルの能力はモノマネだ。指定した相手の剣を真似る。

 精霊化オーラルフォーゼの能力は触れた相手の魔力を削る。俺には効かない、魔力ないから。

「行くぞ!」

 俺はアレクに全力を叩き込む。

 キンッ!

 打ち合う度に遅れてくる音が透き通るように辺りにこだまする。音と共に地面も抉れ、打ち合う衝撃で周りの木が吹き飛ぶ。

 アレクは俺の剣を真似ている。

「得意のモノマネか? それじゃあいくら戦おうと同じだぞ、お前の魔力がなくなって終わりだ」

「そんなことは分かっている!」



 それから何度目かの剣劇の幕が降りる。

「言っただろ。アレクは俺には勝てない」

 アレクはボロボロになっている剣を地面に刺して片膝をつく。

「お前はこのあと帰るんだろ? 元の世界に」

「あぁこの世界も悪くわないが、ここは争いが多すぎる」

 アレクは静かに微笑む。

「そうか、今までお前の事を嫌いなんて言っていたが私はお前が好きでお前の剣も尊敬していたんだ」

「それぐらい見てれば分かるよ、お前はいつも俺の剣を真似るからな」

「アリアスの……いや、私の為にお前にはこの世界に居て欲しいと思ったのだ。私はずっと親友だと思っていたのだからな」

「何度も、何度も、俺に剣を向けては戦えと言ってきたしな。援助も凄くしてくれたよな」

「お前のやった尻拭いを出来なくなると思うと少し寂しい気持ちになる。その時はまたやってくれたな剣の勇者! なんて思っていたが」

 アレクの目から一筋のシズクが落ちる。

「本当に行くのか? ここにはアリアスもお前の仲間も私だっているんだぞ!」

「俺のここでの役目は終わってる」

「そうか」

「アレクは少しでも俺と渡り合う程の剣があったと後生に伝える事を許してやる。だがもし戻ってきた時には本当に伝えていたんだなと笑ってバカにしてやろう」

「それは楽しみだな」

 アレクは笑みを張り付けて立ち上がる。





 そしてユウが知らない所で計画は実行された。

 王城の召喚部屋。

 目の前で剣の勇者が反転召喚魔法を発動している。

 私は光に包まれているユウを見るとアリアスを後ろから勢いよく押す。

 するとアリアスが振り向き、誰の仕業かを確認する。

『お兄様!』

 私は笑顔でアリアスを見送る。

 ユウになら、いや、ユウ以外にアリアスは渡せん。

 あとな、勝負の時に言ってしまったしな、好きにしていいと。

『約束だからな』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?

シトラス=ライス
ファンタジー
 漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。 かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。 結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。 途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。 すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」  特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。  さすがは元勇者というべきか。 助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?  一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった…… *本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...