今日もひとりぼっちの能力者は憧れだった空奏の魔術師を殺す

くらげさん

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第27話 未来の記憶

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◇◇◇◇



「……て、き……て」

 僕の身体を誰かが優しく揺する。

 僕は悲鳴が上がりそうな程の激痛で目をカッと開く。

 緑山さんは目をずっと瞑って祈るように僕を揺する。

「起きてよ、日影くん!」

 薄らと目に涙を浮かべて緑山さんが僕を呼んでいた。

 揺するのやめて!

 声を出そうとすると肺に野太い針が何本も刺さるような痛みが走る。

 声が出せないので緑山さんに目で訴えかける。

 僕を揺する手は最初は優しかったのだが、段々と強く、強く! 痛い痛い痛い痛い!!!

 指一本と動かせない僕は数十分間? 緑山さんに目で必死に訴えかけながら痛みで失神寸前の所を痛みで覚醒させて、それを繰り返していた。

 何の拷問ですか?

 不意に緑山さんが目を開けると僕と目が合う。

 やっとこの拷問から解放され……。

 僕は声にならない悲鳴を上げると周りがスローモーションになり、じいちゃんの思い出が脳裏を過ぎった。

 これが走馬灯と言う奴だろうか。

 緑山さんが僕と目が会った瞬間に思いっきり僕に抱きついた。その結果、僕の身体はとうとう痛みの限界を迎えた。


 じいちゃん。

「おい日影! 今から銭湯行くぞ!」

「え? 今から?」

「お前に覗きの極意を教える」

 胸を張るじいちゃんに僕は思い切りジャンプして頭を叩く。

「エロジジイ! 今日はおばあちゃんの誕生日プレゼントを一緒に買い行く約束だよね」


「プレゼントとは気持ちがこもってればええんじゃ」


 じいちゃんはおばあちゃんの花壇を指さして。

「あれでも箱に詰めときゃええんや」

 このクソジジイ。

「ダメだよ。おばあちゃんが大事に育ててた花なんだから」


「ちょとぐらいええじゃろ。バレなければええんじゃ」


 僕達はおばあちゃんの誕生日プレゼントを花壇で見繕い、温泉に行った。



 スーッと流れる走馬灯の思い出がクソな思い出しかない。

 ハッと目を覚ますと緑山さんは僕から少し距離を取り、取り乱した自分を恥じてるようにしょんぼりしている。

「ごめんね、ずっと起きないから凄く心配で」

 少しイタズラしたくなる雰囲気にさせてくれる緑山さん。可愛い。

 許そう。僕は寛大だ。


 痛みで忘れそうになったが僕は寝てる最中に変な夢を見た。

 食われる夢だ。

 ムシャムシャ、ムシャムシャと。

 緑山さんは未来の記憶があると言っていたし、僕の未来ってどんなのだろうか。

 もし緑山さんが頭が痛い子じゃなく、本当の事を言っていたとしたら。

 夢がもし未来の出来事なら僕は食われて死ぬのか?

 夢の僕がもし、もしも未来の僕なら日向と緑山さんの下の名前を呟いていたり、緑山さんとの親密性は高そうだ。

 声が出せないので聞きようもないけど。

 今回の夢は僕自身がそこに居るように感情まで読み取れた。

 不思議な感覚だったな。


 僕に付き添ってくれる緑山さん。

 お姉さん先輩が優勝を決めれる権利があるなら僕のクラスは対抗戦で勝ったという事になる。

 なのにだ。

 なのに代表メンバーの僕を待っててくれる人は一人だけ。

 緑山さんが居ること事態は嬉しいが。

 そういう事じゃない。

「私だけ表彰式をこっそり抜け出して来たんだよ」

 僕の考えてる事をサラッと読んで疑問を解消してくれる緑山さん。

「さっき保健室の先生が治癒の才能を使ってくれて、時間経過で身体は治っていくから心配しないでいいよって言ってた」

 確かに痛みが引いてきた気がする。

 あっと声を出すと強烈な痛みは無くて、少し痛むぐらいだ。

 これなら話せそう。


「緑山さん、未来の僕は食べられて死ぬの?」

 緑山さんは大きな目をさらに見開く。

 何故それを知っているんだという顔だ。

「その夢の記憶を見せてもらえる?」

 緑山さんは僕の手を握る。

 緑山さんの手の柔らかな感触を堪能しつつ、僕の才能で緑山さんに夢の内容を共有する。

 これで確信が持てた。僕は未来の体験をして来たのだと。

 何かをやり遂げたらしい僕は最後に緑山さんとの思い出を作るのを楽しみにしてた。なのにあっさりと自分の命を手放した。

 今の僕よりもだいぶ世界に聞き分けが良く、潔いい死に様だ。


 緑山さんは懐かしむように僕の夢の内容を噛み締めていた。

 今の僕なら未来の僕の気持ちがわかる気がする。

 本当の事を言うかと考え込んでいるように見える緑山さんだが、一時待つと決心した様に顔つきが変わる。そして口を開いた。








「二人で行った温泉は楽しかった」




 だろうなと。


 急激な回復は体力を使うらしく安静にして眠りなさいと緑山さんに言われて、僕は大人しく眠る事にした。

 おやすみなさいと美少女から見送られながら僕は眠りについた。

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