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第12話 過去視
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病院の一室。
私は止まらない涙を拭う。
「助けて欲しくなった」
貴方がいないことが、この世の絶望になるなら。
「会いたくなかった」
私に希望をくれた貴方はもういない。
私以外に貴方を本当に知る人物は現れない。
どうせ『バレなかったらいいだろ』って、貴方は笑うんでしょうけど。
私は貴方が隣で笑ってくれるだけで、良かったのに。
空奏の魔術師に憧れて、世界に反逆した、ノーマルスキルの放界者。
たった一人の戦争の犠牲者。
今でも思い出す。
私を抱えて、世界を飛び回ったことを。
世界各地の空奏の魔術師が私の才能を狙う中でも、貴方は一人で立ち向かって。
『僕も世界を旅してみたかったから丁度良かった』
そんな理由で世界を敵に回す人でしたね。
貴方が倒れそうになる度に私は泣いてしまって、その度に無理をして。
最後には私を救って。
これも貴方が悪いんですからね。
『開発限解放』
才能のレベルを一気に上げると、全身から黒い霧のような物が溢れてくる。
私の才能はノーマルスキル『過去視』、過去の起きたことを予知する力。
そのままでは何の意味も持たない。
貴方がいなければ私が狙われる事も無かった。
きっと貴方がいなければ、この才能をレベル5の放界に至るまで極める事もなかったのでしょうからね。
今から大切な貴方の人生を壊してあげます。
ノーマルスキルからアブノーマルスキルに転換したことで、私は強大な力を手に入れた。
未来に起こった全ての可能性を放棄する力。
アブノーマルスキル『瞬間忘却』、過去の自分に記憶を送る才能。
私が空奏の魔術師に狙われることになった原因。貴方がいれば、この才能は使わなくて良かったんですよ?
私が見た全て、私が感じた全てを、過去の私に託します。
奪われた者を取り返す為に、私は才能を使う。
影が薄くなる程の存在感な私が、こんなに大きな才能を使っても、誰も気づかれないのでしょうね。
そう言えば、アブノーマルの才能を使うことは、貴方に禁止されていましたね。
貴方は怒るでしょうか。
どうか怒ってください。
明日には、私の隣で貴方が笑ってくれる世界になるように願いを込めて。
どうせ、過去の彼には。
「バレませんしね」
目を開けると、私の頬に涙が伝う。
私は全てを思い出して、すぐさま志望校を変えた。
あの人の人生の岐路に立ち会う為に。
未来の記憶がある私が高校に入るのは簡単だった。
あとはいつ彼が現れるのか。
彼がもし、見栄を張って私に違う高校を教えていたらと思ったけど、入学式に彼の顔を見て、その不安は消えた。
この高校は空奏の魔術師候補生を沢山出している有名校だからね。
そして彼が通学路に現れた。
彼が懐かしむように言っていた通学路。
彼はいつもとは違う道に切り返した所に大声を出す。
「待って!」
その瞬間に細い路地の向こうから、けたたましい音と何かがぶつかっただろう破裂音が響いた。
私は目をつむり、彼の手を掴む。
絶対に離さない。
「離して貰えますか?」
「貴方怪我してない?」
私は彼の声を聞いて安心すると、何処にも傷が無いか念入りに調べる。
「あっ! 大丈夫です」
これで未来は変えられたのかな。
「ごめん、この時代だとまだ会ってないんだった。馴れ馴れしかったよね」
未来の想いがあるからか手を離したくはないけど、今の私は彼に会うのが初めてで照れてしまう。顔、真っ赤になってないかな。
彼が私を知らない事はしょうがない。彼の未来をめちゃくちゃにする計画を進めなければならない。
「私、え~と青じゃなくて緑山日向。私は未来から貴方の学園生活をエンジョイさせるために来たの! 来たのは語弊で、未来から過去の自分に記憶を飛ばしたって言えば分かるかな」
戸惑う貴方は、私の知る貴方で。
また会えたんだと実感する。
「よろしくね。青空日影君」
学校に日影君を連れて行くまでは出来たけど。
ずっと喋れなかった。
話したい事は沢山ある。やっと会えたんだから。
でも私は既に限界で、想いが込み上がってくる。
変な子と思われないように手を離し、日影君を置いて下駄箱へと早足に向かった。
日影君に泣いてる顔なんか見せられないです。
貴方のやりたかった事は、今から私が叶えさせてあげるからね。
事故で入院して退学させられたって言ってたもんね。
私は今でも。
「貴方の事が大好きです」
いや、これからも。
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