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第3話 カンニング
しおりを挟む学校へ着くと流石に手を離してくれた緑山さんは、そそくさと僕から離れて下駄箱へ向かっていった。
頭の痛い子でも僕と一緒に居る所を見られたら、笑い話にもならないのだろうか。
そんなネガティブな事を考えてしまう。
心の中で馬鹿野郎と自分を殴り飛ばし、僕は目を覚ました。そうだ! お前は間違っていない、最初からボッチライフを満喫するために高校に来てるんだ。
ふぅ、入学式初日の決意がブレる所だった。
まさか入学式があった体育館から入学式が終わり、教室に帰る頃には既に、仲良しグループが出来てるなんて思いもよらないだろうが。
高校生のレベル高すぎ! 中学生からレベルアップしてなかった自分を恥じた。
いやまぁ中学生でも最後の三年生の時に、ギリギリで名前を覚えられる程度のレベルだったが……もう一度言おう! 高校生はレベルが高い!
僕は覚えている中学生の時はまだ、入学式から仲良しグループが出来るまで、一週間もの猶予があった。
そんな事を思いながら教室に入る。視界に映るのは仲良さそうに話すクラスメイト。
危ない、危ない。
仲良く喋ってる奴らを見て羨ましいなと思ってしまった。
何でコイツら僕に話を振らないんだ? 待て待て、挨拶ぐらいしようよ。
クラスメートだよ? 誰も目も合わせようとしないんだが。
所詮自分の世界を守る事に必死な奴らだ。
僕はそんな世界はない、無敵だ。
自分の席に座ると通学路の奇跡を思い出す。
エンジョイという単語が頭を過ぎる。
そうだな、部活とか? 却下、ハードルが高い。
得意な事でエンジョイしようか。
オセロが得意という事は無いが普通に好きだ。
でも歳が離れた親戚の子に負ける! 却下だ。
どうしようか。
テレビゲームなんてどうだろうか……普通に弱い。却下だ。
一度は却下した部活だが。
動かなくても本を読む部活なんてのもあるし。
いや、どうせなら漫画が読みたい。却下だ。
「ねぇ」
急に声をかけられて僕はビクッと肩を揺らす。
目の前には頭の痛い子がいた、緑山さんだ。
僕の前の席に居たのか全然気づかなかった。
でも待てよ? 可愛い子は沢山いた。
まぁ同じクラスに緑山さんが居ても、ずっと下を向いてた僕が気づかなくて当たり前か。
いや、言い訳すると、女子と目を合わせるだけでセクハラになるって聞いたし、これはこれでれっきとした自己防衛な訳で……。
心の中で言い訳しながら緑山さんの問いに答える。
「はい」
「今から日影君は人気者になると思う」
今朝から何言ってんだこの人。
ガラッと教室の扉が開き、教師が入ってくる。膨大な量のプリントを持ちながら。
「それでは抜き打ちで実力テストを開始します」
教師が放った言葉。
それは死刑宣告と同じ。
能力開発試験とも呼ばれるテストは、赤点を取ればすぐに退学させられるという。
馬鹿みたいな現代テスト。
高卒大卒とランク付けされるこの現代社会にとって、中卒、小卒は人権がない物と等しい。
皆は必死で勉強して高校に入ったんだろうが。
僕もそれは同じ。
このタイミングでテストを行うという事は、入学したての気の緩んだ僕たちをふるいにかけるという事だろう。
甘く見て勉強してない輩もいるに違いない。
机に突っ伏して懺悔を口ずさむ者もいるくらいだ。
そして高校生で羽目を外した罰が降りる。
周りを見渡せばほぼ全員が上の空状態だ。
お前ら勉強してないんかい! と心の中で突っ込むが、僕も万全とは言えない。
人気者になる、か。
未来から来たという頭が痛い子の言葉を鵜呑みにしようと思った。
ふぅ、と深呼吸して、僕は大きな声で宣言する。
「先生! 今から僕たちはカンニングをします!」
教師の驚く顔を見ながら僕はカンニングの手筈を整える。
カンニング? バレなければいい。
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