メスガキに毎日魔法を教えていたら賢者と呼ばれるようになりまして

くらげさん

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「あの下民が『ブラストレイン』を凌いでみせたのか!?」

 俺の後ろからリッシュの声が聞こえてきた。

 リッシュにはあの巨大な火の玉の魔法が『ブラストレイン』に見えるのか。

 俺が消した魔法は『ブラストレイン』ではない。でもリッシュが見間違えるのも分かる。空の端から端まで埋めつくほどに展開されている魔法を見たら誰だって範囲魔法だと思うからだ。

 ブラストレインは火属性の上級範囲魔法。だが空にある全ての魔法が単体魔法で、範囲魔法じゃない。


 だから規格外なんだ。


「お前は空にある魔法に繋がりを感じているのか?」
「なに……」

 魔法と魔法に繋がりがあればそれは範囲魔法。形や、魔力量が全く一緒になるんだ。逆に繋がりなければ単体魔法だと分かる。

 範囲魔法は繋がっているから操りやすい。一つの魔法として、複数の魔法を操れるからな。

 魔導書に書いてある『ブラストレイン』の説明書きだと『火球で空を紅蓮に染め上げる』とある。

 リッシュが学院でどれぐらいの成績かは分からないが、優等生だとしても初見で見破るのは流石に無理だ。上級魔法なんてそんなにお目にかかれるものじゃないしな。

 違う点はいくつかある。分かりやすい点を一つ上げるとするなら、ブラストレインは魔力をどれだけ注いでも火の玉の数が増えるだけで、火の玉が太陽みたいに巨大化はしない。

「はッ……まさか!? この空を覆い尽くす魔法の全てが『炎熱の女神クリムゾン・アグルメトリ』だと言うのか!」
「そうだ。答えに行きついたな」
「そんな……」

 リッシュはそこいらの貴族と違って、ちゃんと魔法の勉強をしているみたいだ。世襲したほとんど貴族に同じ問いを投げかけてみても、この答えには行きつかないだろう。さすが兄弟だな、そういう所はベトナに似ている。

 見た目は膨大な魔力を注がれて放たれた『ブラストレイン』そのものだが、実際はそれより強力な単体殲滅魔法『炎熱の女神クリムゾン・アグルメトリ

 アグルメトリという火の女神の名を冠する魔法。上級魔法の最高位に位置する魔法だ。

 それが空を覆い尽くすまで展開されてるのは、恐怖でしかない。

「それを『ファイアーボール』で、嘘だろ」
「言ったでしょ、おじさんは本物の魔法使いだって」

 後ろをチラッと見ると、リッシュが俺を化け物を見るような目で見ていた。

 そして絶句しているリッシュの横で輝夜が胸を張っている。


 再度前に視線を持っていく。
 
 巨大な火の玉の流星群は拠点に降り注ぎ、連続する爆風と熱がアークグルトの拠点を襲う。

 一つの上級魔法を消したからといって、脅威は去ったわけではない。

 身体の中の魔力を加速させることによって、俺と輝夜、そしてリッシュの周りには風の膜ができている。

 爆風と熱は俺たちの元へは来ない。だが、風の膜の外は違う。

 視界にあったテントは一瞬で燃え、置き物は吹き飛び、アークグルトの兵士は虫けらのように散っていく。

 俺も拠点の全員を助けるほどの余裕は無い。もう魔力はテリトリーを広げるために使ってしまった。

 逃げるための魔力は残していない。言うなれば俺はこの拠点から一歩でも外に出ると、魔力が切れて動けなくなるということだ。

 どっちみちここでワルチャードを迎え撃つしか、俺に生存の道はない。


 一瞬、無数に降り注いでいた巨大な火の玉がピタッと止まる。

 だが、まぶたを瞬く間にすぐさま巨大な火の玉は動き出す。

 さっきまで無差別に降り注いでいた巨大な火の玉は、俺に狙いを定めて落ち始めた。


 相手も俺が魔法を消したことに気づいたんだろう。

 急に進行方向を変えられたことで、俺の元まで行き着く巨大な火の玉は見るからに三個。

 些細なことで魔法使いとしての力量が分かる。魔法のコントロールがおざなりだ。無数に展開させている魔法を同時に静止させたのは、意識的な魔法の切り離しが出来ていない証拠。全く単体魔法の利点を活かしていない。

 これなら範囲魔法と変わらない。最初から『ブラストレイン』を撃っていた方がマシまである。

 こんな規格外な魔法を操っていながら、相当な能力があるのに惜しい。


 相手は見せびらかすように上級魔法を使っていたんだ。だから魔法を吸収されることは考えていなかった。

 まぁ普通考えない。俺が相手じゃなければな。

 俺は無数に広がる魔法よりも、その膨大な魔力を一つの魔法として使われる方が厄介だった。



 俺を目掛けてくる三個の巨大な火の玉は合わさり、一つの巨大な火の玉として俺の真上に降ってくる。

 最初にこれぐらいの魔法を使われていたら……。

 いや、三個ぐらいじゃ変わらない。


 ファイアーボールを巨大な火の玉に合わせて放る。

 すると降ってきた巨大な火の玉は、パッ! と呆気なく消滅した。


 周りの爆発音が止み、土煙が周囲の視界を閉ざす。


 静寂が支配し、緊張感が高まる。

 まだ魔力の気配はない。

 耳を澄ますと静寂の中に、土煙が舞うパラパラとした音が聞こえてくる。

 この状況で分かったことは一つだけ、この拠点の生存者は俺と輝夜とリッシュだけだということ。

 土煙が晴れると、空に無数に点在していた巨大な火の玉は全て無くなっていた。そして周りを見渡すと、拠点の存在は消え、見渡す限りの地面が抉られていた。

 拠点に攻撃を仕掛けてきたワルチャードの姿がどこにも見えない。テリトリーにも反応がない。

 どこにいるんだ?


「やっと会えましたね、輝夜」
「ッ!」

 俺のすぐ横で、鈴が弾んだような声が聞こえてきた。








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