メスガキに毎日魔法を教えていたら賢者と呼ばれるようになりまして

くらげさん

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 俺は王弟殿下ことリッシュを無視して、テーブルに座る。

「沢山食べろよ」
「うん!」

 輝夜も俺の横の椅子に座り、豪華な料理を食べ始めた。

「おい僕を無視するな! 輝夜はナイフとフォークを置け! さっさと戦場に行くぞ!!!」

 向かい合って座っているリッシュのまくし立てる言い方にイラッとくる。

「私たちは朝飯も食べていないんですよ。話は飯の後ででもいいでしょう」
「下民のお前には聞いていない、黙っておけ!」

 自分勝手なリッシュの物言いを見かねて、俺は懐から聖王の手紙を取りだし、リッシュに投げる。

「ん? これはなんだ」
「見ればわかりますよ」
「これはお兄様の……」

 リッシュは聖王の印を見て、怪訝な顔をした。すぐに便箋を開け、中の手紙を確認する。

 手紙には俺宛に『学院の戦争実習に付いていけ』と、『何がなんでも弟を守れ』という内容の命令が書かれてある。
 そして手紙の最後には『リッシュに伝える。アイクの命令には逆らうな、遵守しろ』と、リッシュに宛てた命令が付け加えられていた。

「ッ! なんでお兄様が!」
「わかりましたか?」

 俺はナイフとフォークを手に取り、目の前のステーキを食べ始めた。

「この手紙はお兄様の名を使った偽物だ! その証拠に、お兄様が下民のお前なんかを僕の護衛につけるはずないだろ!」

 手紙を盛大に握りつぶし、大声で叫ぶリッシュに、知らねぇよ。と思う。

 その証拠とはなんだ。リッシュが言う証拠なんてどこにもない。証拠は兄弟の関係値か? コイツは何を言っているんだ?

「殿下、目を凝らしても見えないものを証拠にされても困ります。聖王が書いた手紙を偽物と断言する。その行いがどういう結果をもたらすのか。弟の貴方が分からないはずないですよね」

 聖王が書いた物を偽物と断言したら、一般人は即殺される。聖王の弟というだけで罪がどれぐらい軽減されるかは分からないが、それなりの罪を受けるだろう。

 聖王の手紙が本物かどうか調べる方法なら沢山ある。一番簡単に本物かどうかを調べる方法は聖王の印に魔力を通す。これだけで印からは虹色の輝きが小さな炎のように現れる。
 王族が印に使うワックスにはそういう効果がある。

 このワックスを王族以外が所持していても、使用しても一族もろとも殺される。売買しても、一連の関係者は使用者と同罪だ。これは禁忌を犯すよりも罪が重たい。

 まず入手が困難だがな。


「クソッ! 早く食え」

 リッシュは握っていた手紙を俺に投げつけ、視線も逸らされた。

「殿下も食べていた方がいいですよ」
「僕はいい」

 スンっとひねくれたような声音が聞こえた。思い通りに行かないことばっかりでご立腹な様子だ。

「いつでも力が出せるようにしててくださいね。もうそろそろこの拠点は戦場になりますから」
「ハッ、何を言っている。いくら戦況が悪くても、ワルチャードがこの拠点に来るまて二日はかかると聞いたぞ」

 俺はリッシュに小馬鹿にされつつ、くしゃくしゃになった手紙を懐にしまう。

「下民、今からそんなビビっててどうしたんだ? 帰りたければ帰るがいい。お兄様にはちゃんと『下民は勇敢な後ろ姿を見えてくれました』と、逃げていく背中を立派だと称えておくから心配しないでいいぞ。正直に言って邪魔なんだよ。僕の足を引っ張る未来しか見えない」

 何が可笑しいのかリッシュはクククと貴族特有の人を馬鹿にした笑みを見せる。
 飯を食う環境にしては最悪だが、輝夜を見ると一心不乱に料理を食べていた。

 俺を馬鹿にされることが嫌いな輝夜だが、言い返したいのを我慢して、これから始まる戦いに向けての力をつけている。
 今はリッシュに怒るよりも、俺の足手まといにならないことの方が重要だと思っているのだろう。

 そして俺を輝夜の左手に俺の右手を添える。

 輝夜、リッシュに向けてナイフを投げてはダメだ。

「じゃあ今の戦況は、その想定していた悪い戦況よりも、悪いんですね」

 リッシュに戦況を教えたのはどこのどいつだ。ソイツは戦況すら読めていない。いや、これは戦況を読む以前の問題だ。

 こんなにもすぐ近くに……。

「リッシュ様!」

 バサッとテントの扉が勢い良く開く。一人の兵士が慌てた様子で入ってきた。

「なんだッ!」
「リッシュ様! 戦争実習が取り消されました。今から聖教国アークグルトにお戻りになってください!」
「は? なんで?」

 急なことにリッシュも状況が整理できていない。外からプオーンとサイレンが鳴り響く。


 サイレンが止まると、兵士はリッシュの腕を強引に引いて、テントの外に連れて行こうとした。

「痛てぇよ!」
「さっ、早く!」

 兵士も慌てている。ここは俺が口を出した方が、早く落ち着くだろうな。

「俺はアイク・エル・ファランド。リッシュ様の護衛を聖王から任されている。ここは手が足りているので、お前は持ち場に戻れ」
「ハッ!」

 兵士はリッシュの腕を離し、テントから出て行った。

「助かった。それにしても下民、貴族の振りが上手いな」
「お褒めに預かり光栄です」

 元貴族なのでとは言えないがな。

「それにしても今の慌てようはなんだったんだ?」
「この拠点が敵からの攻撃を受けたのでしょう」
「なに!? 早く戦場に行かねば、手柄を奪われてしまう!」

 リッシュは椅子から立ち上がり、すぐにテントの入口まで走っていった。

 おもりがここまで大変とは……飯を食う時間すらもない。

 手柄を奪われるって? リッシュの実力で手柄を上げられると本気で思っているのは年相応だな。

「待ってください」
「なんだ?」

 リッシュも俺の話を聞く余裕はあるらしい。聖王の命令を律儀に守っているのか? まぁいい。

「輝夜、腹ごしらえは済んだか」
「うん、大丈夫。いつでもいけるよ」

 輝夜も「準備満タン」と言ったとこで。


「俺たちも行きます」

 と、リッシュに待ってもらっていた返事を返した。


 今日はゆっくりしようと思ったのに、とんだ災難だ。










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