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殲滅魔法
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◇◇◇◇
俺と輝夜は向かい合った形で馬車に乗っている。聖王国の門の門番に、通行証を見せたら豪華な馬車に乗せられた。
通行証は聖王の手紙と一緒に便箋に入っていた。
聖王の手紙を持ってきた衛兵から『二週間以内に聖王国を出ろ』とお達しがあった。
聖王の命令としては期限が緩い。普通なら期限なんて無いし、一日だって猶予は無い。聖王に命令されたら即行動だ。
輝夜の手紙にも王弟殿下の通行証が入っていたが、その通行証は期限付きで三日で使えなくなる代物だった。
三日以内に聖王国から出ろ! と、言っているのと変わらない。無視すれば王族の尊厳をないがしろにされたと、不敬罪が適応されるんじゃないか?
王弟殿下も即日じゃないだけ、輝夜に配慮したことは伺えた。
輝夜に負けたのが相当効いたらしい。あの負けイベントがなかったら、『今すぐに聖王国を出ろ!』と言われていても可笑しくなかった。
少しは成長したと思いたい。わがままな所は今だに健在だが。
あぁでも、あの負けイベントがなければ、輝夜を戦争に連れていかなくても良かったと考えれば、マイナスが勝つな。余計なことをしやがってと思わずにはいられない。
馬車に揺られること数十分。なんの説明もされていない俺は痺れを切らして馬車の箱を叩く。
すると「はい」と、箱の外側から元気の良い声がして、俺の後ろ側に設置されていた通気口が開いた。
分厚い本がギリギリ入るかなと思えるぐらいの通気口から外を覗くと、馬を操っている運転手、御者が見える。
俺は御者に、どこに向かっているのかを聞けば、この馬車は北に向かって進んでいるらしい。
どこに向かっているか分かればいい。御者に「ありがとう」と感謝を言い、通気口を閉めた。
聖教国アークグルトから北に進んでいるということは、目的地はワルチャード帝国か。
馬車の窓にはカーテンがあり、めくって景色を眺める。木、木、木が見える。遠目で馬車の行く先を見ると、些細な違いはあるが、同じような景色が続いている。
北へは何度か足を運んだことがあった。でも十数年も前だ。景色が変わっていても、気づかないほどに時間が経ってしまった。
この馬車の速度は、人が走るよりも速いぐらいだ。このぐらいの速度なら、ワルチャード帝国の戦争地帯まで一週間はかかる。
「輝夜、ジュース飲むか?」
「うん♡」
輝夜の横にある冷凍ボックスからオレンジジュースを取り出して、輝夜に渡す。
「ありがとう♡」
輝夜は瓶のフタを開けて、足をパタパタさせながら、オレンジジュースを味わっている。
この馬車はソファーもふかふかで、空調も良い、振動も全く無い、しかも広い。最新鋭の馬車だということはわかる。
行きだけで、ここまで優遇されているなら、宿も豪華な所に泊まれそうだ。
俺の役目は『王弟殿下のおもり』戦争実習のサポートだ。急ぐ旅でもない。一週間は旅行気分でいいだろう。
俺は昔、シフォンと二人でワルチャード帝国の戦線を壊滅させたことがある。あの時は、もう少しで戦争終結の条約も結べたが、貴族連中があとは学生の領分じゃないと、美味しい所だけ持っていったんだ。
ところがだ、今だにアークグルトはワルチャード帝国と戦争をやっている。あそこまでお膳立てして、貴族連中は条約も結べなかったとみえる。
俺が引き上げる時にワルチャードは、国の周辺にうっすい戦線を構築していたが、美味しい所だけを掠めていった貴族連中は、その戦線を破れなかったんだろう。
馬車が急にガタンガタンと大きく揺れた。
「きゃっ!」
輝夜も驚いて声が出ている。
俺も初めての大きな揺れに驚いた。
「大きな石にでも乗り上げたんだろう」と言って、輝夜を安心させた。
俺の横には、小さな机があり、その机の上には少しの厚さがある紙の束が置かれてあった。
この紙には、ワルチャードとアークグルトの戦線の動きが記されている。俺は紙の束を手に持って、一枚一枚確認する。
戦線の動きといっても、ここ一週間の一日ごとの簡単な兵の動きだ。
これを見る限り、ここ最近のワルチャードは勢いが凄い。アークグルトの戦線が崩壊しているじゃないだろうかと疑うほどに、いや、これは崩壊しているんだろう。
ワルチャード側の戦線の一部が盛り上がっている。普通はここまで一部の部隊が盛り上がっていたら自分たちの戦線と別れて、敵の陣地に取り残される。
敵の陣地に取り残されたら、補給が受けられなくなって、すぐに挟み込まれて殺される。
だがだ、この突飛している部隊が相当に強いのか、戦線が盛り上がった分、自分たちの戦線も一緒に上がってきている。
アークグルトはワルチャードの勢いを抑えるため、日に日に兵を一部に集めているが、それでもワルチャードの突飛している部隊は止まらないらしい。
三日前から勇者も投入したみたいだが、突飛している部隊の移動速度が変わっていないのを見るに、勇者すら時間稼ぎにもなっていないということだ。
この突飛している相手の部隊には、賢者が何人もいると思っていいな。賢者が相手かぁ。しかも勇者が相手にならないほどの使い手だ。足でまといを連れて、賢者と戦うなんて冗談じゃない。
俺が賢者集団とかち合えば、王弟殿下と輝夜を生かして帰すだけでも骨が折れそうだぞ。
ワルチャードはこんな隠し玉を持っていたのか。なんで今まで使わなかったんだ?
戦争の戦況が傾くほどの力を温存する理由が分からない。
簡単に考えるなら、十数年地道に賢者を育てていたか、アークグルトの三つのユニーク魔法のように、ワルチャードもユニーク魔法を手にしたかだ。
どっちもありそうだ。だが前者の案では、十数年で賢者を育て上げたからといって、勇者すら相手にならないほどの賢者が出来上がるかと言われると、不可能に近いだろう。
輝夜ほどの天才が数十年前にワルチャードに居たら可能だが、そんなに都合よく天才が現れるとも限らない。
輝夜ほどの天才じゃなくても、賢者が何十人もいたらこの勢いにも納得するが、戦線の突飛している部隊を見るに、せいぜい多くて五、六人で動いている。少数部隊みたいだ。
後者の案、ユニーク魔法を手に入れた可能性。この案の方が前者の案よりも可能性がある。
ユニーク魔法は、ユニーク魔法と言われる前は、殲滅魔法と言われていたらしい。今から五百年前ぐらいの昔の話だ。
殲滅魔法からユニーク魔法と名が変わるほどの魔法の革命が起こった。その革命を起こしたのがワルチャード帝国。
なぜならワルチャードは、ユニーク魔法として初めて、『勇者召喚』を成功させた国だからだ。
昔、殲滅魔法は、自国の防衛にしか使われてなかった。
国に溜め込んだ膨大な魔力を、人が操れるはずがない。と、世界の誰もが思っていた時の革命だ。
その人が操れない魔力を、人が操れる魔力にした賢者の名は、『ゴーディアス・ルクレール』俺が尊敬している賢者の一人。
学院に在籍している時に、夢幻図書館で、ゴーディアス・ルクレールの魔術書を読みまくっていた。
アークグルトの『精霊の鳥籠』も今ではユニーク魔法と言われているが、殲滅魔法の応用として作られている。
しかもワルチャードの『勇者召喚』は、アークグルトの『赤月召喚』とは違い、赤月の日という制限が無いと聞く。
ワルチャードの勇者召喚は、完璧にアークグルトの上位互換だ。
ワルチャードは、ユニーク魔法を開発する技術なら、どの国よりも発展しているだろう。
まぁ他の国から援軍を呼んだ可能性もある。ワルチャードと仲が良い国は思いつかないが、ユニーク魔法の技術をアークグルトに取られたくない国が協力してる可能性はある。
こんなにポコポコと思考を巡らせているが、俺がこの賢者集団にかち合うことは絶対に無い。
この戦争を任されている貴族も馬鹿じゃない。王弟殿下を最前線には送らないはずだ。
俺の戦争実習の時も戦線の端っこからスタートだった。賢者集団が幅を利かしている戦場で、戦線を壊滅させに動くような馬鹿はいない。
「ん? おじさん♡ 私の顔に何か付いてる? それとも……見惚れちゃった♡」
いないよな。いや、いないと思いたい。
でも輝夜を呼んで、王弟殿下が何もしないとは思えなかった。
俺と輝夜は向かい合った形で馬車に乗っている。聖王国の門の門番に、通行証を見せたら豪華な馬車に乗せられた。
通行証は聖王の手紙と一緒に便箋に入っていた。
聖王の手紙を持ってきた衛兵から『二週間以内に聖王国を出ろ』とお達しがあった。
聖王の命令としては期限が緩い。普通なら期限なんて無いし、一日だって猶予は無い。聖王に命令されたら即行動だ。
輝夜の手紙にも王弟殿下の通行証が入っていたが、その通行証は期限付きで三日で使えなくなる代物だった。
三日以内に聖王国から出ろ! と、言っているのと変わらない。無視すれば王族の尊厳をないがしろにされたと、不敬罪が適応されるんじゃないか?
王弟殿下も即日じゃないだけ、輝夜に配慮したことは伺えた。
輝夜に負けたのが相当効いたらしい。あの負けイベントがなかったら、『今すぐに聖王国を出ろ!』と言われていても可笑しくなかった。
少しは成長したと思いたい。わがままな所は今だに健在だが。
あぁでも、あの負けイベントがなければ、輝夜を戦争に連れていかなくても良かったと考えれば、マイナスが勝つな。余計なことをしやがってと思わずにはいられない。
馬車に揺られること数十分。なんの説明もされていない俺は痺れを切らして馬車の箱を叩く。
すると「はい」と、箱の外側から元気の良い声がして、俺の後ろ側に設置されていた通気口が開いた。
分厚い本がギリギリ入るかなと思えるぐらいの通気口から外を覗くと、馬を操っている運転手、御者が見える。
俺は御者に、どこに向かっているのかを聞けば、この馬車は北に向かって進んでいるらしい。
どこに向かっているか分かればいい。御者に「ありがとう」と感謝を言い、通気口を閉めた。
聖教国アークグルトから北に進んでいるということは、目的地はワルチャード帝国か。
馬車の窓にはカーテンがあり、めくって景色を眺める。木、木、木が見える。遠目で馬車の行く先を見ると、些細な違いはあるが、同じような景色が続いている。
北へは何度か足を運んだことがあった。でも十数年も前だ。景色が変わっていても、気づかないほどに時間が経ってしまった。
この馬車の速度は、人が走るよりも速いぐらいだ。このぐらいの速度なら、ワルチャード帝国の戦争地帯まで一週間はかかる。
「輝夜、ジュース飲むか?」
「うん♡」
輝夜の横にある冷凍ボックスからオレンジジュースを取り出して、輝夜に渡す。
「ありがとう♡」
輝夜は瓶のフタを開けて、足をパタパタさせながら、オレンジジュースを味わっている。
この馬車はソファーもふかふかで、空調も良い、振動も全く無い、しかも広い。最新鋭の馬車だということはわかる。
行きだけで、ここまで優遇されているなら、宿も豪華な所に泊まれそうだ。
俺の役目は『王弟殿下のおもり』戦争実習のサポートだ。急ぐ旅でもない。一週間は旅行気分でいいだろう。
俺は昔、シフォンと二人でワルチャード帝国の戦線を壊滅させたことがある。あの時は、もう少しで戦争終結の条約も結べたが、貴族連中があとは学生の領分じゃないと、美味しい所だけ持っていったんだ。
ところがだ、今だにアークグルトはワルチャード帝国と戦争をやっている。あそこまでお膳立てして、貴族連中は条約も結べなかったとみえる。
俺が引き上げる時にワルチャードは、国の周辺にうっすい戦線を構築していたが、美味しい所だけを掠めていった貴族連中は、その戦線を破れなかったんだろう。
馬車が急にガタンガタンと大きく揺れた。
「きゃっ!」
輝夜も驚いて声が出ている。
俺も初めての大きな揺れに驚いた。
「大きな石にでも乗り上げたんだろう」と言って、輝夜を安心させた。
俺の横には、小さな机があり、その机の上には少しの厚さがある紙の束が置かれてあった。
この紙には、ワルチャードとアークグルトの戦線の動きが記されている。俺は紙の束を手に持って、一枚一枚確認する。
戦線の動きといっても、ここ一週間の一日ごとの簡単な兵の動きだ。
これを見る限り、ここ最近のワルチャードは勢いが凄い。アークグルトの戦線が崩壊しているじゃないだろうかと疑うほどに、いや、これは崩壊しているんだろう。
ワルチャード側の戦線の一部が盛り上がっている。普通はここまで一部の部隊が盛り上がっていたら自分たちの戦線と別れて、敵の陣地に取り残される。
敵の陣地に取り残されたら、補給が受けられなくなって、すぐに挟み込まれて殺される。
だがだ、この突飛している部隊が相当に強いのか、戦線が盛り上がった分、自分たちの戦線も一緒に上がってきている。
アークグルトはワルチャードの勢いを抑えるため、日に日に兵を一部に集めているが、それでもワルチャードの突飛している部隊は止まらないらしい。
三日前から勇者も投入したみたいだが、突飛している部隊の移動速度が変わっていないのを見るに、勇者すら時間稼ぎにもなっていないということだ。
この突飛している相手の部隊には、賢者が何人もいると思っていいな。賢者が相手かぁ。しかも勇者が相手にならないほどの使い手だ。足でまといを連れて、賢者と戦うなんて冗談じゃない。
俺が賢者集団とかち合えば、王弟殿下と輝夜を生かして帰すだけでも骨が折れそうだぞ。
ワルチャードはこんな隠し玉を持っていたのか。なんで今まで使わなかったんだ?
戦争の戦況が傾くほどの力を温存する理由が分からない。
簡単に考えるなら、十数年地道に賢者を育てていたか、アークグルトの三つのユニーク魔法のように、ワルチャードもユニーク魔法を手にしたかだ。
どっちもありそうだ。だが前者の案では、十数年で賢者を育て上げたからといって、勇者すら相手にならないほどの賢者が出来上がるかと言われると、不可能に近いだろう。
輝夜ほどの天才が数十年前にワルチャードに居たら可能だが、そんなに都合よく天才が現れるとも限らない。
輝夜ほどの天才じゃなくても、賢者が何十人もいたらこの勢いにも納得するが、戦線の突飛している部隊を見るに、せいぜい多くて五、六人で動いている。少数部隊みたいだ。
後者の案、ユニーク魔法を手に入れた可能性。この案の方が前者の案よりも可能性がある。
ユニーク魔法は、ユニーク魔法と言われる前は、殲滅魔法と言われていたらしい。今から五百年前ぐらいの昔の話だ。
殲滅魔法からユニーク魔法と名が変わるほどの魔法の革命が起こった。その革命を起こしたのがワルチャード帝国。
なぜならワルチャードは、ユニーク魔法として初めて、『勇者召喚』を成功させた国だからだ。
昔、殲滅魔法は、自国の防衛にしか使われてなかった。
国に溜め込んだ膨大な魔力を、人が操れるはずがない。と、世界の誰もが思っていた時の革命だ。
その人が操れない魔力を、人が操れる魔力にした賢者の名は、『ゴーディアス・ルクレール』俺が尊敬している賢者の一人。
学院に在籍している時に、夢幻図書館で、ゴーディアス・ルクレールの魔術書を読みまくっていた。
アークグルトの『精霊の鳥籠』も今ではユニーク魔法と言われているが、殲滅魔法の応用として作られている。
しかもワルチャードの『勇者召喚』は、アークグルトの『赤月召喚』とは違い、赤月の日という制限が無いと聞く。
ワルチャードの勇者召喚は、完璧にアークグルトの上位互換だ。
ワルチャードは、ユニーク魔法を開発する技術なら、どの国よりも発展しているだろう。
まぁ他の国から援軍を呼んだ可能性もある。ワルチャードと仲が良い国は思いつかないが、ユニーク魔法の技術をアークグルトに取られたくない国が協力してる可能性はある。
こんなにポコポコと思考を巡らせているが、俺がこの賢者集団にかち合うことは絶対に無い。
この戦争を任されている貴族も馬鹿じゃない。王弟殿下を最前線には送らないはずだ。
俺の戦争実習の時も戦線の端っこからスタートだった。賢者集団が幅を利かしている戦場で、戦線を壊滅させに動くような馬鹿はいない。
「ん? おじさん♡ 私の顔に何か付いてる? それとも……見惚れちゃった♡」
いないよな。いや、いないと思いたい。
でも輝夜を呼んで、王弟殿下が何もしないとは思えなかった。
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