メスガキに毎日魔法を教えていたら賢者と呼ばれるようになりまして

くらげさん

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お礼

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 輝夜の洗脳魔法を解除してから、何故か三日間も輝夜に口を聞いて貰えなかった。
 それでも輝夜はいつも通り公園には来て、俺の教えた魔法を練習していた。

 四日目にチョコレートを買った。大人にも子供にも人気だというお菓子を貢いで、やっと輝夜の機嫌が回復した。

 チョコレートは、手のひらぐらいの茶色の小さな木の板のような物だった。少し固くて、甘い匂いがしたから甘いお菓子なんだろう。銀貨二枚だったから、高級品だ。

 王弟殿下のレクリエーションから一週間が経っても、俺の生活は変わらない。不敬罪で衛兵が迎えに来ることもなかった。むやみに残業なんかしなければ、学院の生徒ととも会わないしな。いつも通りの日常。





 と、思っていたが、用務室の机に置かれたどでかい給料袋が、いつも通りの日常を破壊した。

「金貨五十枚って何かの冗談ですか?」
「知らん、私は渡したからな」

 学院の経理部の人は、そう言うと、用務室から出て、バタンと扉を閉めた。

 いつもなら俺の給料袋をこんな朝早い時間には持ってこない。俺の給料なんて後回し後回しにされて、昼ぐらい給料袋を持ってくることがほとんどだった。

 それが俺の仕事が終わった直後だなんて、早すぎる。

 輝夜には『明日は給料日で遅くなる』と言っておいたが、その必要もなかったな。


 まず整理しよう。金貨、銀貨、銅貨には、大中小とある。『大銀貨、中銀貨、銀貨』だ。銀貨が十枚で中銀貨一枚になって、中銀貨が十枚で大銀貨一枚になる。金貨も銅貨も同じように数える。

 金貨が一番価値が高くて、銅貨、銀貨、金貨の順に価値が高くなる。

 俺の給料は月に中銀貨二十枚だったはずだ。大銀貨だったら二枚分の給料。これでも身分無しの用務員としては破格の給料だった。

 一ヶ月に中銀貨が八枚もあれば、普通の暮らしができる。普通とは変な贅沢をしなければという意味だ。独り身だったら少しの贅沢ができる額。

 普通の仕事だって身分無しでは一ヶ月休みなく働いても、中銀貨一枚稼げるかどうかだ。身分無しはほとんどが日雇いで、雇ってくれるところも少ないからな。

 身分が分かっていて、普通の仕事をしていても中銀貨八枚も稼げれば良い方で、俺はその二倍と少し貰っているから、破格の給料だと分かるだろう。これもシフォンの存在が大きいんだが。

 それが金貨五十枚!

 俺、なにもしてないぞ。

 昇給したとしても金貨五十枚はやりすぎだ。中金貨五枚だぞ、中銀貨なら五千枚だ。シフォンよりは少ないだろうが、学院の教師よりも多いんじゃないか? 

 まぁ考えても結果は変わらん。額が間違ってたとしても俺が知るところじゃないし、貰えるもんは貰っておこう。

 給料袋を持って、用務室を出ると公園に向かう。




 今日は遅くなると言ってたのに、俺よりも先に公園に来てる輝夜。

「遅いよおじさん♡」
「遅くなるって言ったろ」
「えぇ~そうだっけ?♡」

 俺の前で輝夜は可愛らしく小首をかしげる。

 公園に寄る前に、給料を預け屋に預けてきた。いつもは中銀貨二枚を預けるんだが、俺が金貨五十枚持ってきた時には受付のお姉さんが驚いていた。

 俺はいつも通り中銀貨を十八枚持って、預け屋を出た。

 給料日にやることといえば!


「おじさん! こんなに、た、食べていいの!?」
「あぁどんと食べろ。輝夜に食べさせるために来たんだからな」

 豪遊だよな!

 今、輝夜を連れて、人気があるという飯屋に来ている。預け屋から仕入れた情報だ。美味い店に違いない。

 小さなテーブルには、所狭しと大盛りの料理が並べられていた。

 輝夜に食べろと言うと、ガツガツと食べ、大盛りだった料理がすぐに綺麗に無くなっていく。

 俺は、俺の目の前にある鳥を丸ごと焼いたであろうチキンをナイフで切り取って食べる。肉々しいガツンとくる味付けで淡白なチキンを引き立てている。
 鼻を抜けるのは、肉の香ばしい肉汁の匂いと、スッキリとする香辛料の匂い。凄く美味しい。

 チキンをツマミに、俺は蜂蜜の匂いが濃い、甘い酒を飲みまくった。

 あっという間に食べ終わり、次だ。


 料理屋を出て、まず行くところは肉屋。

「お肉買うの?」
「まぁそんなところだ」

 俺は行列が出来ている肉屋の行列を無視して、肉が売ってあるガラスケースのカウンターの上に中銀貨を三枚置く。

 仏頂面の肉屋の店主はそれに気づいて、中銀貨を受け取った。

「じゃ頼んだぞ」
「まいど」

 商売の邪魔にならないようにすぐに去る。


「おじさん、お肉買わないのにどうしてお金を渡したの?」
「あの男、見たことないか?」

 流し目で肉屋の店主を見て、輝夜の視線を誘導する。

「う~ん、あっ! 教会に来てる人だ」

 輝夜も店主を見て、ピンと来たようだ。

「あの肉屋は、肉の余り物を教会に寄贈してる物好きだ」
「寄贈ってなに?」
「お前の食べてる肉を無料でくれてる人ってことだ」
「えっ!? それなら私もお礼言いに行かなきゃだよね!」

 礼を言いに行こうとする輝夜の腕を掴む。

「やめろ、商売の邪魔だ」
「で、でも」

 シュンとする輝夜。俺は、ため息を一つして、肩を落とす。

「今日ここら辺騒がしいな。うるせぇ、これだけ騒がしいなら、誰かが大声も出しても、誰も迷惑じゃないだろうな。……さっ、行くぞ」

 輝夜の肩を叩き、輝夜を置いて歩く。

「おじさん、待ってよ。あっ……」

 輝夜は俺の言葉で察したのか、スーッと息を吸う。


「お肉ありがとう、いつも美味しいよ!!!」


 俺が止める間もなく、輝夜は大声で肉屋にお礼を言った。

 周囲の人がビックリして足を止める中、仏頂面の肉屋のオヤジの口角が上がる。

「うるせぇな。こんな街中で大声を出したらいけません」
「は~い!♡」

 俺は輝夜から全然反省の色が見えない返事を貰った。


 それから野菜屋、魚屋、パン屋にも中銀貨三枚を渡した。輝夜は肉屋の件があったからだろうか、俺が中銀貨を渡すと、頭を下げてお礼を言っていた。

 教会の明日からの食事が豪華になるだろうという予感があった。

 輝夜のお礼は、俺の金配りよりも効果がありそうだ。






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