メスガキに毎日魔法を教えていたら賢者と呼ばれるようになりまして

くらげさん

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崩壊

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「本物の魔法を教えてあげる」

 輝夜はリッシュの『シャイニング・フレア』じゃなく、俺の『ファイアーボール』をコピーした。

 可笑しくて口角が上がる。輝夜、お前、魔法は大きい方が強そうって言ってなかったか。

「本物の魔法を教えてやるだと? そんなマッチ棒に火を付けたような魔法で、何が出来るというんだ!」

 リッシュは魔法を見た目だけで判断している。そこそこな実力はある奴だと思っていたが、魔力感知も鈍いのか。

「一つ一つ、魔法を覚える度に、この魔法の凄さが分かるの」
「何を言っているんだ!?」

 輝夜はファイアーボールを見ながら呟く。

「この魔法で、なにが出来るかまでは、私にも分からない。
 けど……分かることもあるの」

 手のひらの上にある小さなファイアーボールを、そっと前に押し出した。


「貴方の魔法より、この『ファイアーボール』は強い」


 輝夜の言葉を聞いて、リッシュの目がさらに開かれる。
 そして、ギリっと、歯を食いしばる音が聞こえると、眉間に皺を寄せた。

「こ、ここまでバカにされたのは生まれて初めてだ。魔術学院にも通っていない下民が、たまたま魔法が使えたぐらいで調子に乗るな!」

 リッシュは空に掲げた手を、輝夜に向けた。

「僕の魔法とお前の魔法を比べること自体が、あってはならないんだよ!!!」

 すると、リッシュの頭上にあった大人が丸々入るんじゃないかと思うような火の玉が、ゴゴゴッ! と、空気を燃やしながらゆっくりと動く。

「弱い魔法は強い魔法に取り込まれる。下民のちっぽけなプライドごと、僕の魔法で飲み込んで、圧倒的な魔法の違いを分からせてやる!」

 大きな火の玉は、段々と加速して、地面を溶かしながら輝夜へ向かう。

 輝夜の小さな火の玉は、盾のように輝夜の真正面で煌々と輝いている。


 数瞬の間に、リッシュの魔法と、輝夜の魔法が衝突した。

 そして、魔法と魔法の強弱の対立すらも起きず、シュンと、呆気ない音を残し、大きな火の玉が一瞬で消えた。

「知らないの? 弱い魔法は強い魔法に取り込まれるんだよ」

 魔法が、他の魔法に取り込まれる現象は、圧倒的な差がない生まれない。

 輝夜は煌々としている小さな火の玉を、空に掲げる。
 ボンッ! と、空に掲げた小さな火の玉が、大きな火の玉に姿を変えた。

「なっ!?」

 リッシュが口をポカンと開けたまま固まっていた。

 周囲を見ると、他の生徒も、衛兵も、目を大きく開けて、有り得ないという表情を共有していた。


「みっともな~い、ちっぽけなプライドは崩れましたか~? クソザコお兄さん♡」

 輝夜は手で笑みを隠し、リッシュを下に見ている。

「こ、こんなの嘘だ。その魔法はなんだ! ファイアーボール? まったく別の……」

 間違いなく、俺のファイヤーボールだった。

 輝夜がコピーした俺の魔法は、そんなに特別な魔法じゃない。魔力操作が出来れば、誰にでも作れる魔法だ。

 リッシュは、魔力感知の鈍さの次点で、すでにおっ察しだったが、リッシュの中級魔法は、魔力操作が全然出来ていなかった。だから圧倒的な差がついた。
 
 魔力量の才に恵まれたから、そんなに魔力操作を磨く必要がなかったんだろう。

「おじさんに謝って! ごめんなさい出来たら、ボコボコにするのは勘弁してあげる」
「僕が下民に謝るだと! 死んでもごめんだ! 僕は王弟殿下だぞ!」
「そう。じゃ、ボコボコにしてあげるね♡」

 輝夜は空に掲げた火の玉をたずさえたまま、リッシュに近づいていく。

 一歩一歩、近づいてくる輝夜の圧で、リッシュは後退し、尻もちをつく。

「あぁ、あぁぁあ。はっ、早く誰か! 早くコイツを取り抑えろ! 早く! 早くしろ!
 ……な、なんで誰も動かない! 全員不敬罪にするぞ! チッ! 衛兵、衛兵! 命令だ! コイツを殺せ!!!」

 リッシュは必死な形相で、情けない言葉を叫ぶ。だが、誰に向かって叫んでも、一向に誰も動かない。

 怪訝な顔をされるだけだ。

 まるで声が届いていないように。

「……なにが起こっているんだ」

 声が封じられていることに、まだ気づいていないらしい。初級魔法の『シルフード』は風の結界を張る。効果は防音のみだが、使いやすい魔法だ。

 こういう妨害系の魔法は、戦闘の準備段階で発動している場合が多い。俺がそうだからだ。

 学院では何を教えているだ? 妨害魔法の打開の方法は教えて貰っていないのか?
 いや、教えて貰ってはいるが、『シルフード』のようなマイナー魔法は専門外ということか? そんなところだろうな。

 妨害系のメジャーな所だと、魔法を使えなくしたり、体を動けなくしたり、魔力量を制限させたりと、相手自身に掛ける魔法がほとんどだ。

 戦争の時は、仲間を呼ばれるのがめんどくさくて、『シルフード』をよく使っていたが、そういえば学院の教科書にすら載っていなかったな。


「グッ! そうだ。僕に傷をつけたことは許そう。これでどうだ? 良い案だろ」

 リッシュが両手を前に出して、命乞いを始めた。

 見かねた輝夜は歩みを止め、空に掲げている手を、リッシュに向けた。

「まだか、えっと、えっと……ま、魔法を消せ!!! そうしたら不敬罪も無しだ!!!」

 両手を顔を集め、目をつぶったリッシュ。


「うぅ……ん?」

 全然来ることがない魔法に怯えながら、リッシュはゆっくりと目を開けた。

「はい」

 そう平坦な声で、輝夜は『ファイアーボール』を消し、リッシュの言うことを聞いた。





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