メスガキに毎日魔法を教えていたら賢者と呼ばれるようになりまして

くらげさん

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ユニーク魔法

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「へぇ~シスターって凄いんだね」
「……まぁね」

 ユイカの声が暗くなった。まさかユイカは勇者だった頃のことを輝夜には話してないのか?

 言い出したのは俺だが、ユイカに一つ貸しを作っておくか。

「まぁこの国で一つしかない教会のシスターだ。この国の女神信者はコイツのことを嫌でも知ることになるだろうな」
「教会ってここ一つなの!?」
「そうだ」

 ユイカを見ると、瞼は閉じているが、睨んでいるように顔を俺に向けていた。

 俺はユイカから目を逸らし、話も逸らす。

「それよりも久しぶりに来たんだ。妖怪ババアにも会って帰る。妖怪ババアを呼んでくれ」
「アイク君がずっと帰ってこないから、マリアさん激おこだったよ」
「マジかよ」

 ここに来る前も気が重かったが、さらに気が重くなる。

 マリアさんはハーフエルフで、この教会のマザーだ。歳を重ねても容姿が若く、その美貌は衰えることは無かった。

 ユイカが俺の腕を掴み、家に入れようと引っ張ってくる。

「そんなに急がなくてもいいんでしょ? ご飯でも食べていってよ」

 すぐに帰るつもりだったが、俺は「しょうがねぇな」と口にし、腕を引かれるままボロボロの家に足を踏み入れた。

 この家は俺にとって、第二の実家みたいなものだ。それぐらいの想い入れはある。


 マリアさんは恩人だ。

 マリアさんと出会わなければ俺は間違いなく、無謀な復讐なんかをして、あっという間に命を散らしていただろう。

 両親が殺されてから、俺は力無く路地裏で倒れていた。どれぐらい倒れていたかは正直記憶に無い。それだけ何の気力も無く、生きることにすら、どうでもよかった気がする。

 その時にマリアさんと出会ったんだ。

『こんなところで寝ていたら風邪ひくぞ』

 十六歳の男をヒョイッと担いで、マリアさんはそう言った。

 その日、俺はマリアさんから『生きる理由』を貰ったんだ。


◇◇◇◇


 路地裏に倒れていた俺は、変な女に担がれている。その女は結構歩いて、どこかも知らない家に入った。

 この女の家か?

「よ! っと」

 肩に担がれていた俺はソファに投げられた。

 力無く女を見る。するとまず目に入ったのが耳だ。人間よりも長い。

 エルフか。

 エルフの特徴は長い耳で緑の髪、人間とは比べ物にならないほどに長寿で、魔術や弓術に長け、見目麗しい容姿をしていると聞く。

 この目の前のエルフは、長い耳、ポニーテールで結ばれた絹のような緑の髪。目は鋭いが、空のような青の眼には包み込まれるような安心感がある。

 端正な顔立ちで、見目麗しい。胸は無いが、抜群にスタイルがいい。スレンダーで綺麗だ。

 ここまでの特徴が揃えば、エルフだろうということは容易に想像がついた。

 着ている服は白の修道着。教会のシスターだろうか。
 修道着は太ももから足にかけてまで、スリッドがある。そのスリッドから見える引き締められた健康的な生脚がエロい。

「私の身体を舐めるように見るじゃないか。生気が抜けていても、男の子なんだね」

 なんだこのエルフは。なんで俺を家に連れてきたんだ。

 殺して魔力を奪うにしても、俺は元々魔力が少ないから、魔力を奪う意味は無い。
 
「まずお前の名前はなんだ」
「……」

 口を開く気にもならない。

 エルフは俺が口を開く気がないと見ると、自分の首を手でかいた。

「まぁお前の名前は分かっているんだけどな。アイク、お前のことはクリスティーナから頼まれている」
「ッ! なにッ!?」
「おっ! やっと意思のある目をよこしたな」

 俺がクリスティーナという名前に反応すると、エルフはニヤッと口角を上げた。

 クリスティーナは母さんの名前だ。母さんの名前を聞いて、身体に力が入り、寝ている姿勢から起き上がる。

「本当に記憶が消されてないんだな」
「驚いたか、代々継承している聖王国のユニーク魔法が効かない奴が居ないと思わなかっただろ。俺はそんな魔法にかかるほど弱くない」

 母さんの名前を出して、俺が記憶を失ってないことを調べに来たのか。

「この国の奴らは、人の琴線に触れるのが得意だな! お前を殺して、そのまま聖王を殺しに行ってやる!!!」

 ソファから立ち上がり、魔力を血液のように循環させていく。

「怖ぇな、なんで私に殺気を向けてるんだ。言ったろ、クリスティーナに頼まれているんだって。私に何かあったらアイクを頼みますってな」
「この国の奴らの言葉を信用すると思っているのか!」
「そうかよ。でもお前は『ここは教会だ』それだけ言えば十分だと、お前の母さん、クリスティーナは言ってたよ」
「ッ!?」

 母さんは女神の信者だった。毎日だって祈っていた。この国には教会は一つしかない。

「クソが」

 このエルフが言うように、『ここは教会だ』で十分というのは、母さんが用意しそうな言葉だと思ってしまった。

「お前と母さんの関係はなんだ」
「それはもちろん、友達だ。親友だと言ってもいい」

 俺は魔力の循環を解き、ソファに腰を下ろすと、頭に昇った血が段々と下がっていくのを感じた。

 両親を殺した聖王の怒りが収まったわけじゃない。

「お前を確実に信用したわけじゃないが、お前の言っていることは信じよう」
「本当にこれだけで納得するんだな」
「それに聖王国は記憶消去の魔法『一砂の悪戯ロストリムーブ』に絶対の自信がある。俺の記憶がある無いをいちいち調べに来るはずがないと思っただけだ」

 代々継承される聖王国の絶対なる三つのユニーク魔法。
一砂の悪戯ロストリムーブ』『精霊の鳥籠アンチマジック』『赤月召喚フリニール

 このユニーク魔法があるからこそ、この国は大きくなった。


「それはそうだな。でもクリスティーナは最初からアイクが記憶を失っていないと思っていたみたいだぞ」
「母さんらしい」

 母さんはいつも俺のことを天才だと言って、俺が魔法を成功する度、戦果を上げる度に豪華な食事を用意して祝ってくれた。

「クリスティーナを親友と言ったが、私も覚えていないんだ。聖王は記憶消去の魔法を国全体にかけたんだろうな」
「じゃあお前はどうやって俺を見つけられたんだ?」
「それはな。……待ってろ」


 エルフが俺に背を向けて、奥の扉に入っていった。数分が経ち、扉が開くと、エルフの手には分厚い本が握られていた。

 ソファの前のテーブルにバンッ! と本を投げられた。

「それを見ればわかる」

 本を手に取ると、少しの魔力を肌に感じた。

 栞が挟まれたページまで開く。

『私がクリスティーナを忘れていたら、さかのぼれ』と、栞には書いてあった。

 その栞が挟まれたページを覗くと、今日変な信者がいたとか、可愛い弟子が出来たとか、日記みたい物だった。

「これは何だ?」
「私の日記だ」

 日記みたいな物じゃなく、そのまま日記だった。

 パラパラと日記をめくる。クリスティーナの名前があった所を重点に読んでいく。

 前のページ、前のページと、一日一日過去に戻っていく。エルフと母さんのたわいもない話が延々に続いていた。
 そのたわいもない話をエルフの日記には嬉々として書かれてあった。

「城が水面下で慌ただしくなったことは知っていた。だが私もすぐには分からなかった。日記を読むまでは、まさかクリスティーナの言っていたことが、本当に起こるなんて」

 日記には母さんが言ったことが書いてあった。
『私が死んだら記憶が消去される可能性があります。マリア、私の大事な息子、アイクを頼みましたよ』

 その文の横には、俺と母さんが写っている写真まで貼ってあった。

「親友を忘れるなんてな。こんなの一生経験したくなかった。
 日記を見て、すぐに国を探し回った。路地裏を見てみればお前がいた。それでも二日かかったんだ。

 ここは聖王国。無駄な殺生は禁忌だ。
 お前、魔力無しで良かったな。魔力が大量にあったら今頃殺されて、魔力はこの国の奴らに使われていたぞ。胸糞悪ぃよな」
「今でも最悪な気分だ」
「そうか。それもそうだな。私もだ」

 エルフの顔を見ると、本当に母さんのことを悲しんでいるようだ。

 この日記は記憶消去の魔法『一砂の悪戯ロストリムーブ』でも記憶を消去されないほどの魔道具だ。

 世界樹の繊維で作られるスクロールと似たなにか、神器と言っても差し支えないほどの性能。

 これを日記にしているのか? エルフの神経は分からないな。

 日記に視線を落とすと、『クリスティーナが作ってきたケーキが美味かった』と、たわいも無い話が書かれたページだった。

 本を閉じる。

 俺もその味は知っている。母さんのケーキは世界で一番美味い。


「ありがとうな。お前のおかげで気持ちの整理がついた」

 復讐も無謀だとは分かっている。でも俺は聖王を殺したい。

「何を言っているんだ? お前はここに住むんだよ」
「なんで俺がここに住まないといけないんだ!」
「お前の家は無くなっているぞ」
「そんなの分かっている」

 俺は最初から家に帰る気はない。

「まぁすぐ近くにこんな美人が居たら緊張もするか。良いんだぞアイク、私に欲情しても」
「はぁ? 胸無しが」

 ガンッ! と大きい音と共に激痛が走った。

「イッテぇええ!!!」

 すぐに飛び引いてエルフの拳からは逃れたが、頭の上の痛みはしだいに強くなっていく。

「お前は口から躾てやらないといかんな」

 俺は頭の上の腫れを手で押さえながらエルフを睨む。

「そんな死にたがりのお前に、私がお前の生きる理由を作ってやろう」

「はぁ?」

 脳筋エルフはニヤリと笑った。




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