メスガキに毎日魔法を教えていたら賢者と呼ばれるようになりまして

くらげさん

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賢者様

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◇◇◇◇


 俺は今、校門から校舎へと続く道を箒で掃いている。仕事をしながら輝夜の訓練方法を考えていた。

 魔力を意識的に操作する。それが魔力コントロールの基礎中の基礎だ。

 魔力の感覚がなくても魔法は発動出来るが、この基礎が出来ていないと、魔法を発動する時に余分な魔力を消費する。

 まだ魔力の基礎が出来ていない輝夜は、魔法使いのスタート地点にすら立ってないことになる。

『魔力の質』『魔力の調整』『魔力の循環速度』

 魔力コントロールの応用になってくると、魔力の質を上げたり、魔力の循環速度を用いて、魔力量を調整する。

 これが出来て初めて、魔法使いのスタートラインだ。そして魔法使いの魔力コントロールとは、人生を全部かけたとしても、終わることは無いと言われている。

 ある賢者が記した本だと、『人間の魔力は濁っている』と、書いてあった。この本では魔力を研鑽して、濁りを取れば、真の適正で魔法が発動できるという事らしい。

 だが俺もそう思う。魔力を研鑽する度に、魔法の発動に必要な魔力量が減っていった。その上、魔法の性能も上がった。


 輝夜は、意識的に魔力の操作していないのに、魔法のコントロールは高い精度で出来てしまっている。そのせいか、いまさら魔力のコントロールをやろうとしても、全然出来ていなかった。

 このような不完全な魔法の使い方を防ぐために魔法のコントロールよりも、まず、魔力のコントロールから教えるんだが、輝夜が見た先生と呼ばれていたらしいクソ魔法使いのせいで、輝夜は魔法を使う際に変な癖が付いてしまった。

 運が悪かったとしか言えない。

 学院は何を教えているんだ? こんなに学院とはレベルが低い物なのか? 俺は学院の授業に一回も参加したことがない。学院に居た頃はほとんどの時間、図書館、訓練場、研究室で過ごしていたしな。

 さすがにクソ魔法使いは学園にソイツ一人だろう。もしも学院の教師たちがクソ魔法使いと一緒のレベルなら、魔力量の高い教師と生徒以外は魔法を使えなくなるだろう。

 まぁそれは有り得ない。俺が知っているだけでも、学院には賢者と言われている魔法使いもいるし、賢者たちの本にも魔力コントロールは大事だと書いてある。

 しかも教師陣のレベルが低かろうと、俺がこの国の未来の魔法使いを憂う必要は無い。


 必要は無いのだが、未来の賢者が俺に教えてくれと頼むんだからしょうがない。

 輝夜は魔法知識を吸収する頭と、それを実行出来るだけの化け物級の才能がある。だとしてもだ、一度付いた癖を治すのには骨がおれるようで、ずっと『魔力が全然動かない~』と、泣き声を言っていた。

 目で見える分、俺には簡単そうに見えるのだが、逆に目で見えるから難しいのか?

 俺は誰かに教わったこともない。そんな所でつまづいた事も無い。癖を治す方法なんて知らない。

 輝夜には身体に吸い付くイメージで魔力を感じろと言ってある。目で見るんじゃなく、まずは感じろと。

 その間は魔法を使うのは禁止している。この訓練方法が正解とはいかなくても、間違いではないだろう。

 初めて魔力を感じたら少しは魔力を動かせるようになっているもんだ。そこから段々と全身の魔力を動かせるように研鑽を積んでいく。

 魔力よりも、まず最初に、魔法の使い方を覚えてしまった魔法使いが、どうやって魔力の感覚を掴んだのかが知りたい。

 だが、そんな魔法使いが居たとしたら、意識的に魔力が動いていないと自覚したんだろ。それだけでだいぶ凄いな。輝夜が特殊なだけで、普通魔力は見えない物だ。

 見えない物を、自覚するのは本当に難しい。

 そんな奇特な奴、探して見つかるとは思えない。そこら辺の道で宝石を見つけるようなものだ。


「どうするか」

 ん? 待てよ。俺が奇特な奴を探さなくても、この時代に居なくても、過去にいたなら、簡単に知れる方法はあるんじゃないか?

「そうだ。学院にある『夢幻図書館』ならあるんじゃないか?」
「アイクさん、貴方に図書館の入室許可が降りるわけないでしょ」

 優しい声音に振り返ると、そこには賢者様がいた。

「おはようございます。シフォン・リア・アイシクル様」

 シフォンはミルクティーみたいなベージュ色の綺麗な長い髪で、顔も整っている。

 服装は青いリボンのネクタイと、清楚感がある黒のフレアスカートが、ふわりと揺れる。その清楚さを壊すように、キッチリとした白のシャツの下から、はち切れんばかりの大きい胸の主張が強く、正直エロい。

 歩く度にふわふわとなびく髪と、大きな胸が弾む。

「おはよう。久しぶり、ですね。昔みたいに私の事も名前で呼んでもいいのですよ」

 シフォンは頬を薄らと赤く染めて、俺と目が合うと途端に目を横に流した。その繰り返し、いつもの事だ。

「アイシクル様は貴族で、しかも賢者様。それは流石に無理です。私と貴女様では、身分の差がありすぎます」
「……そう、ですか」

 俺とシフォンは幼なじみという奴だ。でもいつの間にか俺とシフォンの間には埋められない明確な身分の差が出来ていた。

「ところで今日は早いですね。遅刻の常習犯だったアイシクル様はどこに行ったのでしょう」
「ふふ、懐かしいですね。朝は今でも辛いですが、この時間帯にしか出来ないこともあるのですよ」

 シフォンは小さな頃から朝が苦手だった。それは今も変わっていないらしい。それに俺の清掃の仕事よりも、学院の仕事は大変だ。たまにだが、シフォンは今回のように朝早くに来る。

「学院も大変ですね」
「そうです。大変なのです。私の想いに気づかない鈍感な人がいるせいで」

 生徒の事か? シフォンを困らすなんてどんな奴だ。授業に一回も出なかった俺みたいな悪ガキか? シフォンに想われているなんて、羨ましい奴め。

「アイシクル様に想われる人は、さぞ幸せ者ですね」
「そうでしょうか?」
「はい、間違いないですね」

 シフォンとのこの朝の些細なやり取りが俺は結構すきだったりする。

「それは良かったです。じゃアイク、また」

 シフォンは嬉しそうに顔をほころばせて、校舎へと歩き出す。


 シフォンの後ろ姿を見ながら、図書館に入る方法を考える。忍び込むとしても、バレたら職が無くなる。それは困る。

 あっ、そう言えば目の前には賢者様がいるんだよな。

「ちょっと待ってください」
「なんでしょうか!」

 俺の声で振り返ったシフォンは、何故か期待した眼差しを俺に向けて来た。

「えっとですね。どうせ図書館の許可は私には降りないですし、賢者様に教えて欲し……」

 もう輝夜の特訓方法は、シフォンに聞いた方が早いだろう。





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