メスガキに毎日魔法を教えていたら賢者と呼ばれるようになりまして

くらげさん

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魔眼

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「お前……魔眼持ちなのか」
「なにそれ?」

 固有スキル『魔眼を持つ者』

「いや、知らないならいい」
「変なの~」

 魔眼は神から与えられる加護で、よく異世界転移してきた勇者が持っていることがある。

 魔眼の能力は様々で、見ることをトリガーに『魔法を消す』『凍らせる』『瞬間移動する』『不治の病でも完壁治す』と、俺が知っている魔眼を適当に思い浮かべてみたが、そのどれもが規格外だ。

 だが魔眼でも、その能力によってランクが付けられることがある。

『経験してきた全ての適正がわかる魔眼』

 この少女の魔眼は、魔眼の中でも間違いなく規格外だ。魔道具で調べられるのは『魔法の属性の適正』と『魔力量』のみで、固有スキルの加護の名までは分からない。

 戦闘において敵になるのは、勇者と魔法使いだけだ。

 この少女の魔眼を使えば、初見で敵がどれぐらいの強さかがわかる。戦闘時に『一瞬の先を無条件で勝ち取る力』がどれほど強いか。俺にこの魔眼があったら、沢山の勇者を保有しているこの国でも一晩で焼け野原に出来る自信がある。

 戦闘以外にも大いに活用出来るしな。

 それほどの魔眼。魔法使いなら一度は夢に見る。
『全知の魔眼』
 神エルトリーデが持っていたとする『神眼しんがん』だ。

 そんな御伽噺でしか聞いたことがないような代物が今俺の目の前にある。だがなんで勇者にならなかったんだ。

「お前、城の中でスクロールを持ったことはないのか?」
「ん? まず城の中に行くことなんてないよ」

 俺の問いに少女は笑って答えた。

「そうか」

 勇者は転移された時に魔力を帯びたスクロールを持たされると聞いていた。スクロールとは言わば『世界樹の繊維で出来た紙』だ。

 そのスクロールは最初に触った人物の保有する固有スキルの名が現れる。

 俺が勇者を選別している者なら、この少女を絶対に手放しはしないだろう。

 まさかこの少女は異世界から転移してきた子供ではないのか。

「教会に入る前の記憶はあるか?」
「ないよ。シスターは記憶喪失だって言ってた」

 洗脳済みか。記憶操作もしている。これでこの少女は異世界から転移してきたことは間違いない。

 ここまで条件が揃っておいて、『勇者じゃなく、ただの黒髪黒目の記憶喪失で、親から捨てられた神眼を持った少女』と言っても誰が信じられるというのか。

 だけど『神眼』を持つこの少女を何故この国は勇者にしなかったんだ? という疑問が残る。

 勇者の利用価値は二通りある。一つは加護が強ければ勇者にして国の戦力にする。もう一つが、あまり強い加護がなくても魔力が強ければ殺して魔力だけを抽出する。

 利用価値がない勇者。強い加護がなく、魔力もない勇者は記憶を消して、野に放つ。

 この少女は利用価値がないと判断されたのは分かる。スクロールで加護を調べてない状態で利用価値がないと判断されたのか、はたまたスクロールで加護を調べたが勇者の選別をしている奴が馬鹿で利用価値がないと判断されたのか。

 一番有り得るのが、「スクロールで加護を調べてない状態で利用価値がないと判断された」という方だ。

 スクロールは扱いが難しく、一枚の紙に一人までの加護を映す。繰り返しは使用できない。要は使い捨てだ。

 世界樹の繊維を使っているからか、スクロール一枚買うのだって、相当な金がいる。俺の仕事で、何十回人生を繰り返せば買えるかな? というぐらいに途方も無い額の金がいる。

 勇者に渡す時に勇者以外の者が触れたりしたら、目も当てられない事態になる。

 だからこの国はスクロールをケチったんじゃないかと推測できる。魔道具で魔力を測った後、魔力の多い勇者にスクロールを渡した。

 魔力の少なかったこの少女はスクロールを持たされずに、野に放たれた。それしか考えられない。

 それしか考えられないが、それ以外なら選別する者が馬鹿だった。というだけだな。


「ねぇ聞いてる?」
「ん? すまん、聞いてなかった」
「だからね。
 おじさんは魔法使いの才能があるの!」

「俺には魔法使いの才能があるのか?」
「うん! 全属性なんて初めて見たよ!」

 全属性が自分の適正かのように興奮する少女。

 俺の全属性も凄いが、魔法の属性よりも固有スキルの方が価値が高いんだけどな。

 この少女は固有スキルよりも魔法の適正があったことの方が嬉しいんだろう。俺も魔法の適正があると知った日の事は、この歳になっても鮮明に覚えている。その日は凄く嬉しかった。

 まぁ俺の場合は水晶で調べただけだから、固有スキルは見れなかったが。

「お前の属性は何だ?」
「私の適正は~風です!」
「風か」

 少女は小ぶりな胸を張って、自信満々に宣言する。少女の魔眼は自分の適正も分かるのか。ん?……っていうか。

「風? 火じゃないのか?」
「あぁそこ気づいちゃう♡ 私、見た魔法を全部一瞬で使える天才なんだ♡」

 適正がない属性の魔法を使えるなんて、天才とかの次元じゃない。それがあり得るとしたら、この世界の常識が通用しない化物だ。


 少女は地面に敷かれたボロボロな紙の上に手を突き出して、

『炎の精霊よ』

 呪文を口ずさむ。

『我の声を聞き、応じたまえ、ファイアーボール』

 ボワッと球状の火がボロボロな紙の真上に出現した。

 黄金の瞳を輝かせ、火の魔法を創造した少女。

「凄く疲れるけどね♡」

 俺はというと、もう笑うしかなかった。

「ははっ」

 乾いた笑いが朝の静かすぎる公園に響き、溶けた。





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