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貢ぎ物の詳細
しおりを挟むコーヒー牛乳を飲みながら僕はシンの横顔を見る。
何年も会いに来なかったシンが今目の前にいる。
それだけで懐かしさと共に約束の地が恋しくなる。
このコーヒーとミルクの味を僕は忘れない。
未開の地。
「僕の名前はジョーカー」
「えっ? なんでこんな所にプレイヤーいんの!」
この世界に生まれて初めて見た人間は呆気なく僕の剣に切り裂かれた。
「こんなもんか」
ただの遊びのつもりで剣を振ったにもかかわらずそれを避けるでも剣で受けるでもなく呆然と立ち尽くしていた人間。
それから数時間後。
「良くもやってくれたな!」
人間は僕を見て剣を構えていた。
さっきの呆気ない人間。
僕は下に見ながら遊びの剣を振るった。
そのどれもが空を斬る。
『おいおい、その程度か?』
僕に一瞬で負けた筈の人間が余裕顔で僕を見下ろしていた。
上を見上げると首元に剣が置かれシーンと場が静まり返る。
「本気出していい?」
「どこのプレイヤーか知らねぇけど躾てやるからかかってこい」
剣を弾き返して地面を蹴る。
キキンと人間は特有のスキルという物を使って僕の速度に追い付いてくる。
身体能力は僕の方が上だと分かるが速度では既に引き剥がせない。
混じり合う剣先は火花を散らし剣の衝撃は地面を抉り木々を薙ぎ倒す。
僕の剣の圧倒的な攻撃力を持ってしても目の前の人間は何気なく撃ち合って来る。
面白いと戦闘のギアを一段二段と上げていくが余裕顔で僕の本気を超えてくる人間。
ここまで強いのか人間は。
音が遅れてやってくる。
キキンと異常な速度のスキル音が耳にこびり付く、いつの間にか僕の剣の方が振り遅れてる事に気がついた。
圧倒的なまでの実力差。
僕がここまで感じたのはロイヤルさんぐらい。
この人間は間違いなくロイヤルさんに近い次元にいる。
ロイヤルさんからは人間は集団でやっと僕達と並ぶ程度の力を持つ者だと聞いた。
なのにこの人間は一人で僕よりも強い。
「っともういいか」
撃ち合う中で僕の剣が手から離れ後ろの地面に突き刺さった。
そして首元に剣が置かれた。
「もうプレイヤーキルなんてするなよ! まったく」
人間はそう言うと剣をスっと消した。
「僕は魔物だ! 人間を倒す事が役目だ」
「なりきりプレイヤーなのか? まぁ人のプレイスタイルは自由だからな」
ウンウンと納得した人間。
「魔物狩りの途中でプレイヤー見たの初めてだから友達になろうぜ」
「えっ?」
「魔物と友達は変か? お前が可愛いからとかで話しかけた訳じゃなくてな! ただここら辺で話が出来る相手って居なかったから少し嬉しくてな」
「僕可愛いの?」
「可愛いとか綺麗とかの部類だろう」
僕は初めて負けた人間に褒められて少し照れてくる。
「お近付きの印に乾杯でもするか」
人間は片手ぐらいの大きさの紙の箱を僕に差し出してくる。
そこに細い棒を刺していた。
僕も同じように刺す。
「カンパーイ!」
箱を突き出す人間。
「か、かんぱい?」
僕もそれに倣った。
棒を口に含んで人間は吸ってるように見えた。
僕も棒を吸ってみると甘い匂いが口いっぱいに広がる。
そして喉を鳴らすと鼻を突き抜ける香ばしい匂いと後に残る苦味がサッパリと残っていた甘さを消してくれる。
「美味しい」
「ふふふ、コーヒー牛乳だ」
「コーヒーぎゅうにゅう?」
不思議な響きだ。
「俺の名前はシン。お前はジョーカーだったか?」
「そうだよ。僕はジョーカー」
お別れするのは寂しいそんな気持ちになってしまった。
「ジョーカーこれから毎日来るから宜しくな」
「えぇ! 毎日来てくれるの」
僕と毎日遊んでくれる! もう寂しくない。
「ジョーカーが気に入ってくれたコーヒー牛乳も持ってくるからな」
「ホントに!」
「明日もこの場所に来るからな。じゃあ」
走り去っていく後ろ姿を眺める。
僕はそのまま手を振ると門番の仕事をスッカリ忘れていた。
「シン、シン、シン」
僕は忘れない様に何度もシンの名前を記憶に刻む。
僕はこの日初めて門番をサボった。
「ジョーカーどうした?」
「なんでもないよぉ」
【スタンピードロスト・条件達成『コーヒー牛乳を捧げる』】
「シン、シン、シン」
僕はシンに抱き着いた。
「おい離れろよ」
僕は久しぶりのシンの感触を肌で感じて嬉しかった。
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