上 下
13 / 51

神様の在り処

しおりを挟む





「うへぇ」

 ある程度受ける授業も終わり、気だるさだけが押し寄せる。

 俺は突っ伏しながら。

「へぇ、トモヤさんってお勉強は中学高校と学年トップだったのですね」

 女子に囲まれ根掘り葉掘り聞かれるトモヤを横目で見ていた。

 オシャレな飲み物はトモヤの横にいた俺にまで振舞ってくれた女子グループ。

 鮮やかな青のお茶? オシャレすぎて俺には味まで分からないような物だった。

 何かの花なのかフルーツなのかのお茶を嗜んでいた。

 ズズっとお茶を啜ると少し睨まれたが何か礼儀があるのだろうか?

 俺はこれをお茶漬けでご飯にかけるとどんな味がするんだろうと現実逃避を始めていた。

「シンもうそろそろ帰らないか?」

「え? あぁ」

 一切話を振られなかった俺は急に声をかけられ立ち上がる。

 別れを惜しむ女子達に「美味しかった」と告げて俺は先に行ってしまったトモヤの後を追う。

 俺の声など聞いていないだろうなと思いながらもお茶のお礼は言いたかった。


 走ってトモヤに追いつく。

「いいのか?」

「ReLIFEでクラン戦闘の打ち合わせがあるから早く帰りたかった」

 コイツもゲーム脳らしい。

「なんか特別なイベントでもあるのか?」

「なんか俺の国が忙しなくてな。ラクリガルドに勝ったクランには凄い額の報酬が手に入ると国からイベントを振ってきたんだ」

 俺の国では何も無かったなと思い返せば他の国ではそんな事もあるのか。

「だから勝つ為の作戦会議だ。何度かあの国の上級クランと他国戦で戦った事があるが勝敗にしたら全敗だからな」

 サラッと俺は上級ですよとアピールするトモヤ。

 涼し気に言うから取り付く島がない。

 コイツはコイツでさっきからピコピコと浮き出したモニターに何かを書いている。

 何かの資料なのか難しそうに打っていた。

 俺からではモニターは視認出来ない仕様だか気になるのは仕方ない。

 もう家も近くなる。

「また明日な」

「また明日」

 短い言葉と共に俺達は別れた。





 長い付き合いに比例して話す事なんかあまりなくなって来たが自分を飾らなくていいぶんトモヤとの時間は好きだった。

 エレベーターで三階に上り一人暮らしのマンションの扉を開ける。

『ご飯にする? お風呂にする? それとも死ぬ?』

 何それ怖い。

 それよりも一人暮らしのマンションに何故女子が。

「大人しくご飯で」

 トモヤの妹のアカネ。

 モデルもやってるらしく俺とは縁もないようなカースト上位の女子。

 難しそうに打っていたのは資料では無くアカネを説得してたのか。

 短いスカートにカッターシャツ。アクセサリーをジャンジャン着けるのではなく俺から見ても飾り気はない。

 自分の可愛さを分かっているのか何もつけない方が良いと分かっているのだ。

 飾る事をしない、兄妹揃ってそういう所は似ているな。

「トモ兄さんにシン兄の好きな食べ物聞いてたんだけど見てよ」

 スっと空中で何かを操作すると俺の目の前に開示されたメールのスクリーンが映し出された。

 何これ論文? 俺の好きな食べ物がズラっと端から端まで描き切られそれが何ページにも渡っていた。

 難しそうに書いてたのってもしかしてこれ?

「私も作るからには美味しい物食べさせたいからね」

 アカネがルンルンと扉を開ければ豪勢な料理が並ぶ。

「流石に全部は作れないから30品目ぐらいに絞ったけどね」

 兄妹揃って融通という物が効かないのだろうか。


 席に座って食べ始めれば凄く美味しかった。

 これだけ作ったのは何日分も困らない様に手をつけてない料理は冷蔵保存するという物だった。

「シン兄はなんで家に来なくなったの?」

 来なくなったと言うよりもトモヤに勉強を教えて貰いに中学高校はテスト前には必ず泊まりに行っていた。

 大学ではトモヤに及ばないまでも中学高校よりも厳しくはないからか勉強する必要が無くなっていっただけで。

「アカネちゃんは俺の事嫌いじゃなかったの?」

「嫌いだったらご飯なんか作りに来ないよ!」

 少し声を張り上げたアカネだが。

「早く死ねって毎度言われてたんだが」

「それは……風呂で遭遇したり部屋着の時に家に来たり着替えてる時に見られたりしたから」

 もじもじと言葉を濁す様にアカネは喋る。

 まぁ、『早く死ね』の印象が強くて風呂で遭遇とかは忘れてるが確かに俺が悪かった。

「私ね、ReLIFE始めたんだけどさ。同じ国に居たらで良いんだけど一緒にやってくれない?」

「魔物狩りとかなら付き合うぞ」

 料理のお礼と思えばそんなお願いならいくらでも付き合う。

 十の国があり、そうそう一緒の国と言う事は有り得ない。

 ご都合主義の神様がこの可憐な女神に味方をしたって会うことはまず不可能だろう。

 それを知ってかしらずか俺の物言いにホントに! と嬉しそうに顔を綻ばせるアカネ。

 俺も本当の妹のように接して来たからか自然と自分の口元が緩むのを感じていた。

 こちらも笑顔になる。






『待った?』

 噴水広場で待ち合わせる。

 初心者装備でもやはりモデルが着れば違うなと感心する。

『待ってないよ。今来たとこ』

 俺はReLIFEの中でアカネと待ち合わせして魔物が出る始まりの丘に向かった。


 どうやらご都合主義の神様は本気を出したようだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モカセドラの空の下で〜VRMMO生活記〜

五九七郎
SF
ネトゲ黎明期から長年MMORPGを遊んできたおっさんが、VRMMORPGを遊ぶお話。 ネットの友人たちとゲーム内で合流し、VR世界を楽しむ日々。 NPCのAIも進化し、人とあまり変わらなくなった世界でのプレイは、どこへ行き着くのか。 ※軽い性表現があるため、R-15指定をしています ※最初の1〜3話は説明多くてクドいです 書き溜めが無くなりましたので、11/25以降は不定期更新になります。

超ゲーム初心者の黒巫女召喚士〜動物嫌われ体質、VRにモフを求める〜

ネリムZ
SF
 パズルゲームしかやった事の無かった主人公は妹に誘われてフルダイブ型VRゲームをやる事になった。  理由としては、如何なる方法を持ちようとも触れる事の出来なかった動物達に触れられるからだ。  自分の体質で動物に触れる事を諦めていた主人公はVRの現実のような感覚に嬉しさを覚える。  1話読む必要無いかもです。  個性豊かな友達や家族達とVRの世界を堪能する物語〜〜なお、主人公は多重人格の模様〜〜

アンプラグド 接続されざる者

Ann Noraaile
SF
 近未来、世界中を覆う巨大な疑似仮想空間ネット・Ωウェブが隆盛を極め、時代はさらに最先端の仮想空間創造技術を求めていた。  そんな中、内乱の続くバタラン共和国の政治リーダーであり思想家でもあるアッシュ・コーナンウェイ・ガタナが、Ωウェブの中で殺害されるという事件が起こった。  統治補助システムであるコンピュータプログラム・ビッグマザーはこの事件を、従来の捜査体系に当てはまらないジャッジシステム案件であると判断し、その捜査権限を首都・泊居(トマリオル)の市警刑事部長岩崎寛司に委ねた。  時を同じくして保海真言は、Ωウェブの中心技術を開発した父親から奇妙な遺産を受ける事になっていた。  この遺産相続を円滑に勧める為に動員された銀甲虫の中には、保海真言が体術を学ぶ(闇の左手)における同門生・流騎冥がいた。  物語は、この三人を軸に、人園と知性を獲得したコンピュータの仮想多重人格との激しい仮想空間内バトルを中心にして展開されていく。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

CombatWorldOnline~落ちこぼれ空手青年のアオハルがここに~

ゆる弥
SF
ある空手少年は周りに期待されながらもなかなか試合に勝てない日々が続いていた。 そんな時に親友から進められフルダイブ型のVRMMOゲームに誘われる。 そのゲームを通して知り合ったお爺さんから指導を受けるようになり、現実での成績も向上していく成り上がりストーリー! これはある空手少年の成長していく青春の一ページ。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

「unknown」と呼ばれ伝説になった俺は、新作に配信機能が追加されたので配信を開始してみました 〜VRMMO底辺配信者の成り上がり〜

トス
SF
 VRMMOグランデヘイミナムオンライン、通称『GHO』。  全世界で400万本以上売れた大人気オープンワールドゲーム。  とても難易度が高いが、その高い難易度がクセになると話題になった。  このゲームには「unknown」と呼ばれ、伝説になったプレイヤーがいる。  彼は名前を非公開にしてプレイしていたためそう呼ばれた。  ある日、新作『GHO2』が発売される。  新作となったGHOには新たな機能『配信機能』が追加された。  伝説のプレイヤーもまた配信機能を使用する一人だ。  前作と違うのは、名前を公開し『レットチャンネル』として活動するいわゆる底辺配信者だ。  もちろん、誰もこの人物が『unknown』だということは知らない。  だが、ゲームを攻略していく様は凄まじく、視聴者を楽しませる。  次第に視聴者は嫌でも気づいてしまう。  自分が観ているのは底辺配信者なんかじゃない。  伝説のプレイヤーなんだと――。 (なろう、カクヨム、アルファポリスで掲載しています)

処理中です...