上 下
9 / 51

決闘申請

しおりを挟む






 スタンピードが終わると綺麗な人からクランの誘いを受ける。

 俺はそれを毎回断っていた。

 対人イベントはここまでで国をブラブラと見て回る。

 流石に今度は手土産の一つも持っていかないとダメだろう。

 運営クランの受付嬢アリサさんに何が良いかと無い頭で思考を巡らせていく。

 国の中をひたすら歩き回り俺のセープポイントである噴水広場まで戻ってくる。

 見つけられなかった。

 やはり男の俺にはプレゼントなど見当もつかない。

「やぁ、ルールブレイカー」

 あだ名を呼ばれ項垂れていた頭をあげる。

 ネコミミをピョピョコと跳ねさせて無邪気に笑う可愛い女の人が居た。

 綺麗な人の後ろにいつも居る人だと俺は思った。

「ごめんなさい、名乗り遅れました。私は最上位クラン ミースティア副団長のミリアよろしくね」

 ミースティアの名を冠するクランはこの国の最上位クランじゃないか。

 俺は深々と頭を下げる。

 するとあの綺麗な人はこの国のマスター? 三年間全然知らなかった。

 だが噂は耳に入る。

 マスターのヒカリさんはプレイヤーの受けが良く、最上位クランに居る実力者なのに初心者プレイヤー達の面倒を率先して見たり、スタンピード失敗時にはプレイヤー全ての負担を一気に引き受けたとか。

 俺が良く耳にする噂でもお人好しだと分かるほどだ。

 国同士が意見交換する場での情報は前の国では金がかかったがこの国では無料で公開されている。

 そんなミースティアの副マスターがなんで俺に会いに来たのか?

 ただなんとなく声をかけた? そんな訳ない。


『私と少し手合わせをしてくれないか?』


 ピコン、ピコンと目の前に決闘申請が送られてくる。

「もし俺が勝ったら?」

「もう勝ったことを考えているんだね。流石ルールブレイカーは伊達じゃない。そうだ! なんでも言う事を聞いてあげるよ」

 ミリアさんの目は無邪気を隠し影が降りる。

「でも私が勝ったらミースティアに強制加入してもらう」

 俺も馬鹿ではない初級クランになりたての俺が最上位クランの副マスターに勝てる訳がない。

 このゲームをやっていて最上位クランを目指さない奴はいないが。

 最初からこのゲームをやっている俺は名もない国の時代を見ている。

 ラグリガルドが最上位に成り上がるまでの過程を直に見ているのだ。

 まさに圧倒的だった事を覚えている。

 その頃の俺は皆んなが見向きもしなかった魔物狩りを「ヤバい楽しい!」と言いながら一日中やっていたが、クランを結成した後は皆んなが憧れるように俺も最上位に憧れた。

 一度とも戦う機会すらなかった最上位プレイヤー。

 その一人と戦える機会が目の前にある。

 負ければ? そんなネガティブな事が頭をチラつくが負けて良い状況なんて今の今まで無かったと考えれば同じだ。

 噴水広場の腰掛けから立ち上がり決闘を承認する。


 客席は無いがこの決闘を遠目で見ているプレイヤー達。

 徐々に人が増えて来たのを境にカウントダウンが始まる。

 ミリアさんはアイテムボックスから剣を取り出し構える。

『私は負けない』

 通る声。吸って吐いた一言に重みがある事が分かる。
 
 俺が刀を抜いて構える頃にはカウントダウンは【0】を指す。

 始まりのブザーと共に俺は仕掛ける。

 詠唱キャンセルを数十回と重ねると瞬間的に移動したような現象が起きる。

 キキキキキンと重なり合うスキル音。

 急激に視界がブレてミリアさんの目の前に瞬時に転移する。

 ミリアさんはそれに反応していたのか軌道上に剣がただ置かれ、俺は自ら串刺しになる事はなく仰け反った形で後ろに跳ねる。

 ミリアさんは俺に剣を投げるとアイテムボックスから取り出したのかもう一つの剣を再び投げる。

 二つの剣で逃げ道が塞がれたと思う間も無く、ミリアさんは再度剣を取り出しキキキキンと重なるスキル音で俺と同じ様に瞬時に距離を詰めて来た。

 そして上段に構えられた剣は俺に向かって躊躇なく振り下ろされる。

 胸を掠めた剣を見送りながら無造作に刀を振り上げミリアさんから距離を取る。

「ルールブレイカーも大したことないじゃん」

 一撃で三割は削られHPバーは緑から黄緑に変色する。

 最上位プレイヤーはプレイヤースキルも最上位らしい。

 それはそうかと一人で納得しながら荒い息を整える。

 詠唱キャンセルは思考操作で自動的にクールタイムと予備動作に入るが動くという工程でキャンセルが発生する。

 予備動作のモーションだけを切り取った革命的な方法。それが初めてプレイヤースキルとして発見されるとプレイヤー達の戦闘をあっという間に異次元な物になった。

【キャンセル】を連続で止めどなく行う事はシビアなタイミングだが可能。

 一つ一つ頭の中で確認する。

 未開の地に居た人型の魔物を思い出す。

 慣れてきた魔物狩りで初めてダメージを受けたのはこの魔物だった。

 その時は一撃で葬られたがと懐かしく思う。

 少し油断してたみたいだ。

 その油断が命取りになる戦いなんてどれくらいやっただろうか。

 最近足を踏みいれていなかった地に思いを馳せながら目の前の敵に思考を切り替える。

 スッキリとした頭で身体が思うように動いた。






【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】


 ザザザと並ぶ固定ダメージのエフェクトにミリアさんから「なんで!」と声が漏れる。

 止めどなく繰り返されるキャンセルの音は単調な音ではなく止まることなく繰り返される。

 一度でもタイミングを見間違えれば隙になるキャンセルモーション。

 この戦闘においてミリアさんの目で俺を捉えることは無いだろう。

 キャンセルの淡い光に対して無造作に剣振り俺を探すミリアさんに見切りをつける。




 俺が立ち止まりミリアさんを見下ろす。

 数分間と長く感じる時間は直ぐに終わり、ミリアさんが膝を着くと勝負はついた。

 ブザーは淡々と鳴らされ勝利の文字が浮かび上がる。

『なんで私が』

 俺を捉えた瞳は微かに揺れ動く。

 どうしようもない焦りや不安、期待や渇望が入り混じって今にも壊れてしまいそうなミリアさん。

 この決闘にどれ程までの想いがあったのか俺には分からないがミリアさんにはすごく大事な事だったのだろう。

 グッと目を瞑り歯を食いしばる。

 だがその後はスっと力を抜いて俺を優しい目で見上げた。

 潔くミリアさんは負けを認める。

『もう好きにしていいよ』

 ミリアさんの敗北で俺はミリアさんになんでも言う事を聞いて貰える権利を手に入れた。

 俺はどうしてもミリアさんに聞いて欲しい望みがある。

 こんな可愛い人に頼めたらどんなにいいだろうか。


『じゃあ1つだけお願いしたいのですが。恩返しする女性への手土産一緒に考えてくれませんか?』


 ミリアさんのポカンとした表情を眺めながらプレゼント選びを手伝って貰えると気持ちもウキウキしてくる。

『もちろん拒否権はないですよ』

 逃げる事は許さんと俺は勝利報酬を否応無くミリアさんに押し付けた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モカセドラの空の下で〜VRMMO生活記〜

五九七郎
SF
ネトゲ黎明期から長年MMORPGを遊んできたおっさんが、VRMMORPGを遊ぶお話。 ネットの友人たちとゲーム内で合流し、VR世界を楽しむ日々。 NPCのAIも進化し、人とあまり変わらなくなった世界でのプレイは、どこへ行き着くのか。 ※軽い性表現があるため、R-15指定をしています ※最初の1〜3話は説明多くてクドいです 書き溜めが無くなりましたので、11/25以降は不定期更新になります。

超ゲーム初心者の黒巫女召喚士〜動物嫌われ体質、VRにモフを求める〜

ネリムZ
SF
 パズルゲームしかやった事の無かった主人公は妹に誘われてフルダイブ型VRゲームをやる事になった。  理由としては、如何なる方法を持ちようとも触れる事の出来なかった動物達に触れられるからだ。  自分の体質で動物に触れる事を諦めていた主人公はVRの現実のような感覚に嬉しさを覚える。  1話読む必要無いかもです。  個性豊かな友達や家族達とVRの世界を堪能する物語〜〜なお、主人公は多重人格の模様〜〜

アンプラグド 接続されざる者

Ann Noraaile
SF
 近未来、世界中を覆う巨大な疑似仮想空間ネット・Ωウェブが隆盛を極め、時代はさらに最先端の仮想空間創造技術を求めていた。  そんな中、内乱の続くバタラン共和国の政治リーダーであり思想家でもあるアッシュ・コーナンウェイ・ガタナが、Ωウェブの中で殺害されるという事件が起こった。  統治補助システムであるコンピュータプログラム・ビッグマザーはこの事件を、従来の捜査体系に当てはまらないジャッジシステム案件であると判断し、その捜査権限を首都・泊居(トマリオル)の市警刑事部長岩崎寛司に委ねた。  時を同じくして保海真言は、Ωウェブの中心技術を開発した父親から奇妙な遺産を受ける事になっていた。  この遺産相続を円滑に勧める為に動員された銀甲虫の中には、保海真言が体術を学ぶ(闇の左手)における同門生・流騎冥がいた。  物語は、この三人を軸に、人園と知性を獲得したコンピュータの仮想多重人格との激しい仮想空間内バトルを中心にして展開されていく。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

CombatWorldOnline~落ちこぼれ空手青年のアオハルがここに~

ゆる弥
SF
ある空手少年は周りに期待されながらもなかなか試合に勝てない日々が続いていた。 そんな時に親友から進められフルダイブ型のVRMMOゲームに誘われる。 そのゲームを通して知り合ったお爺さんから指導を受けるようになり、現実での成績も向上していく成り上がりストーリー! これはある空手少年の成長していく青春の一ページ。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

「unknown」と呼ばれ伝説になった俺は、新作に配信機能が追加されたので配信を開始してみました 〜VRMMO底辺配信者の成り上がり〜

トス
SF
 VRMMOグランデヘイミナムオンライン、通称『GHO』。  全世界で400万本以上売れた大人気オープンワールドゲーム。  とても難易度が高いが、その高い難易度がクセになると話題になった。  このゲームには「unknown」と呼ばれ、伝説になったプレイヤーがいる。  彼は名前を非公開にしてプレイしていたためそう呼ばれた。  ある日、新作『GHO2』が発売される。  新作となったGHOには新たな機能『配信機能』が追加された。  伝説のプレイヤーもまた配信機能を使用する一人だ。  前作と違うのは、名前を公開し『レットチャンネル』として活動するいわゆる底辺配信者だ。  もちろん、誰もこの人物が『unknown』だということは知らない。  だが、ゲームを攻略していく様は凄まじく、視聴者を楽しませる。  次第に視聴者は嫌でも気づいてしまう。  自分が観ているのは底辺配信者なんかじゃない。  伝説のプレイヤーなんだと――。 (なろう、カクヨム、アルファポリスで掲載しています)

処理中です...