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決闘申請
しおりを挟むスタンピードが終わると綺麗な人からクランの誘いを受ける。
俺はそれを毎回断っていた。
対人イベントはここまでで国をブラブラと見て回る。
流石に今度は手土産の一つも持っていかないとダメだろう。
運営クランの受付嬢アリサさんに何が良いかと無い頭で思考を巡らせていく。
国の中をひたすら歩き回り俺のセープポイントである噴水広場まで戻ってくる。
見つけられなかった。
やはり男の俺にはプレゼントなど見当もつかない。
「やぁ、ルールブレイカー」
あだ名を呼ばれ項垂れていた頭をあげる。
ネコミミをピョピョコと跳ねさせて無邪気に笑う可愛い女の人が居た。
綺麗な人の後ろにいつも居る人だと俺は思った。
「ごめんなさい、名乗り遅れました。私は最上位クラン ミースティア副団長のミリアよろしくね」
ミースティアの名を冠するクランはこの国の最上位クランじゃないか。
俺は深々と頭を下げる。
するとあの綺麗な人はこの国のマスター? 三年間全然知らなかった。
だが噂は耳に入る。
マスターのヒカリさんはプレイヤーの受けが良く、最上位クランに居る実力者なのに初心者プレイヤー達の面倒を率先して見たり、スタンピード失敗時にはプレイヤー全ての負担を一気に引き受けたとか。
俺が良く耳にする噂でもお人好しだと分かるほどだ。
国同士が意見交換する場での情報は前の国では金がかかったがこの国では無料で公開されている。
そんなミースティアの副マスターがなんで俺に会いに来たのか?
ただなんとなく声をかけた? そんな訳ない。
『私と少し手合わせをしてくれないか?』
ピコン、ピコンと目の前に決闘申請が送られてくる。
「もし俺が勝ったら?」
「もう勝ったことを考えているんだね。流石ルールブレイカーは伊達じゃない。そうだ! なんでも言う事を聞いてあげるよ」
ミリアさんの目は無邪気を隠し影が降りる。
「でも私が勝ったらミースティアに強制加入してもらう」
俺も馬鹿ではない初級クランになりたての俺が最上位クランの副マスターに勝てる訳がない。
このゲームをやっていて最上位クランを目指さない奴はいないが。
最初からこのゲームをやっている俺は名もない国の時代を見ている。
ラグリガルドが最上位に成り上がるまでの過程を直に見ているのだ。
まさに圧倒的だった事を覚えている。
その頃の俺は皆んなが見向きもしなかった魔物狩りを「ヤバい楽しい!」と言いながら一日中やっていたが、クランを結成した後は皆んなが憧れるように俺も最上位に憧れた。
一度とも戦う機会すらなかった最上位プレイヤー。
その一人と戦える機会が目の前にある。
負ければ? そんなネガティブな事が頭をチラつくが負けて良い状況なんて今の今まで無かったと考えれば同じだ。
噴水広場の腰掛けから立ち上がり決闘を承認する。
客席は無いがこの決闘を遠目で見ているプレイヤー達。
徐々に人が増えて来たのを境にカウントダウンが始まる。
ミリアさんはアイテムボックスから剣を取り出し構える。
『私は負けない』
通る声。吸って吐いた一言に重みがある事が分かる。
俺が刀を抜いて構える頃にはカウントダウンは【0】を指す。
始まりのブザーと共に俺は仕掛ける。
詠唱キャンセルを数十回と重ねると瞬間的に移動したような現象が起きる。
キキキキキンと重なり合うスキル音。
急激に視界がブレてミリアさんの目の前に瞬時に転移する。
ミリアさんはそれに反応していたのか軌道上に剣がただ置かれ、俺は自ら串刺しになる事はなく仰け反った形で後ろに跳ねる。
ミリアさんは俺に剣を投げるとアイテムボックスから取り出したのかもう一つの剣を再び投げる。
二つの剣で逃げ道が塞がれたと思う間も無く、ミリアさんは再度剣を取り出しキキキキンと重なるスキル音で俺と同じ様に瞬時に距離を詰めて来た。
そして上段に構えられた剣は俺に向かって躊躇なく振り下ろされる。
胸を掠めた剣を見送りながら無造作に刀を振り上げミリアさんから距離を取る。
「ルールブレイカーも大したことないじゃん」
一撃で三割は削られHPバーは緑から黄緑に変色する。
最上位プレイヤーはプレイヤースキルも最上位らしい。
それはそうかと一人で納得しながら荒い息を整える。
詠唱キャンセルは思考操作で自動的にクールタイムと予備動作に入るが動くという工程でキャンセルが発生する。
予備動作のモーションだけを切り取った革命的な方法。それが初めてプレイヤースキルとして発見されるとプレイヤー達の戦闘をあっという間に異次元な物になった。
【キャンセル】を連続で止めどなく行う事はシビアなタイミングだが可能。
一つ一つ頭の中で確認する。
未開の地に居た人型の魔物を思い出す。
慣れてきた魔物狩りで初めてダメージを受けたのはこの魔物だった。
その時は一撃で葬られたがと懐かしく思う。
少し油断してたみたいだ。
その油断が命取りになる戦いなんてどれくらいやっただろうか。
最近足を踏みいれていなかった地に思いを馳せながら目の前の敵に思考を切り替える。
スッキリとした頭で身体が思うように動いた。
【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】【1】
ザザザと並ぶ固定ダメージのエフェクトにミリアさんから「なんで!」と声が漏れる。
止めどなく繰り返されるキャンセルの音は単調な音ではなく止まることなく繰り返される。
一度でもタイミングを見間違えれば隙になるキャンセルモーション。
この戦闘においてミリアさんの目で俺を捉えることは無いだろう。
キャンセルの淡い光に対して無造作に剣振り俺を探すミリアさんに見切りをつける。
俺が立ち止まりミリアさんを見下ろす。
数分間と長く感じる時間は直ぐに終わり、ミリアさんが膝を着くと勝負はついた。
ブザーは淡々と鳴らされ勝利の文字が浮かび上がる。
『なんで私が』
俺を捉えた瞳は微かに揺れ動く。
どうしようもない焦りや不安、期待や渇望が入り混じって今にも壊れてしまいそうなミリアさん。
この決闘にどれ程までの想いがあったのか俺には分からないがミリアさんにはすごく大事な事だったのだろう。
グッと目を瞑り歯を食いしばる。
だがその後はスっと力を抜いて俺を優しい目で見上げた。
潔くミリアさんは負けを認める。
『もう好きにしていいよ』
ミリアさんの敗北で俺はミリアさんになんでも言う事を聞いて貰える権利を手に入れた。
俺はどうしてもミリアさんに聞いて欲しい望みがある。
こんな可愛い人に頼めたらどんなにいいだろうか。
『じゃあ1つだけお願いしたいのですが。恩返しする女性への手土産一緒に考えてくれませんか?』
ミリアさんのポカンとした表情を眺めながらプレゼント選びを手伝って貰えると気持ちもウキウキしてくる。
『もちろん拒否権はないですよ』
逃げる事は許さんと俺は勝利報酬を否応無くミリアさんに押し付けた。
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