上 下
1 / 51

永遠の誓い

しおりを挟む




 一、二、三、今!

 味方の詠唱と同時のタイミングで駆け出す。ここで彼が常時詠唱に切り替えて魔法の発動を遅延し、俺が撹乱した所で魔法を放てば……。

『グフッ!』

 俺は背中に衝撃を受けて敵の前まで盛大に飛ばされる。

 後ろを見れば味方。味方に見せるような顔ではなくゴミを見るかの様な目で俺を見ている。

 チッと舌打ちが聞こえて。

『またかよ』そんな声が続く。

 HPのバーに視線をやると緑から段々と黄色に変わり赤に点滅する。

 ゲージが限界を突破すると。

【YOU LOSE】

 周りの歓声とは裏腹に目の前に無機質な文字が浮かんだ。

 中級クランから上級クランに上がる大事な昇格戦。

 絶対に勝たないといけない試合だった。




 これはゲームだ。

 だけどここには遊びでやっている奴らは誰一人おらず、俺もその一人だと言うことだ。

【ゲームで稼いだ金が現実の金になる】

 そんな夢のような世界を体現したVRゲーム【ReLIFE】は瞬く間に世界中に普及した。

 暇を持て余した主婦や学生を始め、仕事をしている人でも副業であったり、仕事を辞めて本業で始めると言う輩までいる始末。それ程に皆はのめり込んで行った。

 このゲーム。いや、この世界に全てを賭けてる人だっている。

 なのにだ。

 俺は【永遠の誓い】の名を持つクランメンバーに不甲斐ないとホームに戻り頭を下げる。

 今までも俺の読みが外れたばかりに昇格戦を何度も逃している。

 クランのランクが上がれば人気も上がり、スポンサーも増えて収益は大きくなる。

 俺はそれを何度も邪魔してるのだ。

 謝って済む話ではないがそれでも。


『クビだ』


 赤い短髪をボリボリかいてクランマスターのレンがウザったそうに口を開く。

 何を言ってるんだ? とポカンと頭を殴られた様にその一言が頭に入って来なかった。

「シンはクビだと言ってる」

 俺の名前を呼び怒気を強めて追い打ちをかけるレン。

 メンバーのクビは最低でもクランメンバー全員の承認がいる。

 このクランには俺を含めて七名クランメンバーがいて、小級クランにはスポンサーがつかない為に入隊脱退は個人の自由に行われるが、中級クランからはスポンサーも付くが制限も付き、個人の脱退宣告は出来ないのだ。

 それもそのはずで中級以上のクランを脱退したメンバーはもうその国のどのクランにも属せない。

 十の国は最上位クランが各国ごとに治めているがその一つの国ではもう他のクランに入る事が出来ないのだ。

 この措置に対しては信頼があるクランから抜けると言う事は訳アリが多い為だと思っている。

 違う国に行くのにもそれなりの金が必要になり、脱退はこの世界では死刑宣告に近い。


 今まで五年も一緒にやってきたメンバー達に視線を配る。

 目の前に脱退の文字が浮き上がると横には【1】と数字が現れる。

 俺は見えないがメンバー達は数字の横に賛成と反対の文字が浮かんでいる。

「マスター我慢した方だよなっと」

「そうよ。こんな奴邪魔でしかないのに」

 ねー。と示し合わせたかのようにケラケラ笑いながらそう言い放った双子の兄妹リオンとライカ。

 直ぐに【3】数字が上がった。

「寄生虫をいつまで置いておくのかとヒヤヒヤしてたところだ」

 メガネをクイッと持ち上げたエックスが眉間に皺を寄せながら言葉を吐き捨てる。

【4】

 俺を先輩先輩といつもニコニコと話しかけてきたスミレに視線を飛ばす。

「キャッ! コイツ今私の事見て来たんですけどキモ!」

 今はガクガクと身体を震わせてレンの後ろに隠れていた。

【5】


 最後の一人は俺と同時期に入って来たサクヤ。

 この世界はボトルポットという装置で全身からデータを抽出するからか髪の色、肌の色、目の色や耳などの細かな部分しか細工が出来ない仕様になっている。

 だから容姿の殆どはリアルに依存していて、サクヤを見れば男なら惚れない要素は無いほど完璧なのだ。

 スタイルはスレンダーで、すらっと伸びた脚線美とサラサラの長い黒髪。性格も気立てが良く凛としていて、俺が密かに惹かれていた女性だ。

 だからか俺はいつもサクヤを笑わせたり気を使ったり必死にアピールしてたんだと思う。

 一番俺がこのメンバーで話してきた時間は多い気がした。

 サクヤならとそんな淡い希望を抱いてしまう。

 好意に似た感情も自惚れかもしれないが確かにあったはずだ。

 スタスタとサクヤは俺の前に歩み出る。

 そして一枚の紙切れを差し出す。

 それを受け取ると。


『じゃあね。シン君』


【6】

 その笑顔と共に光に導かれると俺はこの国の始まりの場所。

 噴水広場に立っていた。
 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モカセドラの空の下で〜VRMMO生活記〜

五九七郎
SF
ネトゲ黎明期から長年MMORPGを遊んできたおっさんが、VRMMORPGを遊ぶお話。 ネットの友人たちとゲーム内で合流し、VR世界を楽しむ日々。 NPCのAIも進化し、人とあまり変わらなくなった世界でのプレイは、どこへ行き着くのか。 ※軽い性表現があるため、R-15指定をしています ※最初の1〜3話は説明多くてクドいです 書き溜めが無くなりましたので、11/25以降は不定期更新になります。

アンプラグド 接続されざる者

Ann Noraaile
SF
 近未来、世界中を覆う巨大な疑似仮想空間ネット・Ωウェブが隆盛を極め、時代はさらに最先端の仮想空間創造技術を求めていた。  そんな中、内乱の続くバタラン共和国の政治リーダーであり思想家でもあるアッシュ・コーナンウェイ・ガタナが、Ωウェブの中で殺害されるという事件が起こった。  統治補助システムであるコンピュータプログラム・ビッグマザーはこの事件を、従来の捜査体系に当てはまらないジャッジシステム案件であると判断し、その捜査権限を首都・泊居(トマリオル)の市警刑事部長岩崎寛司に委ねた。  時を同じくして保海真言は、Ωウェブの中心技術を開発した父親から奇妙な遺産を受ける事になっていた。  この遺産相続を円滑に勧める為に動員された銀甲虫の中には、保海真言が体術を学ぶ(闇の左手)における同門生・流騎冥がいた。  物語は、この三人を軸に、人園と知性を獲得したコンピュータの仮想多重人格との激しい仮想空間内バトルを中心にして展開されていく。

超ゲーム初心者の黒巫女召喚士〜動物嫌われ体質、VRにモフを求める〜

ネリムZ
SF
 パズルゲームしかやった事の無かった主人公は妹に誘われてフルダイブ型VRゲームをやる事になった。  理由としては、如何なる方法を持ちようとも触れる事の出来なかった動物達に触れられるからだ。  自分の体質で動物に触れる事を諦めていた主人公はVRの現実のような感覚に嬉しさを覚える。  1話読む必要無いかもです。  個性豊かな友達や家族達とVRの世界を堪能する物語〜〜なお、主人公は多重人格の模様〜〜

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

CombatWorldOnline~落ちこぼれ空手青年のアオハルがここに~

ゆる弥
SF
ある空手少年は周りに期待されながらもなかなか試合に勝てない日々が続いていた。 そんな時に親友から進められフルダイブ型のVRMMOゲームに誘われる。 そのゲームを通して知り合ったお爺さんから指導を受けるようになり、現実での成績も向上していく成り上がりストーリー! これはある空手少年の成長していく青春の一ページ。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

処理中です...