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ウサギ

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 高層ビルが崩壊する中で、空から見た真下の地面は、クレーターが出来ていた。

 クレーターの中心には、魔法少女の変身が解かれた愛華が居た。

 ウサギは地面にドシンッと着地すると、すぐに愛華に迫る。


 この光景を俺は知っている。

 子供の頃の記憶で、ブレイドルドの大会の帰りに、子供の怪人たちに虐めれるているピンク髪の女の子を助けたんだ。

 それが愛華だったのか? 

「ごめんね……たす、ける、から」

 愛華は手の力だけで起き上がり、歯切れが悪い言葉を並べて、助けると言い放った。

 マジかよ。この状況で助けるって言ったのか? 俺を見捨てれば愛華の力ならすぐに終わるのに、なんでヒーローってこうなんだ。


 虫唾が走る。


 最後には誰も助からない選択を平気で取りやがる。


「ケケケ、オマエハ、シヌンダ」

「私は死なない、勇くんを絶対に助ける!」

 愛華の全身から虹色のオーラが溢れてくる。

 愛華が居る真下の地面から、七色の丸い光が現れて、その光は愛華を中心にクルクルと回りながら上昇する。その丸い光の通った境から愛華の姿が変わり始めた。

 黒い和服のドレスと、白の羽織りを着た姿に変わった。

 胸も盛っていなく、髪は黒で変わっていなかった。周囲を回っていた七色の丸い光は、愛華の身長を超えると薄くなって消えていった。

 普通の変身と違うのは間違いない。

「ソレガ、ドウシタ! オマエハ、コウゲキデキナイ」

 そうだ。俺を見捨てないと、攻撃出来ないぞ。

 愛華は腕をクロスして、耐える構えをした。

「ガハハハハハ、マタ、サンドバッグ、サンドバッグ」

 ウサギは愛華の行動に気を良くしたのか、ガハハと笑い、右腕を大きく振りかぶって、勢いを付けて愛華を殴った。


「ア!?」

 先程のように愛華が吹き飛ばされると思ったが、今度はウサギの拳がへこんだ。


「ア゙、ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
 

 それをウサギは遅れて理解すると、絶叫しながら踊り狂った。

 俺もその隙に手から抜け出そうとしたが、無理だった。

 愛華も攻撃してくることは無く、一時の時間は稼げたが、ウサギがフーフーと息を吐き、落ち着きを取り戻した。

「降参しなさい、貴方じゃ私を倒すのは無理よ」

 俺は愛華とウサギを交互に見ていた。ウサギは愛華から俺に視線を移し、口角を上げてニヤリと笑った。

 なんだ?

 ブンっと重力と風圧が俺を襲う。

 そしてウサギの後頭部が見えた。

 その時、ウサギの考えが分かった。ここから見える愛華も驚いている。

 振りかぶったということは、次に起こる行動など、簡単に想像がつく。

 ウサギは俺を掴んだ拳で、勢い良く愛華の頭上から殴り潰しに掛かる。

 俺は風圧と重力でやられていたが、ウサギの右手のようになると思い、来るべきはずの痛みに備えた。

 地面が迫る恐怖から、俺は目をつぶった。


 間近で花火が爆発したような音がなる。地面がグラグラと笑い、空気が揺れていた。

 だが痛みはない。

 風圧と重力が落ち着いて、俺は目を開けた。
 

「ケケケ、ガハハ、ハハハ、ハ、ハハハハハハ」

 馬鹿みたいなウサギの笑い声と、変身を解いて生身で受けた魔法少女の倒れた姿。

「本当に馬鹿だな、ヒーローって奴は」

 愛華がさっきみたいに腕だけで立ち上がろうとしている。さすが最強の魔法少女だ。

 あんな攻撃を食らってなお、立ち上がろうとするなんて。

 立ち上がったって、関係ない。どうせ助からない選択をするだけだ。

「ガハハハハハ」

「ははは、ははははは!」

 馬鹿みたいなウサギの笑い声に重なるように笑い声を吐く。

「ナンダ」

 ウサギは笑いを邪魔されたことから俺を視界に捉えた。

「ウサギダ魔人様! 魔法少女を倒した姿はあっぱれです!」

「オマエ、ナンダ?」

 俺は腰のベルトの横のボタンに触れると一瞬で黒いスーツ姿になる。そしてボタンを押すと仮面が装着される。

「オマエ、モ、コチラガワ、トイウ、ワケカ」

「はい! 彼氏彼女になって、魔法少女の弱点を探っていましたら、ウサギダ魔人様の見事なトドメの刺し方に感銘を受けました。どうか部下にしてください!」

「ガハハハハハ、ソウカ、ソウカ」

 やっと手から離してくれた。そしてウサギダ魔人様に膝を片方だけ地面に付けて、頭を垂れる。

「は、やく、にげ……」

 顔をあげるまでに回復したらしい愛華が、俺の姿を見て絶句している。

 愛華が口を動かす、でも言葉になっていなかった。

「なん、で」

 やっと出た言葉がなんで? か。

「魔法少女? 分かってて近付いたに決まってんだろ! あぁ、言ってなかったな、俺は悪の組織のモブAです。ごめんな」

 ウサギダ魔人様と俺は二人で笑い、魔法少女を下に見る。

「ウソ……ウソよ」

 愛華の目から綺麗な雫が溢れた。

「ク、クハハ。嘘、嘘か。お前の頭はお花畑ですか? 目の前にあることが信じれないってことかな? なぁ?」

 魔法少女のカラフルな景色を見透すだろう瞳からハイライトが消えていく。

「信じてる奴に裏切られる気分はどうだ! なぁ? どうなんだ!」


「勇くん……信じたくないよ」


 限界を超えて、さらに超えて、大切な存在の為に立ち上がろうとしていた魔法少女の心は違う意味で、限界を迎えた。

 プツンと電源が切れる。そんな感覚、感触があった。

 左手が熱い。

 魔法少女は目を開けたまま、無言のまま、動かなくなってしまった。



 
「ガハハハハハ、オマエニ、コロスケンリ、ヲ、ヤル。サッサト、ヤレ」

「ありがたく頂戴します!」

 俺は……片膝立ちから立ち上がると、装着した仮面を外しながら、魔法少女の所へ行く最中に、ベルトから転移石を取り出した。

 その取り出した転移石を魔法少女に当たるようにゆっくりと放り投げる。転移石が魔法少女の背中に当たると、シュンと音を残し、魔法少女の身体が一瞬で消えた。

「ナニヲヤッタ!」

 この場から消えた魔法少女は、悪の組織の更衣室に居ることだろう。

 ウサギダ魔人と相対す形で振り返り、ウサギダ魔人にも見えるように、左手を俺の目の前に持ってくる。

「これ、何か分かるか?」

 左手をゆっくりと拳から解放すると、紫の炎が現れる。

 俺はここまで純度が高い悪の力を見たことがない。

「ソレハ、アクノ、チカラ」

 ウサギはヨダレを出しながら「クレ、クレ」と、何度も何度も言っている。


 俺は紫の炎を胸の中心にある位置まで持って来て、心に取り込む。

「オマエ、オマエ、オマエ!!!」

「おいウサギ。俺の仕事にヒーローを倒すってのは入ってないんだわ。俺一応バイトだし」

 そう俺はバイトだ、ヒーローを倒すのは俺の仕事じゃない。


 俺の目の前の空間が歪んで、抜き身の刀が現れた。

 怪人になった俺の能力か?

 丁度良いと、刀を取り、自己中のウサギを切り殺すことにした。


「ここからは俺の時間だ」

 刀から白い炎が溢れ出た。





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