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後日談
腕時計を買いに⑤
しおりを挟むあーもう。
案の定、帰ってきた智弥はご機嫌斜めだった。斜めすぎてピサの斜塔みたいに今にも倒れそうだけどなんとか踏ん張ってる。
「……言っとくけど、あれ山崎面白がってるだけだからね」
小さい子に言い含めるように、静かに話してみる。
「分かってるよ」
ソファにどさりと腰をおろし、前髪をくしゃくしゃとかき上げる。
「……分かってるけど……嫌なんだ。あんたはあいつのこと好きだったわけだし。そんでそんなことでイライラする自分も嫌になる」
畜生、とつぶやく声が俯いた髪の隙間から漏れてくる。
二人でエリア担当なんだから分かってよ。
そんな風に悩まなくても、もう俺は智弥のことしか好きじゃないから。
どういう言葉を選んでも、今の智弥には響かないような気がした。
俺は意を決して、智弥の前にひざまずいた。髪を梳き、両手で頬を包み込む。
「光希……?」
自分からするのは生まれて初めてで。
ふに、と柔らかい感触を確かめてから重ねた唇を離す。そっと目をあけておずおずと智弥の顔をのぞき込んだ。
青みがかった灰色の瞳が大きく見開かれて、俺をじっと見つめている。
綺麗だなあ。宝石みたいだ。
うっとりしていると、急に後頭部に手を回されて、引き寄せられた。
「ん……っ」
先ほどほんのり感じた熱を奪うように深く、口づけられる。智弥の舌が別の生き物みたいにうごめいて、俺を身体の奥から満たしていく。透明なガラスの瓶に、小川から掬ってきた混じりけのない綺麗な真水を注がれるように。
ああ、なんで智弥とのキスってこんなに気持ちいいんだろう。
やがて唇を少しだけ離して、俺の額にこつんと自分のそれを落としてきた。
「……俺だけ?」
囁くように言う。
「え……」
「あんたがこんなことすんの、俺にだけ?」
小さい子が愛情を確かめるみたいに、青い宝石が俺の目を見上げてくる。俺はたまらなくなってその黄金色の髪をくしゃりと撫でた。
「うん……智弥だけ」
……俺の態度がきみを不安にさせてるんだな。
そう思うとものすごく切ない想いにとらわれた。
目を細めて俺の髪を撫でてくれる智弥を安心させてあげたい。
どうしよう。どうしたら。
今俺が思いつくのはこんなことしかなくて。
「!? 光希……っ?」
膝立ちのまま、目の前のベルトに手を伸ばす。智弥の中心はすでに硬くなっていて、布地を押し上げていた。なるべくそっと頭を出して、震える指で握りこんだ。
「光希、ちょっと待っ……!」
慌てたような智弥の声が頭上から降ってくる。それに構わず、自らの口に受け入れた。
「……っ」
口の中でドクリとそれが脈動した。
裏筋を舐め上げて、窄めた唇で先端を上下させると、さらに質量を増した。
智弥、感じてくれてる。そのことが嬉しくて、溢れる感情が波のように俺を押し流していく。
根元まで咥え込んで、さらに激しく口を動かす。顎が疲れてきてるのに、止められない。俺の中心も血流が集中して、じんじんと熱を持ってきた。腰が……身体の奥が疼いてたまらない。
自分がこんなにエロいとは知らなかった。……智弥、引いてないといいけど。
「……くっ、……」
我慢してるような、苦しそうな声が聞こえる。いいのに。このまま出してもらって。
「光希っ、離せ……出る、から」
そう言って震える手で頭を抑えられたけど、俺はそれを舐め続けた。口の中で懸命に舌を絡め、智弥を追いつめる。
「あ、くぅ……」
一瞬、さらに大きさを増したかと思うと、生温いぬめった液体が口腔に広がった。
「バカ……光希、離せって言ったのに」
肩で息をしながら智弥が睨んでくるけど、解放感が貼りついた真っ赤な顔で言われても。可愛いだけなんだけど。
くすりと笑って、頬に手をあてる。
「こんなのも、智弥にしかしないから」
祈るように。欲望のままに快感を追い求めた後なのに、何故か教会の祭壇の前で祈りを捧げるような、厳粛な気持ちになった。天を仰ぎ見て、誓いをたてる。――ずっと、ずっと智弥だけ。
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