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21章
21章②
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抑えきれず苦笑いすると、光希が不安げにその形のよい細い眉を寄せた。
「智弥?」
「……まだ目、赤いな」
「智弥が泣かせるからだろ」
滑らかな頬に指をすべらせると、むくれたように、ふいっと顔を背けられた。
「俺、こんなに涙もろくなかったのに。なんか智弥に会ってから泣いてばっかりで……嫌になる」
「……まだ、自分のこと嫌いなのか?」
肩を抱き寄せて、両腕で光希の身体を包み込む。骨ばった、男の身体。だけどこんなにも愛しい。
「そんなにすぐ変われないよ。でも……」
おずおずと、光希の手が智弥の背中に回ってきた。触れたら壊れてしまうかのように、そっと。
「智弥が好きって言ってくれたから……努力、する」
その答えにふっと息を漏らす。
「あんたは頑張りすぎなんだよ。もっと肩の力抜いていい。――せめて、俺の前では」
ちゅ、と音をたてて額にキスを落とす。
もっと泣いてもいい。今までの分、全部。俺の前では自分に素直でいてほしい。
「うん……」
また涙が滲んできて、光希は慌てたように手の甲でそれを拭った。
ふと気づいて、その細い手首を持ち上げる。
「……やっと外したな」
「え」
「あんなやつとお揃いの時計なんかしやがって。……見るたんびにイラついてたんだ」
「うそ。気づいてた……の?」
「バレバレだよ。あいつにもな」
え、うそ、と驚愕の表情を見せる光希を引き寄せて、やや乱暴に唇を塞いだ。
「ん……っ」
一瞬、腕が強張ったが、何度も角度を変えて口づけるうちに、だんだんと力が抜けてくる。歯列を割り、口蓋をなぞると、色香を纏った吐息を漏らした。
「あ……智弥……」
本当はできたとしてもキスまでに留める、と思っていた。だが光希のとろんとした眼差しを前に、智弥の理性はあっさりと陥落してしまった。
頬をたどり耳朶を甘噛みする。そのまま耳の奥へと舌を差し入れると、ぴくんと光希の肩が揺れた。
「光希……好きだ」
全身に染み渡るようにねっとりとささやく。真っ赤に染まった色に気をよくして、ぱくりと耳に噛みついた。
あ、と抑えた声にかえって煽られる。
「……あんたを抱きたい」
縋るように言葉を紡ぐと、光希は潤んだ漆黒の瞳を瞠り、頬をさらに赤く染めた。だがやがてそっと指を伸ばして智弥の髪を梳き、耳にかけ、かすかな声で言った。
「うん……抱いて、ほしい」
その科白が耳に届くか届かないうちに、智弥は再び紅い唇を塞いだ。急くようにネクタイを緩め、シャツのボタンを外していく。隙間から手を差し入れて、光希の感じる箇所を探っていく。
耳から首筋をたどり、鎖骨のくぼみへと舌を這わせる。ぶるっと震えて、智弥の腕をつかんでいる指が食い込んでくる。
いつか、むしゃぶりつきたいと欲情した光希の首筋。跡が残るくらい強く吸い付くと、甘い吐息が智弥の髪を揺らした。
前をはだけさせて、智弥を誘うように色づいたふたつの胸の頂を眺める。すると光希が恥じらいからか、腕を胸の前で交差させて俯いた。
「光希?」
「……ほんとに大丈夫? 俺……男だよ? 胸だってないし……」
「智弥?」
「……まだ目、赤いな」
「智弥が泣かせるからだろ」
滑らかな頬に指をすべらせると、むくれたように、ふいっと顔を背けられた。
「俺、こんなに涙もろくなかったのに。なんか智弥に会ってから泣いてばっかりで……嫌になる」
「……まだ、自分のこと嫌いなのか?」
肩を抱き寄せて、両腕で光希の身体を包み込む。骨ばった、男の身体。だけどこんなにも愛しい。
「そんなにすぐ変われないよ。でも……」
おずおずと、光希の手が智弥の背中に回ってきた。触れたら壊れてしまうかのように、そっと。
「智弥が好きって言ってくれたから……努力、する」
その答えにふっと息を漏らす。
「あんたは頑張りすぎなんだよ。もっと肩の力抜いていい。――せめて、俺の前では」
ちゅ、と音をたてて額にキスを落とす。
もっと泣いてもいい。今までの分、全部。俺の前では自分に素直でいてほしい。
「うん……」
また涙が滲んできて、光希は慌てたように手の甲でそれを拭った。
ふと気づいて、その細い手首を持ち上げる。
「……やっと外したな」
「え」
「あんなやつとお揃いの時計なんかしやがって。……見るたんびにイラついてたんだ」
「うそ。気づいてた……の?」
「バレバレだよ。あいつにもな」
え、うそ、と驚愕の表情を見せる光希を引き寄せて、やや乱暴に唇を塞いだ。
「ん……っ」
一瞬、腕が強張ったが、何度も角度を変えて口づけるうちに、だんだんと力が抜けてくる。歯列を割り、口蓋をなぞると、色香を纏った吐息を漏らした。
「あ……智弥……」
本当はできたとしてもキスまでに留める、と思っていた。だが光希のとろんとした眼差しを前に、智弥の理性はあっさりと陥落してしまった。
頬をたどり耳朶を甘噛みする。そのまま耳の奥へと舌を差し入れると、ぴくんと光希の肩が揺れた。
「光希……好きだ」
全身に染み渡るようにねっとりとささやく。真っ赤に染まった色に気をよくして、ぱくりと耳に噛みついた。
あ、と抑えた声にかえって煽られる。
「……あんたを抱きたい」
縋るように言葉を紡ぐと、光希は潤んだ漆黒の瞳を瞠り、頬をさらに赤く染めた。だがやがてそっと指を伸ばして智弥の髪を梳き、耳にかけ、かすかな声で言った。
「うん……抱いて、ほしい」
その科白が耳に届くか届かないうちに、智弥は再び紅い唇を塞いだ。急くようにネクタイを緩め、シャツのボタンを外していく。隙間から手を差し入れて、光希の感じる箇所を探っていく。
耳から首筋をたどり、鎖骨のくぼみへと舌を這わせる。ぶるっと震えて、智弥の腕をつかんでいる指が食い込んでくる。
いつか、むしゃぶりつきたいと欲情した光希の首筋。跡が残るくらい強く吸い付くと、甘い吐息が智弥の髪を揺らした。
前をはだけさせて、智弥を誘うように色づいたふたつの胸の頂を眺める。すると光希が恥じらいからか、腕を胸の前で交差させて俯いた。
「光希?」
「……ほんとに大丈夫? 俺……男だよ? 胸だってないし……」
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