アマービレ・ブリオーソ・アモローソ amabile,brioso,amoroso.

椎葉ユズル

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19章

19章②

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 だから、そう何度も突きつけないでほしい。耐えられない。

「そうか……」
 山崎は顎に手を当てて、考え込んだ。

「もういいか? 俺だって失恋の痛手からまだ立ち直ってないんだからさ。もうそっとしといてくんねえかな」

「――お父さんの話、聞いたよ」
 立ち上がりかけた智弥の手が止まった。
「わざわざ有休取って、イギリスくんだりまで。きみのために」
「だから……それは、自分と重ねてって言ってたし。友情の範囲内っていうか……」

「あいつが家族ってものに、どれだけ執着してるか、分かるだろ? きみに幸せになってもらいたい。きみにちゃんと家族を作ってほしい。多分あいつの考えてる家族って――」
 父と母、そして子ども。絵に描いたような家族団らん。

「……自分が邪魔になるって思ったんだ、きっと。きみの幸せのために身を引こうって」
 テーブルに乗せた拳に力をこめる。
「か……仮にそうだとしても、じゃあ、どうすればいいんだよ、今さら!」

「――きみの覚悟を知りたい」
「え?」

「きみは、あいつを幸せにする覚悟があるのかい――智弥くん」

「……当たり前だろ……っ」

 それを聴くと、山崎はにっこり極上の笑みを浮かべた。
「じゃ、これ」
 と、スマホを操作して、画面を見せる。

「何これ」

「うちの会社のホームページ。今度、新しい支店作るんだけど、羽根田、今そっちに駆り出されてて。戻ってくるかどうか……きみとそんなことになってるなら、戻って来ないつもりかもね」

 スマホをのぞきこもうとすると、すっとタイミングよく引っ込められた。

「俺からはここまで。あとは自力で頑張って」

 ……悪い顔も出来るんだな、こいつ。
 人間味を感じて逆に少しほっとする。

「ついでに言うと、俺もフラれたんだよ、あいつに」
「え……」

「気持ちにケリをつけたいからって、告白された。そんですぐフラれた」
 自嘲するように肩をすくめる。

「……あんたはそれでよかったんだよな?」

「そうだな。ちょっと寂しい気もしたけど。羽根田がすっきりした顔してたから……まあいいかな」

「あんたは今、幸せなのか?」
 口をついて出た言葉に自分でも耳を疑った。

「――幸せだから、ひとの幸せのお手伝いをしたくなるんじゃないかな」

 眩しいくらいの満面の笑みを見せられて、智弥は悔しくなってしまった。

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