39 / 56
19章
19章②
しおりを挟む
だから、そう何度も突きつけないでほしい。耐えられない。
「そうか……」
山崎は顎に手を当てて、考え込んだ。
「もういいか? 俺だって失恋の痛手からまだ立ち直ってないんだからさ。もうそっとしといてくんねえかな」
「――お父さんの話、聞いたよ」
立ち上がりかけた智弥の手が止まった。
「わざわざ有休取って、イギリスくんだりまで。きみのために」
「だから……それは、自分と重ねてって言ってたし。友情の範囲内っていうか……」
「あいつが家族ってものに、どれだけ執着してるか、分かるだろ? きみに幸せになってもらいたい。きみにちゃんと家族を作ってほしい。多分あいつの考えてる家族って――」
父と母、そして子ども。絵に描いたような家族団らん。
「……自分が邪魔になるって思ったんだ、きっと。きみの幸せのために身を引こうって」
テーブルに乗せた拳に力をこめる。
「か……仮にそうだとしても、じゃあ、どうすればいいんだよ、今さら!」
「――きみの覚悟を知りたい」
「え?」
「きみは、あいつを幸せにする覚悟があるのかい――智弥くん」
「……当たり前だろ……っ」
それを聴くと、山崎はにっこり極上の笑みを浮かべた。
「じゃ、これ」
と、スマホを操作して、画面を見せる。
「何これ」
「うちの会社のホームページ。今度、新しい支店作るんだけど、羽根田、今そっちに駆り出されてて。戻ってくるかどうか……きみとそんなことになってるなら、戻って来ないつもりかもね」
スマホをのぞきこもうとすると、すっとタイミングよく引っ込められた。
「俺からはここまで。あとは自力で頑張って」
……悪い顔も出来るんだな、こいつ。
人間味を感じて逆に少しほっとする。
「ついでに言うと、俺もフラれたんだよ、あいつに」
「え……」
「気持ちにケリをつけたいからって、告白された。そんですぐフラれた」
自嘲するように肩をすくめる。
「……あんたはそれでよかったんだよな?」
「そうだな。ちょっと寂しい気もしたけど。羽根田がすっきりした顔してたから……まあいいかな」
「あんたは今、幸せなのか?」
口をついて出た言葉に自分でも耳を疑った。
「――幸せだから、ひとの幸せのお手伝いをしたくなるんじゃないかな」
眩しいくらいの満面の笑みを見せられて、智弥は悔しくなってしまった。
「そうか……」
山崎は顎に手を当てて、考え込んだ。
「もういいか? 俺だって失恋の痛手からまだ立ち直ってないんだからさ。もうそっとしといてくんねえかな」
「――お父さんの話、聞いたよ」
立ち上がりかけた智弥の手が止まった。
「わざわざ有休取って、イギリスくんだりまで。きみのために」
「だから……それは、自分と重ねてって言ってたし。友情の範囲内っていうか……」
「あいつが家族ってものに、どれだけ執着してるか、分かるだろ? きみに幸せになってもらいたい。きみにちゃんと家族を作ってほしい。多分あいつの考えてる家族って――」
父と母、そして子ども。絵に描いたような家族団らん。
「……自分が邪魔になるって思ったんだ、きっと。きみの幸せのために身を引こうって」
テーブルに乗せた拳に力をこめる。
「か……仮にそうだとしても、じゃあ、どうすればいいんだよ、今さら!」
「――きみの覚悟を知りたい」
「え?」
「きみは、あいつを幸せにする覚悟があるのかい――智弥くん」
「……当たり前だろ……っ」
それを聴くと、山崎はにっこり極上の笑みを浮かべた。
「じゃ、これ」
と、スマホを操作して、画面を見せる。
「何これ」
「うちの会社のホームページ。今度、新しい支店作るんだけど、羽根田、今そっちに駆り出されてて。戻ってくるかどうか……きみとそんなことになってるなら、戻って来ないつもりかもね」
スマホをのぞきこもうとすると、すっとタイミングよく引っ込められた。
「俺からはここまで。あとは自力で頑張って」
……悪い顔も出来るんだな、こいつ。
人間味を感じて逆に少しほっとする。
「ついでに言うと、俺もフラれたんだよ、あいつに」
「え……」
「気持ちにケリをつけたいからって、告白された。そんですぐフラれた」
自嘲するように肩をすくめる。
「……あんたはそれでよかったんだよな?」
「そうだな。ちょっと寂しい気もしたけど。羽根田がすっきりした顔してたから……まあいいかな」
「あんたは今、幸せなのか?」
口をついて出た言葉に自分でも耳を疑った。
「――幸せだから、ひとの幸せのお手伝いをしたくなるんじゃないかな」
眩しいくらいの満面の笑みを見せられて、智弥は悔しくなってしまった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる