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18章
18章②
しおりを挟む最後の和音を奏でて鍵盤から顔を上げると、いちばんに光希の漆黒の瞳が映った。潤んだその瞳には涙が、今にも溢れそうになっている。――そして、その後ろには。
「エマのとは違う……智弥のワルツなんだね」
五年前よりもさらに細くなった体でゆっくりとピアノに近づき……智弥を見る、青みがかった灰色の瞳。
智弥は立ち上がり、久しぶりに正面から和鷹の顔をじっくりと見つめた。以前は見上げる高さだったはずの背丈。こけてしまった頬。優し気な、頼りなげな瞳の色だけが変わらない。――自分と同じその色。
和鷹がそっと腕を伸ばす。抱きしめられる感覚に、遠い記憶が呼び覚まされる。
「……大きくなったね」
「……あんたは痩せたな」
和鷹の瞳からこぼれる涙が、智弥の頬を濡らした。
***
和鷹との抱擁シーンをいつの間にか来ていた岳大や颯にも見られて居たたまれない思いになったが、
『今さらだろ、クソガキ』
と岳大に背中をばしんと叩かれ、それもそうかと思い直した。このおっさん連中には可愛い盛りも、生意気な時期も、すべて見られているわけだから。
『オレら皆、お前のオムツ替えた仲だしな!』
わははは、という笑いの渦の中、龍生が横に来て『俺も替えたかったなあ、お前のオムツ』と言うので、肘で脇腹を思いっきりどついてやった。
その夜は結局ここ実家に泊ることになった。幸い、部屋数だけは腐るほどある。
颯が当然のように光希に部屋のキーを渡しているのを見ても、もう驚く気力が残っていなかった。
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