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18章
18章④
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「おせっかいで、ごめん。勝手に自分と重ねちゃって……迷惑だったよね。でも、俺……智弥の役に、立ちたくて」
だから、なんでそこまで。……俺のために。
「颯さんも言ってたよ。智弥も二十歳になったんだから、もう父親の呪縛から解き放ってあげたいって」
「呪縛……」
そうなのかもしれない。今まで思い込みという茨の檻に囚われて、身動きしようともせずに、やがて諦めてしまっていたのかもしれない。
もっと、和鷹と話をすべきだった。お互いを知る努力をすべきだったのだ。
顔を見たくないと言われようが、避けられていようが。自分もまた、面と向かうのが怖くて逃げ続けていただけだった。
――そのことに光希が気づかせてくれた。
たとえどんなに痛くても。茨が体中を突き刺そうとも。
ふと、昔読んだお伽話の挿絵が思い浮かんだ。茨に囲まれた城で眠っている王女。
――誰が眠り姫だよ。
自分で自分の例えがおかしくて、口元が緩んだ。
「智弥?」
――じゃあこいつが王子様?
……王子のキスで、眠り姫は目を覚ます――。
智弥はそっと手を伸ばした。
目が合う。ふっと逸らされるのをつい追いかけて頬に手を当てる。ほんのり赤く染まったその滑らかな感触に、身体の奥が疼いた。
「智弥……手、はなして……」
手のひらを重ねて外そうとするのを、力を込めて阻む。そのまま顔を寄せて、心の赴くままに、肉厚な唇を自分の唇で塞いだ。
「……っ」
吐息が重なり合う。少し離した唇が赤みを増し、さらに智弥を煽る。
「あ、智弥……待っ、」
何か言いかけた言葉ごと吸い上げて、後ろ髪をかき抱いて舌を絡める。
ん、と漏らした声に背筋が震えた。胸に置かれた拳がぎゅっと握られ、かすかな抵抗を示す。
抱き寄せた身体が小刻みに震えている。唇を離して視線を合わせると同時に、光希は大きくしゃくりあげた。
「光希……」
「ごめん……っ、俺……」
切なげに睫毛を揺らすと、大粒の涙が頬を伝った。
「ごめん……!」
掠れた声が智弥を貫いた。
一瞬動けなくなり、気づけば光希の姿はバタンと激しい音を立てて閉まった扉の向こうへ消えていた。抱きしめていた両腕が虚しく空をつかむ。
――光希が好きだ。いつの間にか、こんなに好きになっていたのに。
「光希……」
あきらかな拒絶。
――俺じゃ、駄目なのか。俺じゃ、あんたを救ってやれないのか。
「くそ……っ」
智弥は頭をくしゃくしゃに掻き混ぜて、ソファに突っ伏した。
だから、なんでそこまで。……俺のために。
「颯さんも言ってたよ。智弥も二十歳になったんだから、もう父親の呪縛から解き放ってあげたいって」
「呪縛……」
そうなのかもしれない。今まで思い込みという茨の檻に囚われて、身動きしようともせずに、やがて諦めてしまっていたのかもしれない。
もっと、和鷹と話をすべきだった。お互いを知る努力をすべきだったのだ。
顔を見たくないと言われようが、避けられていようが。自分もまた、面と向かうのが怖くて逃げ続けていただけだった。
――そのことに光希が気づかせてくれた。
たとえどんなに痛くても。茨が体中を突き刺そうとも。
ふと、昔読んだお伽話の挿絵が思い浮かんだ。茨に囲まれた城で眠っている王女。
――誰が眠り姫だよ。
自分で自分の例えがおかしくて、口元が緩んだ。
「智弥?」
――じゃあこいつが王子様?
……王子のキスで、眠り姫は目を覚ます――。
智弥はそっと手を伸ばした。
目が合う。ふっと逸らされるのをつい追いかけて頬に手を当てる。ほんのり赤く染まったその滑らかな感触に、身体の奥が疼いた。
「智弥……手、はなして……」
手のひらを重ねて外そうとするのを、力を込めて阻む。そのまま顔を寄せて、心の赴くままに、肉厚な唇を自分の唇で塞いだ。
「……っ」
吐息が重なり合う。少し離した唇が赤みを増し、さらに智弥を煽る。
「あ、智弥……待っ、」
何か言いかけた言葉ごと吸い上げて、後ろ髪をかき抱いて舌を絡める。
ん、と漏らした声に背筋が震えた。胸に置かれた拳がぎゅっと握られ、かすかな抵抗を示す。
抱き寄せた身体が小刻みに震えている。唇を離して視線を合わせると同時に、光希は大きくしゃくりあげた。
「光希……」
「ごめん……っ、俺……」
切なげに睫毛を揺らすと、大粒の涙が頬を伝った。
「ごめん……!」
掠れた声が智弥を貫いた。
一瞬動けなくなり、気づけば光希の姿はバタンと激しい音を立てて閉まった扉の向こうへ消えていた。抱きしめていた両腕が虚しく空をつかむ。
――光希が好きだ。いつの間にか、こんなに好きになっていたのに。
「光希……」
あきらかな拒絶。
――俺じゃ、駄目なのか。俺じゃ、あんたを救ってやれないのか。
「くそ……っ」
智弥は頭をくしゃくしゃに掻き混ぜて、ソファに突っ伏した。
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